各国赤十字社、赤新月社
世界191の国と地域に、赤十字社もしくは赤新月社が存在します(2020年11月現在)。各社は、主に国内で医療や福祉、教育、自然災害など、平時の人間の尊厳を保つための活動を展開しています。日本赤十字社もその一つです。
創始者アンリー・デュナンが唱えた赤十字思想─傷ついた人々を敵味方の区別なく救うこと─は、赤十字国際委員会(ICRC)、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、そして各国の赤十字社、赤新月社の3つの機関によって受け継がれています。この3つの機関が、国際赤十字・赤新月運動(以下、赤十字運動)を構成しています。
紛争地域で災害・医療支援が行われる場合、ICRCが主導機関となることが多く、赤十字運動のパートナー機関と連携しながら任務にあたります。避難民への緊急物資の配付や、離散家族の追跡調査、医療サービスの提供などに加えて、民間人を守る国際人道法や赤十字規約の普及などにも共に取り組んでいます。
世界191の国と地域に、赤十字社もしくは赤新月社が存在します(2020年11月現在)。各社は、主に国内で医療や福祉、教育、自然災害など、平時の人間の尊厳を保つための活動を展開しています。日本赤十字社もその一つです。
各国の赤十字社、赤新月社の連合体がIFRCです。自然災害や移民問題、保健・福祉分野など、紛争にまつわる喫緊の人道ニーズ以外の諸問題に、各社の支援や人材育成を通じて世界規模で取り組みます。世界最大の人道支援ネットワークを有し、約1200万人のボランティアが常時さまざまな活動に携わっています。
赤十字運動は、以下の7つの基本原則を共有します。
私たちがいるところには必ず、人災・天災の犠牲となり、自力では生命と人間の尊厳が保てない人がいます。そうした人たちに手を差し伸べることで、私たちは時として、最後の拠りどころ、最後の希望となるのです。
150年以上前に、戦時に人道支援を行う世界初の国際人道支援組織として生まれた赤十字国際委員会(ICRC)。
以来、人命の救護を最高目的とし、戦場のみならず、平時においても自然災害時などあらゆる人道危機に対応し、人々の生きる力を支える赤十字運動に発展しました。1965年、それまでの一世紀にわたる活動の基礎と限界を踏まえて、7つの新しい基本原則が誕生。赤十字運動の活動に携わるすべての人々の行動指針となっています。
「人道」を絶対的な柱とし、それに続く6つの要素は、その人道を実現するための、いわば手段です。人間の手の届く範囲で、可能な限り人びとに寄り添う。赤十字の理念は、今この時も、世界のあらゆるところで実践されています。
人道とは・・「他人の幸福のために行動するよう仕向けるもの。人間が互いにその運命を改善しあうことが利益であり、かつ互いに助け合うことは負担となるよりも、より多くの満足を人に与えるものである」
戦争、紛争、自然災害などの非常時に、国籍や人種、宗教上や政治的な思想および階級による差別をせずに、助けを必要とする人のニーズを分析して、緊急度の高い順から支援と保護を提供します。
人道支援を実現するため、私たちはあらゆる人々から受け入れられる必要があります。偏見や個人的感情、利害関係などによって、ある個人やグループに対して有利、または不利にすることはあってはなりません。
誰からも疑われることなく、確実に支援を届けるためには、公平であることが必須条件です。
同じく7原則の一つである「中立」と一見似ていますが、その違いは、「当事者のいずれの側にもつかない」という組織の姿勢をあらわす中立に対して、公平は、先入観なく判断・選択・分配・行動するという、支援を届ける際の”約束”です。
赤十字が敵味方の区別なく全ての人を救うためには、組織の中立性がカギとなってきます。
中立とは、紛争から遠ざかり、当事者とも距離を置く、といった回避的・消極的な姿勢ではありません。政府側か反政府側かに関係なく、戦闘に巻き込まれた人たちのもとへ安全にたどり着き、支援と保護を提供する目的で、全ての関係当局・勢力と平等に接し、話し合い、信頼を取り付けるための手段です。政治的介入は一切行わず、人道に則った行動を紛争当事者に繰り返し説きます。
全ての人から信用され、どんな人も助けを求められるよう、赤十字はあらゆる権力から独立していなければなりません。独立性を保つことは、中立を保障することにもなります。政治的、宗教的権威に歩み寄れば、それらに反発する人びとに近づくことは不可能だからです。
このため、現場では基本的に、同じ原則を共有する赤十字運動のパートナーと連携します。ただし、助けを必要とする人たちの利益を最優先に考えた時、他の団体や機関と手を携えた方が良いと判断した場合は、共同で事業を行うこともあります。その際は、共同事業者に赤十字の原則と自主性を完全に尊重してもらうことが条件となります。
国際社会の様々な利害から距離を置いて、自らの意思で決定を下し、行動し、発言しなければ、”人道”という目的を達成することは叶わないのです。
ただし、人道問題を話し合う国連総会などのグローバルな会議や、現場における他団体間の調整会議には、オブザーバーとして参加します。そして、人道上の懸念が漏れなく議論されているか、赤十字としてできることは何なのかを把握し、必要とあれば技術的な支援や助言を提供します。
私たちの支援・保護を必要としている人たちを例外なく救うため、赤十字の事業は無償で提供されます。それは、7つの原則の中の「世界性」と「公平」を守るためでもあります。
赤十字・赤新月のボランティアは、約1200万人が常に何らかの活動に関与しています。その奉仕の精神は、150年以上前に組織誕生のきっかけとなった「ソルフェリーノの戦い」で、アンリー・デュナンが近隣の人々を集めて行った負傷兵の救援活動に既に見て取れます。「人のために。誰かのために」という思いが結集して、世界最大の人道ネットワークを築き上げています。
例外として、平時における赤十字病院などの医療事業は、国や地域医療活動を補完するためであり、無償とは限りません。
1つの国に1つの赤十字社、イスラム教国では1つの赤新月社しか存在することができません。そして、新しく創設された赤十字社、赤新月社を承認するのが、私たちICRCの役割でもあります。
そもそも、戦時における救援を目的に作られた赤十字は、「効果を発揮するために、指揮の単一が必要である」とし、「ゆえに各国赤十字・赤新月社の活動範囲は、その者の属する国の全領土を含む」ことが謳われています。
白地に赤い十字、もしくは赤い三日月という共通の標章と、7つの基本原則を掲げた活動は、人々の安心と信頼を得てはじめて効果を発揮します。そのためには、赤十字、赤新月社は国内のどこへでも駆けつけ、必要な協力者を見出して、救われずに苦しんでいる全ての人に公平に手を差し伸べる組織であり続ける必要があります。
ここでいう「世界性」には、二つの意味が込められています。一つは、全ての人に支援が及ぶこと。もう一つは、世界の至る所に支援が及ぶこと、です。現在192の国に赤十字社、赤新月社が存在し、ICRCもまた、紛争や戦闘の犠牲となっている人たちに手を差し伸べるため、100カ国以上で活動しています。(2020年11月末現在)
たとえば、戦争によって周辺国に散り散りになった家族に対しては、それぞれの国の赤十字社や赤新月社の力を借りて追跡調査をし、再会へと導きます。このように、私たちの活動は国境に阻まれることなく、苦難を強いられている人たちの利益にのみ奉仕するものであって、拠点を置いている国の利益のためではありません。
先に述べた「人道」と「公平」の原則を実践する上でも、必然的に、地球上で助けを求めているあらゆる人にたどり着く必要があります。