自衛隊へのセミナーを東京で初開催―テーマは「文民の保護」

日本
2023.12.05
文民保護に関するセミナーに参加した70名超の自衛隊員との集合写真

©ICRC

赤十字国際委員会(ICRC)は2023年10月18日、自衛隊と共同で文民保護に関するセミナーを東京・四谷で開催しました。

インド太平洋地域で地政学的な緊張と、安全保障上の懸念が高まる昨今、安全保障体制を強化する議論が日本でも活発に行われています。戦時のルールを定めた国際人道法では、武力が伴う紛争時に、民間人である文民の保護と円滑な人道支援の必要性を謳っていることから、今回のセミナーが企画されました。陸・海・空の佐官クラスの自衛隊員70名超と、海上保安庁からの代表者が参加し、戦時下における都市部と海上での民間人保護について、ケーススタディーなども用いながら、活発に意見交換をおこないました。

シミュレーションを用いたケーススタディーでは、軍からすると「国際人道法をしっかり守ったうえで任務を遂行できる」と確信をもっていたことでも、ICRCは「リスクがある」という認識でした。自分たちは人道法を守って戦っていると思っていても、守ったうえでも犠牲者が出る場合がある―そうした認識の違いを知れたのが貴重でした。『ベストプラクティス(最良事例)』にのっとって任務にあたることが重要ということも気付かせてもらいました。

松井 智之 2等空佐 (防衛省 航空幕僚監部 首席法務官付)

160年にわたり紛争地で人道支援をおこなっているICRCは、国際人道法の守護者として紛争時の民間人の保護を徹底するべく、世界各地で政府当局や武器を携帯する組織や勢力と対話をしています。紛争下において国家や軍事組織・部門は、国際人道法上の義務を果たすことが求められ、状況を適切に分析し、計画、訓練、準備を実施することが重要となってきます。

市街地における文民被害の軽減というテーマがいちばん印象に残っています。ICRCからの豊富な知見を受けて議論できたことは非常に有益でした。いかに軍事と文民の双方を考慮しながら作戦を遂行するか―。保護の観点から計画・実行・評価をしっかりすることが、文民保護の効率的な実施につながることを実感しました。

水嶋 愼吾 2等陸佐(防衛省 陸上幕僚監部 法務官付)

日本においても、自衛隊や防衛省、外務省など政府当局と私たちは定期的に対話をしています。世界各地で看過できない人道上の懸念を共有し、ICRCの活動に対して支援や協力を求めるほか、有事に備えるという観点からも、国際人道法の適用例や遵守について組織の知見を共有しています。

武力紛争を有利に進めることが要求される軍側の考えと、人道や文民の保護を一番に考えるICRC側の立場や見解は完全に一致することはないと考えますが、今回のセミナーのように軍側とICRC側が交流し対話することによって相互理解を図りそのギャップを埋めていくことは可能だと思います。現代の武力紛争においては、旧態依然の軍側の常識や考え方は通用しなくなってきているため、各種の経験や研究に基づくICRC側の見解や専門知識を軍側に提供していただくことは非常に重要かつ不可欠です。

荻野目 学 2等海佐(防衛省 統合幕僚監部 首席法務官付)

今回、自衛隊の協力を得て、ICRC駐日代表部が初めて開催したセミナーでは、国際人道法の下での人道支援従事者と軍側の役割を再認識する絶好の場となりました。

国際人道法に関する自衛隊の高い専門性と真剣さを反映したセミナーでした。参加者からの質問や意見を聞くにつけ、人道法にまつわる疑問を高いレベルで考察していることがはっきりとうかがえました。特に、海上における武力紛争時の文民保護の日本の考察は示唆に富み、得るものが多かったです。今後さらに踏み込んだ議論をおこない、ベストプラクティスなども共有しながら、人道法の要件や適用の可能性について対話を継続していきたいです。

アンドレ・シュミット(ICRCアジア大洋州海事担当法律顧問)