【インタビュー】ICRCの活動現場を訪ねて-山際大志郎さん(経済産業副大臣/自由民主党衆議院議員)
Q:今回ICRCの現場を見ようと思われたのはなぜですか?
山際氏: (ICRC主催の)イベントで、紛争下における性暴力というものが大変ひどい状態にあるということを多くの人に知ってほしい、というメッセージを聞き、最終的には私たちがそれを見に行くべきじゃないかという話になったんです。日本は、ICRCに対して資金を供与しているという立場でもあるので、日本のお金がどのように使われているかを確認するのも、私の役割だと思ったんです。現地では大変貴重な経験をさせていただきました。
Q : 性暴力の被害に遭われた方にお会いされましたね。
山際氏:「聞く家」では、実際被害に遭われた方々に面会し、生々しいお話も随分伺いました。大変痛ましく、日本のような平和な社会では考えづらいようなことが実際に起きているということを身をもって知りました。性暴力を受けると社会から阻害されがちなのですが、「聞く家」に行けば話を聞いてもらえる。そして医療や心理的ケアが必要だということになれば治療も受けられる。治療を受けた方は、もう一度生きようという気持ちになってビジネスを始められ、お子さんをきちんと育てているんですよね。弱い立場に置かれた人なのに、人間の強さがそこにはあって。実際に被害に遭われた方とお話をすれば、その強さのようなものを感じるんです。これはやはり希望だよなぁ、と実感しました。
Q : ICRCは紛争下での性暴力を「予防可能な悲劇」としていますが。
山際氏:結果として何故このようなことが起きてしまっているのかっていうその根っこの部分には、地域社会が持っている共同意識みたいなものがあるのだと思います。私はたくさんの方にお会いして、その根っこの意識とは何なのかを探りました。皆さんが口を揃えて言ったのは、「女性は一番大切な財産だ」ということでした。彼らの言う「財産」とは「物」だったんです。大変な衝撃でした。恐らく先進国の皆さんも同じような衝撃を受けるでしょう。お嫁さんをもらう時に、牛数頭と交換します、という感覚なんです。ですから、社会そのものに人権という概念が存在しない、ということだと思うんですね。そこからして変えていかないといけない。
これは本当に難しいと思うんですけど、時間軸をどうとるかですよね。日本だって、昔と比べて女性の評価や地位は上がってきています。社会が変わっていくに従って、人権を少し意識するような、そういう時がアフリカでもやってくるんだろうと思います。でもただ単に待つのではなくて、恐らく色んな形で働きかけをすれば人権意識が芽生えるスピードというのは早くなるのではないでしょうか。そうしたら恐らくICRCの言うように、予防できるんじゃないかと思います。
Q :長期的な価値観へのアプローチが必要ということですね。
山際氏:被害に遭われた方に、もう少し女性の社会的地位を上げるためにはどうすればいいんでしょうね?と私がお尋ねしたんです。そうしたら彼女は明確にこう答えました。「女性が自分の判断でお金を使えるようにすることです」と。そこで男性の方々に聞いたら、「牛がお金を使うかい?女性だって同じさ」と言うんです。事実そういう会話がいろいろな場面で出てくるわけですね。すなわち、社会はそういう価値観だということです。ですから、処方箋はある意味そこにあるかもしれない。自分でお金を使えるようになれば自立できる、女性の社会的地位は向上する、というのは、彼女たちに対するICRCの支援活動からも納得させられました。
紛争で旦那さんを亡くした未亡人の方は、玉葱を売って生計を立てているとおっしゃっていました。ICRCが彼女の自立支援をしているんですね。玉葱を仕入れるための少額の融資によって、彼女のビジネスは徐々に大きくなるんです。ちゃんと子どもを養えていけるだけの収入はある、というお話でした。最初の元手となるお金を、なんとか家族で生きていかなくちゃ、という危機感とやる気を持った方にお渡しするというのは、凄く価値のあることだと思いました。
Q : 現場の医療活動もご覧になられたそうですね。
山際 氏: 戦闘で怪我をした人たちを扱う戦傷外科にお邪魔しま
した。義足を提供している施設では効果的にリハビリ等も
施されていました。私も獣医学を学んだ医者の端くれなも
のですから、設備や使用している薬などに関する知識はあ
る方ですが、これが日本でいうと30-40年前の標準なんで
す。僕が大学で獣医学を勉強したのが25年くらい前なので
すが、その時を彷彿とさせるような手術室の風景でしたよ。
しかも獣医学の(笑)。でもそれは、昔のものだから安か
ろう悪かろうということではなくて、明確な戦略性に基づ
いた措置なんです。いずれICRCがいなくなることを前提に、
現地の方が扱いやすい、そして手に入れやすい医療器具で
あったり、メンテナンスのしやすい機材であったり、ある
いは汎用性の高い、安い薬品、薬剤というものを使ってい
るんですね。「あー、なるほどなぁ」と理解しました。これって本当に大切なことなんです。「いずれは自立してもらいたい、でも最初は手助けしなければいけない」そのバランスをICRCは非常にシステマティックに戦略性をもって実施していることを確認しました。
今回はですね、DRCの後に、お隣のルワンダに行って、ウガンダに抜けて、南スーダン、エチオピアと通って帰ってきたんです。ルワンダなんて、現代国家と言ってもいいくらいに非常にきれいな街並みが続いていました。ウガンダも、あれだけ長く内紛状態があったけれども、見事に復活して、今や飛ぶ鳥
を落とす勢いの成長率ですよね。大変な状況はあるし、進み具合には早い、遅いの差はあれども、全体として見ればアフリカはもの凄い勢いで進んでいるな、という気がします。だからこそ、DRCも隣国のように進んでいくんじゃないかなという希望は持っていますよ。
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インタビューを終えて:
幼少期は体が弱く、「生命というものに差があるという不条理に、尽きない興味があった」と振り返る山際さん。現代の日本社会、ひいては世界を見た時に「生命がこんなに粗末に扱われてよいものなのだろうか」と疑問を抱かずにいられない、と言います。そんな山際さんとアフリカとの付き合いは四半世紀。学生時代から30数か国を回り、今では「ここはヤバいぞって、肌感覚で危険だとかそうでないとかがわかる」んだそう。今回訪れたのは、邦人退避勧告が出されているDRC東部。「経験を積んで研ぎ澄まされた感覚を持った人間が行って、見てきたことをきちんと伝えなければ。アフリカで起きていることと日本の日常との距離を縮めて、まずは共通認識を持ってもらうことが必要」と熱く語ってくれました。