法の強化
ICRCは国際人道法の「あらゆる発展を準備する」という使命も持っています。この任務を果たすために、ICRCは、特に、外交会議への提出のための文書草案を作成したり、定期・不定期の会議を開くように働きかけ、触媒の役割を果たします。
例えば、当初は傷病者の保護を主眼としてきたジュネーブ条約は、第一次世界大戦を経て捕虜の保護、第二次世界大戦においては戦争規模の拡大や、新兵器の開発などにより、多くの民間人が犠牲になったことから文民の保護が強化され、それぞれ第三・第四ジュネーブ条約として、まとめられています。
また、冷戦後に急激に増加した国内紛争を目撃し、第一・第二追加議定書が採択されました。また、化学兵器や地雷、クラスター弾などの特定兵器の禁止にも成功しています。さらにそれら全てを強化すべく慣習法を特定したり、条約の解説を出版、また赤十字のレビューを発行する他、交戦行為の定義を整理するべくして解説書を出版したりします。
ジュネーブ諸条約と1977年と2005年の追加議定書の草案は、ICRCが国と協議して作成し、提出し、さらに議論し、修正し、最終的に外交会議で採択されました。これらの条約の解説書も定期的に発行しています。
2005年には慣習国際人道法に関する研究約10年間の研究と協議の成果を発表し、161の規則を特定しました。
ただし、規則の変更は多大な労力とコストを伴うため、最悪の場合は既存の法制度よりも望ましくないものになってしまう可能性があります。そのためにはまず生じている問題の根本的な原因を突き止め、それが法の修正のリスクを取るに足るものなのかを検討することに加え、その必要があったときは機会を逃さないことが重要です。
現場でのモニタリング
現場での活動は、今でもICRCの活動の中心を担っています。ICRCはその中立で公平・独立な性格から4つのジュネーブ諸条約及び追加議定書等により、紛争に限らず全ての人道支援活動のイニシアチブ、赤十字の標章への攻撃の禁止、裁判で証言をしない権利、その他特別な権利を与えられています。
捕虜、被拘束者への訪問の時
国際的な武力紛争において、ICRCは捕虜および民間人の被拘束者のいる施設を訪問し、立会人なしで会見する権利を有します。そして彼らの待遇および彼らが抱えている状況が国際人道法と一致していることを確認する権利を有します。例えば、捕虜は毎月少なくとも手紙二通及び葉書四通を送付することが認められています(GCⅢ71)。また、捕虜および民間人の被拘束者はICRC職員の訪問を受ける権利を有します(GCⅣ76)。
収容所では、衣食住や衛生環境、医療へのアクセスが確保できているか、また宗教の自由が守られているかなども訪問して確認します。
家族の再統合
紛争当事者は、捕虜や紛争関連で保護された人々が家族と連絡が取れるよう、また再会できるよう、役に立つ可能性のある情報をICRCが運営する中央追跡調査局に提示する義務を負っています。これにより、被拘束者が行方不明になることを防ぐことが可能になります。ICRCは、通常のコミュニケーション手段が途絶えたときの家族間のやり取り、身柄引き渡しおよび本国送還、家族との再会の手助けをします。
母国への帰還を支援する際にICRCは、身分証明書を持っていない人のために渡航証明書や、拘束や入院、死亡など事実を記した証明書など、特定の文書も発行することがあります。
国際人道法を遵守してもらうために
ICRCは紛争当事者と守秘義務のもと、人道法上の義務を再確認します。もし人道法違反の疑いがある場合、関係当局と非公開で直接対話を求め、その場で指摘します。非公開に対話することが、武力紛争で緊張が高まった状況において最も効果があることが長年の経験で立証されています。それでももし、違反が深刻で、改善が見込まれない時は、これまでの経緯を公にし、公的に告発することもあります。しかしそれは、被害者の利益に最も資する場合に限ります。
収容当局に人間の尊厳を尊重するべく、状況の改善を訴えます。
法の普及
締約国は、この条約の原則を自国のすべての住民、特に、戦闘部隊、衛生要員及び宗教要員に知らせるため、平時であると戦時であるとを問わず、自国においてこの条約の本文をできる限り普及させること、特に、軍事教育及びできれば非軍事教育の課目中にこの条約の研究を含ませることを約束する。
第47条〔条約の普及〕
法律を知らなければ、法を尊重する上で大きな障害となります。このためICRCは、各国に対して国際人道法を広く知らせる義務があることを再認識してもらう活動も行っています。国際人道法国内委員会の設置などがそれです。また、教育プログラム、軍事訓練、大学のカリキュラムに国際人道法を組み込むよう奨励し、必要な専門性を提供します。
ICRC駐日代表部は国際人道法の模擬裁判大会を毎年開催しています。
国際人道法の実践のためにロールプレイの大会を運営しています。
ICRCは、人道法が国内レベルで実施され、効果的に適用されるべく必要なすべての措置を講じる義務があることを、各国に書簡等を提示することで再認識してもらいます。ICRCの法律顧問がそれらをサポートします。例えば、関係者を集めたセミナーを通じ、彼らの経験を共有してもらいつつ、ICRCとしての専門的な見地を示すことで、法の国内実施を助けます。
またICRCは、各国の軍に対して人道法を普及させる義務を全うするためのサポートも行います。戦果をあげるために人道法が障害になると誤解されがちですが、実際は違います。正しく人道法を遵守することで兵士の使命感と士気を高め、敵兵の戦意を削ぎます。例えば、古来より各地で捕虜への非人道的な扱いが禁止されてきたのは、それがさらなる憎しみを生み、敵の戦意を高めてしまうだけでなく次なる戦いの禍根を残してしまうからでした。
各国は、国際人道法の適用について助言ができる法律顧問を軍隊の指揮官が必要な場合に利用できるよう、配置する義務を負っています。