ジャン‐ピクテ・コンペティション: 人生が変わるロールプレイ大会

11/09/2019

ICRC駐日代表部でインターンシップ中の鳴島 歳紀(なるしま としき)さんが、フランスで開催されたジャン-ピクテ・コンペティションに参加しました。

現地での様子が分かる数々の写真とともに、参加体験をリポートします。

 


開会式直前の様子 本人撮影

 

ジャン-ピクテ・コンペティションとは

“(国際人道法は)人各々が人間的に取り扱われること、すなわち動物または品物としてではなしに人間として――単なる手段としてではなくそれ自体が目的であるものとして――取り扱われることを要求する“

“赤十字は苦痛と死とに対して戦う。それは人間がいかなる状況においても人間的に扱われることを要求する “

—――ジャン・ピクテ

 

ジャン-ピクテ・コンペティション (Concours Jean-Pictet)とは、一週間を通して行われる国際人道法(戦時国際法)のロールプレイの大会です。大会名は、国際人道法の発展に多大なる貢献を果たし、条約や国際法廷の判例にも引用される赤十字の行動の基本原則を定めた元ICRC副総裁のジャン‐ピクテに由来します。架空の国の外務省や軍、反政府武装集団を相手に法律顧問や政治顧問、別の国の外務省、NGOやICRCの立場から交渉をします。英語とフランス語で同時に行われるため、説明は全て両言語にその場で通訳されます。

 

全てのスケジュールはこの“ピクテ・タイム”により厳格に執行される

 

模擬裁判との違い

日本でも毎年予選が行われる国際人道法模擬裁判と比較すると、ジャン‐ピクテ大会はまず”Taking the law out of the Books”を標語としていて、複雑で細かい論点よりも、実際に割り当てられた役としてどう動くかという実践的な部分に重きを置いています。

また、”ピクテ ファミリー”と呼ばれるネットワークを作ることも目的としています。模擬裁判では全員が緊張の中、2-3日かけて議論を闘わせるのに対して、一週間、しかも都市からかなり離れたところで(今回はフランスのオベルネという場所で)全員同じ場所に泊まって行われます。最初に大会側が「勝とうとするな。所詮1/48しか勝てないんだから、たぶん負けるでしょ?!」と言ってくる大会はこれが初めてでした。一日二回午前と午後に連絡事項や次のセッションの説明が行われる“ピクテの時間”は、必ず英語で”Enjoy!!”と言って終わります。そのため、皆適度にリラックスしていて、夜になるとバーで音楽と一緒に踊っている姿が見られました。特にエクアドルやメキシコ代表のラテン系の参加者が大活躍でした。

 

最終日に近づくにつれて加熱するダンス。本人撮影

 

大会後に、今までの参加者約2,000人全員の名簿と現在何をしているか等のリストを受け取ります。これは2年おきに更新されるとのこと。メンバーたちが実際に外交等の場で顔を合わせるということも少なくないようです。

さらに、教育の側面を強く持っているので、出題者グループによって綿密に計算されたストレスが待ち構えています。それらをチームでどう乗り越えるか、ストレス管理が一つの大きなテーマです。チーム内でもそれぞれ得意なことや英語のレベルが違ったりするので、特に準備時間が短いテストで満足の行くパフォーマンスを出せなかったりすると分断が起きてしまったりします。各チームには専属のメンターが用意されていて、セッション毎にミーティングをし、チーム・個人の心理的な問題を打ち明けたり、アドバイスをもらったりして、ともに乗り越え、学んでいきます。

 

大会のテーマの一つであるストレス管理。皆一週間で大きく成長しました。本人撮影

 

メンターとのミーティング。彼らなくしてコンペは乗り切れません。© Christophe Lanord

 

メンターとのミーティング2© Christophe Lanord

 

二つのテスト

毎日二回、8時と14時に“ピクテの時間”があり、連絡事項、また午前・午後のセッションの説明の紙を受け取る。

 

大会は二種類のテストに分かれます。

一つは屋内での会議のような形式で、もう一つは屋外のフィールドテストです。

屋内では、1チーム単独でやるものから、12チームでの大規模な会議まであるので、各々の発言時間や他チームとの関係にかなり気を配る必要があります。また審査員にも様々なキャラクターが割り当てられていて、かなり質問してきたかと思えば無口になったり、礼儀正しい外交官かと思えば先住民の反政府組織の役を演じたりするので、相手の文化への配慮を考えつつ自分たちの意見をしっかり通すことには毎回ものすごいプレッシャーを感じました。

その反面、ロールプレイならではの醍醐味もあります。最初のテストでは会議中に相手の携帯電話がなり、「ツイッターで第三国が軍事介入を開始したって話題になっているんだけど、この場合は適応法はどう変わるの?」と突然聞かれたり、先住民の方とのセッションでは部屋に入った途端葉っぱを頭に降りかけられつつ見るからに苦そうなお茶を一口ずつ回し飲みさせられたり、全く経験したことのない急な状況の変化への対処に迫られました。

 

現役の赤十字職員も役者として参加していて、最も優秀な方は表彰されていました。

 

また、直前に割り当てられる役によっても状況がかなり変わってきます。ある国が軍事介入をする際の会議で、3つの候補うちどれを空爆のターゲットにするかというのがありました。ただしそもそもの爆弾量が1トンを超えていて、かつ標的があるエリアはどこも東京よりも人口密度が高いため明らかに民間人への攻撃を禁止する国際人道法に違反し、軍事上必要だったとして正当化するのはかなり難しく、当然空爆自体を考え直すべきだという方向に議論が進みました。しかし、外務省役を担当したチームは空爆を推進するよう指示があったようで、他のチームから異論の集中砲火を浴びる中で必死に正当化を試みていました。そのチームは特に大変だったみたいですが、セッション後は「こんなんどうしたらいいの!!笑」と周囲と会話が弾みました。、こういうことで仲良くなるきっかけが生まれます。

また大会趣旨にもありますが、法律をただ掲げるだけでは不十分だと感じました。あるセッションでは、人質を救出するためにNGOの物資の中に武装兵を潜り込ませるというミッションも計画されていました。人道法の側面からみるともちろんいけないのですが、人質には子どももいるとかそれなりの言い分を向こうも出してくるので押し切れません。「これはNGO全体の信頼性を長期的に損ねてしまい、彼らが疑心暗鬼になって、ついには物資すら受け取らなくなってしまうかもしれない」と言われて皆初めて納得しました。

 

伝統的な文化を維持する家母制の反政府武装組織との交渉。女性だけの設定なので皆それぞれ女装をし声色を変える。© Christophe Lanord

 

印象に残ったセッションは最後のセッションで、先住民ならではの裁判方法が問題となっていました。それは犬とウサギを放って競争させ、ウサギがゴールにたどり着くまでに犬にかみ殺されたら死刑というものです。私たちはICRCの役回りだったので、これを是正するためにジュネーブ諸条約の共通三条の、判決を下す裁判所は「文明国民」に必要不可欠と見なされる司法上の権利の保障がされる正規のものでなければならない、という条文を提示しましたが、「私たちが文明的でないってどういうこと?!」という強い反発に遭ってしまいました。その後、必死にその誤解を解きつつまた裁判方法を改善させるのは、まさに法律を超えた交渉であり、相手の感情に訴える実に人間味に溢れるドラマでした。

 

国境をまたぐための交渉。事前に通達してあるはずだが外部の人間にはあまり協力的ではなかった。© Christophe Lanord

 

屋内を出てフィールドテストとなると、今までほとんど外部の人間が入ったことが無い伝統的な文化が色濃く残る地域での活動がテーマでした。第三国の軍事介入を受けて中立・公平であるNGO達が初めてその領域に足を踏み入れ、地元の二人の代表に連れられて軍事介入の影響や地域のニーズを調査する、という設定です。

ここで一番感じたことは、その地域の協力が人道支援にとって全てだということです。例えば、まず検問があり、2人の地域の代表が同行しているとはいえど、部外者が立ち入るのはほとんど初めてなので、かなり警戒心を持たれました。銃口を突きつけられ、また同行の地域代表の2人も自分たちに本当に協力的であるかが疑わしくなり、情報を聞き出すのが困難に感じました。また道中、言葉が話せない傷病者とジェスチャーで会話をして、なんとなく虐待を受けている様子が伺えましたが、監督している軍の方が病院に移す等の処置を当然許可しないので、問題がわかっても協力が無いとどうしようもない無力さと悔しさを感じたのを覚えています。

また、組織として行動する難しさも感じました。地元のNGOらしき方々に遭遇し、他のNGOから渡されたという赤十字のマークがついた物資を向こうまで運んできてくれと頼まれました。運搬を引き受けようとしたのですが、実際にその物資が赤十字のものかが不確かであり、毒物等の可能性もあります。それで被害が出てしまった場合、NGOの評判だけでなく外部からの物資全ての安全性が疑われて届けることができなくなるので、結局運ぶことを断りました。他のセッションでは中に武器が入っていたようで、もし運んでいたら武装組織との関与が疑われ、今後のアクセスが難しくなるところでした。常に組織としてのリスクを考えて行動しなくてはならない、オペレーション上の難しさを体験しました。

最後に先住民の地域に向かいましたが、いきなり大声で怒鳴られてチームメイトが固まっていました。セッションによっては、そこに入るために一緒にダンスをさせられたり、犬の鳴きまねをさせられたりしたみたいです。どれも楽しい思い出話になりました。

 

自警団を名乗る人達と彼らに捕らわれた人々。© Christophe Lanord

 

ストレス管理について。

各々のセッションで一番重要なのは準備時間の使い方で、10分しかないのもあれば2時間あるのもあります。ただ膨大な量の法律文書を確認、リサーチしてチームの主張として完成させるのには圧倒的に時間が足りず、雰囲気が悪くなっているチームをいくつも見ました。

私達のチームも大会準備の期間からそんなにまとまってはいなかったと思います。転機は、主催者から送られてきたチーム形成の資料です。「人には3つタイプがあり、視覚、聴覚、運動のどの感覚が優位かで物事の理解の仕方が微妙に異なる」というものでした。これによって、「彼は運動優位だから実際にシミュレーションした方がいい」「彼女は視覚優位だから図でまとめるとわかりやすいはず」と、説の正しさは別としてチームに「いかにして相手にわかりやすく伝えるか」、相手を思いやる精神が根付き、少しずつ歯車が噛み合わさる音が聞こえ始めました。

真面目であるがゆえにプレッシャーを背負い過ぎて準備が不十分になってしまい、ミーティングに来づらくなってしまう人もいました。無理のない分量を与えて、できたらここまでやるという方式にしたり、各々がそういった「真面目の呪縛」に囚われないようある程度の緩さで完璧主義に陥らないようにしました。私のチームでは皆が皆、互いの弱さを確認し、認め合って各々のストレスを互いにコントロールしました。これは結果的に大会の趣旨と一致し、チーム内からベストスピーカーを出すことに貢献したと思います。

 

終わりに

今回の大会の参加によって、国際人道法をロールプレイで体験して学べたのもそうですが、普段会えないような国際刑法のトップにいる人や現場で実際に働いている人、また世界各地の同じ志の仲間と同じテーブルを囲んで話せたのは本当に貴重な経験でした。大会の標語通り、一週間で人生が変わる!というのは本当だと思いました。興味あれば、本大会や同様の大会がマレーシア、そして今年から日本で開催されますので、ぜひ覗いてみてはいかがでしょうか。

 

文:鳴島歳紀

ICRC駐日代表部広報インターン