ICRCのショートフィルム「希望」がカンヌライオンズでグランプリ受賞:審査員の小助川雅人さんにインタビュー

お知らせ 06/09/2018

 

“問題に対するAwareness (認知)を高めて、その後のAction (行動)にまで結びつける”

 

赤十字国際委員会(ICRC)がHealth Care in Danger ~危機に立つ医療活動~のグローバルキャンペーンの一環で制作したショートフィルム、『希望:彼女の命を救えなかった理由』。世界最大規模の広告の祭典、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下カンヌライオンズ)のフィルムクラフト部門でグランプリを獲った本作について、本部門で審査員を務めた資生堂クリエイティブディレクターの小助川雅人さんにお話をうかがってきました。

 


 

―カンヌライオンズとはどのような祭典ですか?フィルムクラフト部門とは?

 カンヌライオンズは、世界最高峰の国際広告賞、そして最新の広告見本市でもあります。もともとは、カンヌ国際映画祭では表彰対象ではなかった広告(を目的として制作された)フィルムを対象にしようというのが始まりです。それから約60年でインターネットやSNSが普及し、IoT*などもコミュニケーションツールになってきて、従来の広告の枠に収まらないものも出てきました。そこで、伝える形がどんどん変わってきたのに合わせるように、カンヌライオンズはクリエイティブに対して授与される賞となりました。

 カンヌライオンズには様々な部門がありますが、僕が審査員を務めたフィルムクラフト部門は、撮影や音楽といったフィルム制作の技術を12のカテゴリーに分けて、それぞれの技術を評価します。各カテゴリーごとに、ゴールド、シルバー、ブロンズという賞があり、その中からフィルムクラフト部門のグランプリが1つ選ばれます。

*Internet of Things、モノのインターネット。身の回りのあらゆるモノ(物)がインターネットにつながる仕組みのこと。

 

 

「どれだけダイレクトに人の心を動かすか」

 

―どのようにして『希望』がグランプリに選ばれたんですか?

 フィルムクラフト部門には審査委員長も含めて11人いましたが、審査最後の日のディスカッションは朝8時半から始まって終わったのが深夜3時過ぎ。意見が割れて紛糾しました。審査にはやはり難しいところがあって、技術をパーツで見ていかないといけません。そう考えたときにフィルムクラフト部門の役割は何だろうなというのがありました。

 フィルムクラフトの「クラフト」には、単なる「技術」だけではなく、もともと「人の役に立つもの」という意味があります。だから、その技術がどれだけダイレクトに人の心を動かしたか、という審査委員長の方針で審査を行いました。

 『希望』はトータルで見たときのリアリティであるとか、演出の仕方、ストーリー展開、撮影方法などを含めたディレクション、そしてストーリーやセリフを評価するスクリプトの2つのカテゴリーで高く評価されました。審査員の一人だったコピーライターが、『父親が女の子に「どこに行くの?」ときかれて、普通なら「病院に行く」と答えると思うが、「お前が生まれたところに行くんだよ」と答える。そのセリフの持っていき方こそまさに「希望」だ。スクリプトとしての技術面に優れている』と高評しました。それが一番の決め手になりました。

 

 

―私たちのような組織がこのようなショートフィルムを公開することで、どのようなインパクトが期待できるでしょうか?

 問題に対する“Awareness(認知)”を高めること、そしてその後の行動に結び付ける力があるのではないでしょうか。

 『希望』の場合、問題となっているのは、医療関係者や医療機関を攻撃してはいけないというルールが守られていないことです。その問題に対して認知を高め、国際社会も含めた具体的なアクションへ結びついてほしいなと思います。

 

―そうですね。ただ、日本では紛争というものがあまりにも遠い存在です。そのような中で、一般の方や民間企業にどんなアプローチをしていくべきなのかがわたしたちの課題となっています。

 今日の企業は、“Diversity(多様性)”や“Sustainability(持続可能性)”、“ソーシャルグッド”など、世の中にどう貢献しているかが問われています。そのような時代の流れで、紛争の問題にも目が向けられる可能性はあるかもしれません。SNSでの発信によって認知を高めるという方法もあります。問題があることを発信するだけでも意味があります。そもそも問題があることを知らないとアクションに移すことはできませんから。

 

―小助川さんがお仕事される中で、社会にアピールしたり人の心を動かすのに「この要素は絶対に欠かせない」というものはありますか?

 その仕事に対する“Dedication(献身)”なのかなと思います。パッションとアクションが結びついていること。どれだけ熱量を込められたかは、やはり人々にダイレクトに伝わると思います。今では広告の方法として、「モノ」よりも「コト」を開発していくことが増えていて、日本でも「モノ」の消費から体験や思い出といった「コト」にシフトしています。そのような中で、紛争の問題も、ちょっとした体験だったりで認知へとつながっていく可能性があるのではないかと思います。

 


【プロフィール】

小助川雅人(こすけがわ まさと

資生堂入社後、営業経験を経て、CMプランナーから、現在はクリエイティブディレクターに。2015年に手がけたWebムービー『High School Girl ? メーク女子高生のヒミツ』で、国際的な広告賞を多数受賞。カンヌライオンズでは、フィルム部門、フィルムクラフト部門の2部門においてゴールドライオンをダブル受賞した。

 

【ICRCキャンペーンフィルム】
『希望:彼女の命を救えなかった理由』

戦闘に巻き込まれ致命傷を負った娘を必死で病院に連れて行った父親を待っていたのは…

 

紛争下での医療への攻撃をなくすためのキャンペーン、 ‘’Health Care in Danger(危機に立つ医療活動)’’の一環として、赤十字国際委員会(ICRC)が2018年5月3日に公開。

その日は、2年前、国連安全保障理事会で紛争下の医療を保護する決議が採択された日でした。日本政府がイニシアチブを取ったこの決議が全会一致で採択されたにもかかわらず、2年経った今も医療への攻撃は後を絶たちません。

日々繰り返される暴力行為への憤り、悲しみに耐えながら、私たち赤十字は助けを必要とする現地の人々のために活動を続けています。

「希望」は、こうした現実に目を向けてもらい、遠い国の出来事を自分事として感じてもらうために制作しました。

そして、公開から一カ月後の6月、カンヌライオンズでフィルムクラフト部門グランプリを受賞しました。

 

安保理決議についてはこちら(外務省ウェブサイト)