メンタルヘルス:目に見えない傷を癒す
武力紛争の精神的影響は、その専門でない人にとって認識しにくいものです。ICRCは、今後も精神的トラウマという問題に焦点を置きながら、苦悩する人々の支援に努めていきます。
過去ニ年間、ICRCはメンタルヘルス・心理社会的援助チームの規模を倍に拡大し、現在は55人のスタッフを抱えます。このチームは、紛争や暴力に よる精神的打撃を認識し、被害者支援に向けた医師や看護師、コミュニティや宗教的指導者、各国赤十字社のボランティアや教師に対する研修を実施しています。
「苦しい立場に置かれた人がまず最初に助けを求めてくる先が、そうした人々です。彼らがメンタルヘルスや精神的なトラウマを理解し、被害者を余計傷つけたりしないようなサポートが提供できることを目指しています」と、同チームの顧問ミレナ・オソリオは語ります。
コミュニティ支援の強化
ICRCは、精神的苦悩の感情・社会要素を軽減するためにメンタルヘルス・心理社会的援助チームを七年前に発足。カウンセリングや心理療法などといった精神面における支援と併せて、紛争や暴力が心にもたらす影響へのコミュニティの関与を促す活動を展開しています。
《コンゴ民主共和国(DRC)東部の例》
ICRCは、DRC東部で武装勢力と関わった子どもを支援する人々をサポートしています。多くの子どもにとって、武装勢力に加わった経験はトラウマ となり、精神的な影響を強く受けます。私たちは身近にいる地元住民に対して、不安や不眠症、フラッシュバック、悪夢、身体的疲労や攻撃的な態度など、子ど もたちに起こり得る後遺症を伝え、子どもたちが安心して心を開いてくれるような話の聴き方などを訓練しています。
本プロジェクトに関わっているICRC職員は、「子どもたちは当初とても攻撃的で、学校では問題児とされていました。教師の対処は、彼らを学校から 追い出すか、クラスメートから離すか、または叩くか、などでした」と振り返ります。「私たちは教師に対して、子どもたちと向き合い、話しかけ、会話に参加 できるように働きかけました。他の子どもと比較しないことが重要であると説明したら、殴る回数も減りました」。
暴力の被害者を支援
私たちの役割には、性的暴力の被害者である女性・子ども・男性の支援も含まれます。 長年ICRCは、DRCの南キブ州、北キブ州に40カ所ほどある「メゾン・ダクート」で、レイプやその他の性的暴力の被害者を支援しています。「メゾン・ダクート」は《聞く家》という意味で、被害者が安心して自分の体験談を話すことのできる環境を整えています。
《メキシコの例》
2012年以来、ICRCはメキシコ赤十字社と協力して北部チワワ州シウダフアレスにおいて、活動を続けています。危険な状況の中、現場の最前線で 苦悩する人たちと日々向き合うスタッフへの心理社会的援助を実施。2013年1月には、日常的な暴力にさらされた11-16歳の生徒を対象に、九つの学校 でメンタルヘルス・心理社会的援助プログラムを開始しました。6,500人を超える生徒と、600人の教師が参加しました。
《ネパールの例》
ネパールでは、人の死を追悼する上で、葬儀は重要な儀式の一つです。しかし行方不明者の家族は、遺体がないために葬儀をとり行うことができず、なか なか死と向き合えません。2010年、ICRCは行方不明者の家族を支援し、コミュニティとの絆を再建するためのプログラム「Hateymalo(手をつ なごう)」を立ち上げました。支援グループは、家族が体験談を語り、行方の分からない身内をどう追悼するか話し合うことを目指します。「母親たちは、墓場 や井戸を設けたり、樹木を植えたりして、行方不明者を偲ぶ場所を設けるアイディアを思いつきました」とプロジェクトに関わってきたICRC職員は語りま す。
今後の取り組み
今年初め、メンタルヘルス・心理社会的援助チームのメンバー12名がジュネーブに集まり、現場での経験を共有し、今後の課題と取り組み方について話 し合いました。「私たちは、収容所に拘束されている人たちのケアも行いたいと思っています。また性的暴力の被害者支援にもさらに力を入れていきたいです」 と、メンタルヘルス・心理社会的援助顧問のピエール・パスティンは語っています。
詳細は本部ウェブサイトで確認できます。