イベントリポート:TICAD後に考える「アフリカでの人道支援とイノベーションの活用」
赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表部と日本電気株式会社(NEC)は2022年9月21日、第8回アフリカ開発会議(TICAD8)のサイドイベントとして、「アフリカでの人道支援とイノベーションの活用」についてのセミナーを共催しました。オンラインで開催したこのセミナーには、日本やアフリカの参加者を中心に民間企業や政府関係者、学術機関、NGOなどから70名以上が参加しました。
紛争地で人道支援を展開するICRCは、2018年に早稲田大学と、2021年にNECと協定を締結して以来、先端技術を活用した地雷探知のためのソリューションの構築に共同で取り組んできました。今回のセミナーでは、両パートナーに加えて、アフリカ連合や国際協力機構(JICA)、外務省からの登壇者も交えて、アフリカの人道的課題を踏まえた産学連携による取り組み、特に地雷対策のためのイノベーション事例について意見交換を行いました。
セミナーの様子は、こちらの動画でご覧いただけます。
イベント概要
開会の挨拶・基調講演
冒頭の挨拶では、外務省国際協力局の日下部英紀審議官が、ICRCがアフリカにおける人道上の問題の解決に向けて、NECとのパートナーシップをはじめ、日本で産学連携を深めていることを歓迎。「紛争地域に日本が単独で援助を届けることは困難であることから、平和で安全で安定した世界の実現に貢献すべく日本が人道支援を行う上で、ICRCは欠くことのできないパートナー」と述べました。
続いて、パトリック・ユーセフICRCアフリカ局長が基調講演を行い、アフリカにおける人道上の重要課題として「国際人道法の違反」と「避難民の増加」、「食料不足」の3つを挙げました。特に、地雷などの爆発性兵器は、「アフリカなどの地域に武力紛争が残した痛ましい遺産」であり、長期的な影響を及ぼすとして、国際人道法の尊重と遵守が必要であると訴えました。また、こうした課題を克服するためにはパートナーの知見が重要であるとし、ICRCと日本のさまざまなセクターとの連携に期待を示しました。
パネルディスカッション:武器汚染と地雷対策におけるイノベーション
JICAの坂根宏治スーダン事務所長をモデレーターとして迎え、前半は、アフリカ連合とICRCがそれぞれいかに「武器汚染」問題に取り組んできたかを説明。後半は、NECと早稲田大学がICRCと推し進めている、イノベーションを活用した地雷対策のためのプロジェクトを紹介しました。
アフリカ連合の平和・安全保障局のピーター・オティム氏が、1997年に開催された第一回アフリカ地雷専門家会議について言及。「地雷のないアフリカ」を目指す行動計画を加盟国が承認したことで問題への取り組みが進んできた経緯を語りました。一方で、加盟国55カ国のうち36カ国が地雷の影響を受けているにも関わらず、実務レベルでは、高い除染費用と限られた財源が大きな壁となって立ちはだかり、いまだ目標達成に苦慮していることを指摘。さまざまなセクターと連携し、技術・財政の両面からの支援を積極的に募る姿勢を示しました。
ICRCイノベーション部門の責任者であるナン・バザードは、民間人への被害を抑えるために、国際人道法の守護者として民間人と戦闘員を区別する義務を課す「区別の原則」に沿って、「武器汚染」の問題に取り組んでいることを説明。「2020年の地雷による死傷者は7,000人を超えていて、そのうち8割が民間人」としたうえで、地雷の使用は「区別の原則」に反すると訴えました。
早稲田大学先進理工学部応用物理学科の澤田秀之教授は、サーマルカメラと機械学習を応用した地雷探知プロジェクトについて紹介。具体的には、サーマルカメラをドローンに取り付けて、埋設された地雷が発する熱を検知することでその位置を特定する他、機械学習で地雷の種類を識別するための研究を行っていることを、ヨルダンやデンマークで行った実証実験の写真や動画を交えて説明しました。
NEC欧州研究所のエルノー・コヴァーチェ氏は、画像認識や人口知能(AI)技術などを応用して、埋設された地雷の場所を推測するプロジェクトを紹介。サーマルカメラで撮った映像や過去のデータベース、個人が作成したレポートなどさまざまなソースから収集したデータに加えて、その国の社会経済や歴史、地理などの膨大な情報をAIで分析することで、地雷が敷設されている可能性がある場所をドローンの操縦者が高精度に推測できるソリューションの実現を目指して取り組んでいると語りました。また、人道支援に関与する組織がデータを共有する際に欠かせない「データ保護」についても、対策を進めていると補足しました。
閉会の挨拶
一連の意見交換を終え、NECの室岡光浩執行役員兼CCOがセミナーを締めくくりました。今日私たちが直面している紛争や気候問題、コロナ禍など、複雑に絡み合う問題を技術だけで解決することは難しいとし、人道・公共・学術・民間セクターが最善のソリューション構築を目指して連携を強化することが重要だと語りました。