国際人道法(IHL)模擬裁判アジア・大洋州地域大会ベスト8入賞、最優秀個人弁論賞受賞のAPUチームにインタビュー
香港で開催された国際人道法(IHL)模擬裁判アジア・大洋州地域大会で、ベスト8入賞、最優秀個人弁論賞受賞を果たした立命館アジア太平洋大学(APU)の日本チームにインタビューをしました。
2025年3月、香港紅十字社と赤十字国際委員会(ICRC)は、IHLアジア・大洋州地域大会を開催しました。香港での地域大会では、アジア大洋州地域から国内予選を勝ち上がった合計24チームが出場し、熱い論戦を繰り広げました。見事優勝に輝いたのは、シンガポール代表のSingapore Management Universityチームでした。
今回お話を伺ったのは、APU学部国際関係学専攻3年のニカム・ガリマ・ラクシュミカントさん、ネイサン・ヒルさん、フランシス・グレゴリオさんの3人です。法学部生でない3人がどのようなきっかけでこの大会に参加し、快挙を成し遂げるまでどんな準備をおこなったのか、お話を聞きました。
※学生たちが武力紛争下におけるさまざまな架空の状況下で国際刑事裁判を行い、検察側と弁護側に分かれてIHLの知識や理解度を競う大会です。毎年、アジア大洋州地域の外交官、裁判官、弁護士をはじめとする法実務者やICRCの法律顧問が裁判官として参加しています。2024年度 IHL模擬裁判・ロールプレイ大会国内予選の結果報告はこちら
出場のきっかけ:「平野准教授との出逢いが、私たちを法律の世界へと導いた」
3人が模擬裁判に挑戦するきっかけとなったのは、APUで国際法を教えていた平野実晴准教授との出会いだったと言います。
二カムさん:本当は平野准教授のもとで卒業論文を書きたかったのですが、先生が転任されてしまって…。その代わりに模擬裁判に挑戦してみようと思いました。
グレゴリオさん:入学前から先生と話す機会があり、法学への関心は持っていました。それに、先輩たちが模擬裁判に参加している姿を見て、学ぶには飛び込むしかないと決意しました。
ヒルさん:実際に参加してみたら、模擬裁判の弁護士になりきる感覚がとても楽しくて、どんどん引き込まれていきました。
最初は全員が「法律の素人」。国内大会での優勝を経て、香港大会への挑戦権を獲得したことで、3人の意識は大きく変わっていきました。
練習の日々:ゼロからの挑戦
国内大会の準備段階では、IHLの基礎知識をほとんど持たず、まさにゼロからの出発だったと3人は語ります。特に、法律用語やロジックに不慣れな中で、実戦形式の準備を進めることは大きな挑戦でした。
二カムさん:知識がない状態からピースを組み合わせていく感覚でした。誰がどの分野に強いかを理解し、補完し合う関係を築くのが課題でした。
グレゴリオさん:一番のハードルは、知識のギャップだったと思います。IHLの限界ではなく、“私たちがIHLをどう理解し、使いこなすか”が試されていました。
地域大会では先輩の指導が限られていたため、3人で戦略を練り、リサーチを行う必要がありました。自分たちで考え抜く時間が圧倒的に多かったと言います。加えて、平野准教授や国内大会で判事を務め地域大会の準備をサポートした齋藤雄介海上自衛隊1等海佐、そして国内大会でともに切磋琢磨して戦った立命館大学チームからの幅広い支援もとてもありがたかったと振り返りました。
言語の壁と法律用語・立ち回りの壁
英語力については全員に問題がなかったとしながらも、法律用語やプレゼンテーションの間合いや言い回しには苦労したと言います。
ヒルさん:僕たちは速く話しすぎて、聞き取りづらいと言われることが多かったんです。ゆっくり話すことが一番難しかったかもしれません。
二カムさん:法律用語は非常に形式的なものなので、説得力を出しながらも、情緒的に見せない技術が求められました。
大会本番:ベスト8、そして最優秀個人弁論賞の獲得
大会で最も印象的だったと3人が振り返るのは、ヒルさんが「最優秀個人弁論賞」を受賞した瞬間。仲間と共に涙し、地域大会での成長を実感した場面でした。
二カムさん:“ネイサンが2位かな?と思っていたら、名前が呼ばれて…その瞬間、全員で泣きました。
ヒルさん:僕は最初からベストスピーカーになると宣言していました。知識の差より、自信の差が勝敗を分けると思っています。
二カムさん:直前に戦略を変更した時、「もうだめかも…」と落ち込んでいた私をネイサンが励ましてくれました。
戦略ミスに気付き、大会直前に大幅な修正を余儀なくされる場面もありました。それでも、柔軟に対応することで、ベスト8に進出する快挙を果たすことができたのです。
IHLの普及のために——若い世代へのアプローチを
ヒルさん:若者の関心を引き付けることが最も重要です。学校教育でロールプレイを導入するのが効果的だと思います。
二カムさん:なぜ一般人がIHLを知る必要があるのか?を考えた結果、自分の権利を知るためという答えに行き着きました。
グレゴリオさん:まずは日本語訳の充実を。そして、若者が参加しやすい大会の開催も重要だと思います。
二カムさん:付け加えると、わたしはIHLや法律に触れる中で、自分の可能性を見つけることができました。
ヒルさん:法律の専門家でなくても、この大会は学びの宝庫です。IHLの普及という意味でも、とても価値がある大会でした。
グレゴリオさん:やはり、何よりも同じ志を持った2人の仲間と出会えたことが、この挑戦を特別なものにしてくれたと思います。
最後に——今後のキャリアとIHLへの思い
大会を通じて3人の進路にも変化がありました。それぞれが法学の道、IHLの道、国際刑事法への関心など、自分なりの目標を見出しています。
二カムさん:将来はIHLにかかわる職業に就きたい。そのためにも、まずは法学の学位を取りたいです。
グレゴリオさん:フィリピン出身として、国際刑事裁判所(ICC)の検察局で働くことにも関心があります。
ヒルさん:まだ迷っていますが、法の分野のスキルを身につけることで、どこでも通用すると信じています。
主催者であるICRCとして、模擬裁判全般を通して3人の間に芽生えた決意が、近い将来何らかの形で実を結ぶことを願っています。
今回、日本弁護連合会からの推薦でキム・チャンホ氏がAPUの学生と共に香港入りし、裁判官役を務めてくれました。法曹界とのこうした連携や協力も、日本でIHLを普及するうえで欠かせません。
ICRC駐日代表部では、2025年もIHL模擬裁判・ロールプレイ大会を実施する予定です。夏頃をめどに駐日代表部のウェブサイトにて告知予定です。今年も各大学からの応募をお待ちしています。