武力紛争下の性暴力:Q&A

2013.11.13

2013年11月13日

性暴力は、悲しいことに、多くの現代の紛争下で横行しています。ICRCはこの深刻な犯罪行為を予防するとともに、被害者の支援に今後も力を入れていきます。ここでは、性暴力の性質や被害者のニーズを検証すると共に、ICRCがその防止や、被害者の保護・支援にどのように取り組んでいるのか、また性暴力の禁止の法的根拠についても紹介します。

紛争下の性暴力は、これまでの歴史の中でも繰り返されてきていて、それはしばしば紛争においては避けられないことと考えられてきました。性暴力は、被害者本人(老若男女)だけでなく家族、そしてコミュニティ全体にとっても悲惨な出来事として残ります。また、このような暴力は通報されず、その拡散や重大性は見落とされがちです。被害者の幅広いニーズに対する人道的な対応は不十分なままなのです。
多くの課題はあるものの、武力紛争における性暴力を防ぐことは可能だと私たちは考えています。支援、保護、予防を含む包括的な対応を通じて、被害者のニーズを満たし、犯罪の防止を目指します。私たちはこのプログラムを四年間で強化・拡大し、この複雑で繊細な問題に対応するための役割を強化することを決定しました。

1.性暴力とは何ですか?
「性暴力」とは、被害者(男性、女性、少年、少女)に対して直接的に向けられた暴力、拘束、拘禁、精神的圧力、力の乱用などを伴う暴行や威圧した力による性的行為を表す言葉です。被害者が逃れられない環境や、真の同意を与えることが不可能な環境を利用した場合も強制とみなされます。強姦、性奴隷、強制売春、強制妊娠、断種強要、同様の重大な性暴力も含まれます。
このような行為が単独で起こることはまずありません。殺人、子ども兵士のリクルート、搾取や暴力とともに発生します。性暴力は報復や恐怖の植え付け、拷問として使われることもあります。戦争の一手段として、社会組織を破壊するために組織的に行われることもあります。

 2.誰がどのように被害を受けるのですか?
武力紛争や暴力のある状態は女性、男性、少女、少年にそれぞれ違った悪影響を与えます。性暴力を受けたことで、ある人はほかの人よりも打たれ弱い立場にいることもあるでしょう。国内避難民、移民、未亡人、女性の世帯主、被拘束者、武力や武力グループにかかわる人、特定の民族に属する人はそうした一例です。性暴力は、男性や少年に対しても行われ、収容所などに拘束されている状況下では、特にそのリスクは高まります。
性暴力は、深刻な肉体的・精神的なトラウマやHIV感染の原因となり、時には死に至らしめることもあります。また、二重の苦しみを与えられるケースもよくあります。潜在的に危険で、後々まで残る怪我やトラウマを経験するだけでなく、家族やコミュニティから、汚らわしいと拒絶されることもあるのです。
多くの武力紛争下で性暴力が横行しているにもかかわわらず、その実態が明らかにならないことがほとんどです。罪悪感や羞恥心、仕返しされることへの恐怖、性問題を語ることがタブーとされている現実などが、被害者による通報を妨げているのかもしれません。結果として、多くの問題が隠されたままなのです。このような理由から、被害者を見つけ、支援を届けることが大変難しくなっているのが現状です。

 3.性暴力の被害者にとって何が必要ですか?
性暴力の被害者のニーズに応えるときは、労わりながら、プライバシーを尊重し、秘密を厳守する気持ちで接しなくてはなりません。被害者の安全を保障し、さらなる攻撃を防ぐことも最重要事項の一つです。報復や襲われることへの恐怖は、被害者の告白の意思を踏みとどまらせます。また、危険な環境での対応は、彼らをより攻撃を受けやすい状況に陥れます。
性暴力は、深刻な肉体的・精神的被害をもたらす可能性を持つ、医学的な緊急事態です。72時間以内に適切な治療を受けることが重要です。それにより、性病やHIV感染のリスクを減らし、国内法に沿った緊急避妊の処置をすることができます。
強姦によって望まない妊娠がもたらされた場合、堕胎を望む被害者は危険が伴う処置を行い、自身の健康や生命をリスクにさらすことがあります。安全でない中絶は公共医療の深刻な問題です。強姦によって生まれた子供と母親は立場上も非常に弱く、コミュニティーから疎外される可能性があります。子供は乳児のうちに殺されたり、その他の暴力を受けたりする可能性すらあるのです。

 4.被害者が治療を受けるにあたっての障害は何ですか?
精神的な支援を含む包括的な治療に、緊急かつ長期的にアクセスできることは被害者にとって不可欠です。しかし、紛争下で治療を受けることは非常に難しいのです。被害者が、緊急に治療を受ける必要があることを認識していなかったり、安全が保障されていないことへの恐怖、適切な治療を施す医療施設の不足によって、医療サービスを受けられなかったりしてきました。紛争下では、医療機関が限られ、また破壊されたりダメージを受けることで、被害者が治療を受けられない事態が生じます。被害者は、医療を受けようとして、安全面で大きなリスクに直面することが多々あります。彼らは、安全の確保されていない状態で、助けを求めて長距離を移動しなくてはなりません。無事辿り着いたとしても、紛争によって医療施設やサービスが利用できなくなっている場合もあり得ます。複雑な要素が絡み合う武力紛争の性質上、人道支援を行う私たちのような団体が被害者に必要な支援を届けることが難しい場合もあります。

5.医療面以外のニーズって何かありますか?
医療サービスに加えて、人道的な対応には他にも多くの要素が含まれます。リスクを認識してもらい、削減する活動を行うことによって、被害者をさらなる暴力から守ることが重要です。
公正な裁きを求める被害者には、利用できる支援を伝えると同時に、報復や排除、安全上のリスクから保護されていなければなりません。法的解決を求めるにあたって、被害者がリスクにさらされるようなことがあってはならないのです。
多くの場合、被害者はコミュニティーに戻る際、困難に直面します。被害者やその子どもに対する偏見、拒絶、排除を無くすためには教育が重要です。配偶者、子ども、そして家族全体を対象にした支援やアドバイス、配慮が必要です。
性暴力を受けたことで追放されたり、生計を失ったりした人は、生活を立て直すため住む場所や経済的援助を必要としています。

6.ICRCは性暴力を受けた被害者のニーズに対応するため、どんなことをしようとしているのですか?
ICRCは人道組織として、被害を受けた老若男女が必要とする支援を行うため、性暴力の原因と影響に焦点を当てて取り組んでいます。医療サービスの提供や被害者の保護・支援、意識向上、防止などが私たちの活動です。
状況によって、ICRCが直接医療サービスを提供することもあれば、疾患の予防や怪我・病気の治療などを提供したり、国内法に従った生殖機能関連の医療サービスを保証している医療機関に被害者を紹介します。また国の医療体系や搬送手段、職員を支援し、人材育成やインフラ整備、医療物資の提供に取り組んでいます。さらに私たちは、医療と心理面双方における支援を行っていて、精神的・社会的ニーズに応える複数の事業にも取り組んでいます。
性暴力を受けた人が生活を立て直すことができるよう、食料や日用品、シェルター、新たな収入源の確保や、医療・心理面でのケアを受けるための交通費の確保など、経済的支援も行っています。
また、地元のコミュニティーと協議し、性暴力に対する認識を高め、被害者保護のための対策を練ります。たとえば、性暴力が起こりやすい薪集めの時間を短縮できるようストーブを提供したり、水汲みに出た女性が性的被害にあうことを防ぐために村の近くに井戸を掘る手助けをしました。

 7.武力紛争下の性暴力について、国際人道法にはどのような規定がありますか?
強姦やその他の性暴力が武力紛争時に行われた場合、国際的武力紛争・非国際的武力紛争を問わず、国際人道法の違反にあたります。武力紛争の当事者は性暴力を禁止する条項に従わなければなりません。また、すべての国には違反者を罰する義務があります。
強姦やその他の性暴力が行われた場合、国際的・非国際的武力紛争のいずれにおいても、ジュネーブ条約第四条約と第一、第二追加議定書などの条約や慣習法で禁止されています。

8.性暴力は戦争犯罪にあたりますか?
国際刑事裁判所の規程は、強姦やその他の性暴力を戦争犯罪に含み、それが市民に対して広範囲もしくは組織的に行われる場合、人道に対する罪としています。
強姦やその他の性暴力は国際犯罪に該当することがあります。例えば国家公務員が被害者から自白を得るために強姦が行われた場合には、拷問の手段となり得ます。
性暴力はジェノサイド(大量虐殺)につながる可能性もあります。例えば、民族内での出産を防ぐため、性器の切除や避妊手術を行った場合ジェノサイドとなります。強姦は出産を防ぐ手段にもなり得ます。父権的な社会で生まれる子が母と同じコミュニティに属さないよう、女性が強制的に他の民族との子を妊娠させられる場合があります。
武力紛争中に、あるいは武力紛争に関連して行われたすべての強姦は戦争犯罪に該当し、罰せられなければならなりません。また、いかなる場合に行われた性暴力も、国際人権法や多くの国内法、宗教の掟、伝統的な法に反します。

9.性暴力の加害者はどうなるのですか?
ICRCは武力紛争の全当事者に対して、国際人道法の義務に従って女性、男性、少女、少年を性暴力から保護し、また性暴力を受けた人に医療へのアクセスを保障するよう主張しています。
また、武力紛争の全当事者に向けて、いかなる形の性暴力も国際人道法で禁じられていることを喚起し、これを国内法、軍法や武器携帯者への訓練マニュアルに組み込むよう奨励しています。私たちは世界中で武器を携帯する人たちを対象に、性暴力の禁止をテーマに講義し、これまで各地で目撃された違反行為のパターンを取り入れた勉強会を開いています。
国際人道法の重大な侵害にあたる強姦やその他の性暴力は、加害者個人に刑事責任が生じ、起訴されなければいけません。すべての国はこれらの性暴力を犯罪として国内法で規制し、またすべての性暴力の事案を調査し、起訴しなければなりません。
さらに、政府や武装グループとの非公開の対話において、ICRCは、目撃されたもしくは申し立てられた性暴力の悪行への懸念を述べています。住民を守り、性犯罪のリスクを減らすために、こうした対話では、被害者やコミュニティへの影響や、法的・刑事上の成り行き、また加害者の特定や制裁のためにとられる手段を伝えます。

10.赤十字パートナーは性暴力の問題についてどのように連携しているのですか?
私たちICRCは、世界中のどこにおいても可能な限り地域のサービス提供者や各国赤十字社などの国際赤十字・赤新月運動(以下、赤十字運動)のパートナーと連携して活動をしています。
その他多くの問題と同様、赤十字運動の各組織は、性問題や性別に由来する暴力について明確で補完的な役割を持っていると考えています。紛争地での活動を使命とする私たちICRCは、紛争地やその他暴力の伴う状況下における性暴力に焦点を当て、この問題の持つ独特かつ繊細な側面と取り組んでいます。国際赤十字・新赤月社連盟と各国赤十字社は、男女の性別に由来する暴力について、より広範に取り組むことが可能で、自然災害における犯罪防止も担っています。
赤十字運動は、各国と協力して、第31回赤十字・新赤月国際会議(2011年)において国際人道法履行のための四カ年計画を採択しました。その中で、各国は性暴力を含めた国際人道法の深刻な違反の防止、証拠書類の作成、起訴に協力することを表明しました。

詳細については 本部ウェブサイト(英語) をご覧ください

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