ビデオゲームは命を救う?

2015.04.10
DIANA-Raffaella

ラファエラ・ディアナ ©ICRC

赤十字国際委員会(ICRC)はこれまで、国際人道法の普及に取り組むビデオゲーム開発者を支援してきました。その活動の一環として、ICRCは2012年よりボヘミア・インターアクティブとパートナーシップを結んでいます。国際人道法の普及と予防活動を指揮するラファエラ・ディアナが、こうしたパートナーシップを交わすことになったいきさつや、今後の可能性、課題などを語ります。

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1.国際人道法の普及が目的とはいえ、バーチャルかつその中で行われる「悪い行い」が現実的な結末をもたらさない媒体手段を用いるというのは、矛盾にも聞こえますが。

ビデオゲームが持つコミュニケーションの力を甘く見てはいけません。仮想上のシナリオでは、「悪い行い」も仮想ですからそれがもたらす結果もまた仮想です。しかし、ゲームを体験することで学ぶことが出来るという可能性が現実に現れます。こうした疑問は、数年前より軍の訓練ツールを開発する研究者によって取り上げられるようになりました。今日、世界中の軍が訓練の際、コンピューターによるシミュレーションを導入していますが、その理由は安価で済むだけでなく、従来の戦闘訓練よりも効果をあげることができるからです。現在最も幅広く使用されている軍事シミュレーションは「スチール・ビースト」や「VBS3」といった、数年前に開発された基本的なビデオゲームです。このような事例からも、仮想シナリオが現実とどう結びつくのか、お分かり頂けると思います。

 

2.ビデオゲーム業界は、ゲームシナリオに「悪い行い」を制限するルールを組み込むことに消極的なのではないかと思いますが、ゲーム開発者との話し合いで困難なことはありましたか?

多くのビデオゲーム制作会社は、それぞれ「悪い行い」を制限するような仕組みを何かしら設けています。ですから、制限を設けること自体は、制作側との話し合いでそれほど問題にはなりません。課題は、この制限をどのようにゲームに組み込み、さらにゲームの楽しみを残しつつ現実味を帯びたシナリオにできるか、という点です。これまでも、市民の命を奪うなど目にあまる残虐行為は制限されてきました。一部のゲーム開発者は、「あなたは一般市民を殺しました、ゲームオーバーです」というように、ゲームを自動的に中止させ、ふりだしに戻すような仕組みの開発も行っています。「コールオブデューティ」はその代表例です。これらはとても基本的な仕組みではありますが、制限が設けられていないよりはずっと良いのです。

戦争ゲームにおいて一般市民の命を奪わないための方法には、例えばシナリオから市民の存在を消してしまうというのがあります。しかし、それはこうしたゲームが売り文句にしている、現実味を帯びたシナリオとは相容れません。例えば「バトルフィールド3」では、一般市民が存在しないことで極めてぎこちないシナリオとなってしまいました。イラクやアフガニスタンなどの戦争の状況を再現しようとしても、一般市民が全く登場しないため、特に視覚面でリアルに描くことができませんでした。

ボヘミア・インターアクティブの事例はより興味深いと思います。この会社のゲームは、一般市民を銃撃してしまった場合、自分の味方が敵になってしまうというシステムを導入しました。これにより、プレーヤーは自分が取った行動がどのような結果をもたらすのか実感できます。私たちは常に、一定の行動を一方的に制限するのではなく、自分の行為によって引き起こされる因果を考えさせる方がより良いと考えています。

この他、ゲーム製作者との話し合いで難しい点は、ICRCの目的が他のNGO同様にビデオゲームを通じて武力を制限することだと見られがちだということです。ゲーム会社と最初の接点を築くことにも苦労するときがありますし、私たちの活動やアプローチを理解してもらうことにも困難を伴います。しかし、ボヘミア・インターアクティブやエンターテイメントソフトウェア協会(米国・コンピューターゲーム産業の業界団体)は、人道原則の普及に向けた話し合いのなかで、オープンな姿勢を見せてくれました。現在はボヘミア・インターアクティブとのパートナーシップを強化しており、このプ取組みは正しい方向に向かっていると確信しています。

 

3.ボヘミア・インターアクティブとのパートナーシップは、ICRCの国際人道法普及活動やその他の支援をどのように後押ししているのでしょうか?

武力紛争の複雑化には拍車がかかっており、それは国際人道法も同じです。しかし、紛争行うのは弁護士ではなく、こうしたルールは戦闘員に理解してもらうよう努めなければなりません。ICRCは、法学・学術専門書を補完する新しい視聴覚ツールの構築を模索してきました。ボヘミア・インターアクティブのゲーム「ARMA3」によって生み出されたケーススタディや教材は、国際人道法を専門としない人や軍人、非国家主体とのコミュニケーションに最適です。「ARMA3」と共に私たちが作成したケーススタディは、ミャンマーやフィリピン、イスラエル、中国、マレーシア、シリア、イラクといった国々に加えて、ICRC職員のトレーニング教材として使われています。「ARMA3」と共に作成した視聴覚ツールにより、日常で起こりうる問題について話し合うことができます。例えば、政治的な配慮をせずに、市街地で爆発性残存物が使用されたらどうするかといった問題を検討することができるのです。これは、中立を掲げるICRCにとって、軍や非国家主体と対話する際に役立ちます。そしてなにより、3ページにわたるケーススタディを読むよりも、ビデオを見る方が好まれるのです。

 

4.ICRCはこの他にもゲーム製作者との協力を模索しています。上記の事例の他に、ビデオゲーム会社とは今後どのような協力をしていきたいと思っていますか?

私たちは確かに他のゲーム製作者にもアプローチしていて、最近はユビソフトと非公式に話合いをしています。プレーヤーに楽しんでもらいながら私たちのメッセージを伝えるにはどうしたらいいか、実際の戦闘員が体験するようなジレンマを感じてもらい、戦争ゲームのリアル感を高めるためにどうすればよいのかということを検討しています。今後の経過を楽しみにしていてください。

新しい試みを模索する一方、この3月に米国・サンフランシスコで行われた「ゲーム開発者会議」では、「戦争法のゲーム(Gaming of Rules of Law)」というパネルディスカッションに、メディア・レッツのダニエル・グリーンバーグ代表やジョージ・メイソン大学のセス・ハドソン教授、ボヘミア・インターアクティブのジョリス・ヴァン・ランドと共に参加しました。ICRCにとって、こうした場所で私たちの考えを議論することは重要なことです。今後の課題は、革新的な発想を新たなゲームに組み込み、プレーヤーに受け入れてもらうことです。国際人道法に基づいていたとしても、ほんの一握りのプレーヤーにしか購入してもらえないとしたら、意味がありません。「ARMA3」のように人気があり、あらゆる部分に国際人道法の内容が散りばめられているゲームのほうが影響力は大きいのです。私たちがゲーム製作者に売ってもらいたいのは、国際人道法の講義ではなく、ゲームなのです!

 

5.エンターテイメント会社ブリザードは最近、ゲーム「ワールド・オブ・ウォークラフト」のプレーヤーが購入した仮想ペットの代金を、米国赤十字社への支援金に充てました。今後国際赤十字運動がより一層ゲーム開発者との協力を試みるなかで、ICRCもゲーム・プラットフォームやバーチャル・リアリティー・ゲームといった分野で存在を示していくことになるのでしょうか?

ゲーム・コミュニティは、募金が必要とされている理由が明確に提示されれば非常に寛大な支援をしてくれます。プレーヤーは独自の文化や慣習、言語を持っているので、ピアツーピア(P2P)アプローチが今後の鍵となります。自らを他のプレーヤーと差別化したいという思いに応える仮想ペットは、非常に良いアイディアだと思います。ボヘミア・インターアクティブが主催する「Make ARMA not War」コンテスト、またこの中で設けられたICRCによる「危機に立つ医療(Health Care in Danger)」特別賞は、どうしたら私たちがゲーム・コミュニティと協力できるのか、また民間セクターと協力してプレーヤーに重要な社会問題に関心を持ってもらうためには何が必要かを示せたという点で、良い成功例だと言えます。

 

6.こうしたゲーム開発者との取組みに加えて、国際人道法の普及活動を支援したり武器携帯者に働きかけていくために、民間セクターとのパートナーシップを検討していますか?

近年、ビデオゲーム産業では多くの先端技術が発展してきました。バーチャルリアリティー(仮想現実)・ゴーグルの人気はより一層高まっており、「アクセスの確保」や「地雷」に関する職員用トレーニングにもぜひ取り入れたい技術です。ゲーム用ノートパソコン上では、災害救助活動や国際人道法に関するワークショップをリアルタイムで実施することができます。ゲーム機用に開発されたモーションキャプチャー技術は、戦争による負傷者や義手・義足患者のリハビリテーションに役立つかもしれません。つまり、ビデオゲーム技術には人の命を救える可能性があるということです。私たちは今後もこうしたゲームの潜在性を発掘するために、ゲーム会社と協力し続けていきたいと思います。

 

原文は本部サイト(英語)をご覧ください。