ガザ、イスラエル、ヨルダン川西岸:終わりの見えない紛争がもたらす莫大な人的コスト

2014.08.19

長期的な停戦があるのではないかと期待されていたなかで起きた二度の停戦は、ガザ地区とイスラエル南部の市民に束の間の休息をもたらしました。戦闘停止中のガザ地区では、人々が、医師の診察や食料・飲料水の補充、瓦礫内の探索に時間を費やしました。

 

赤十字国際委員会(ICRC)総裁であるペーター・マウラーは、8月5日から7日にかけて、ガザ地区やイスラエル、ヨルダン川西岸を訪問。ガザ市のシュジャイヤ近隣では、戦闘がもたらした大規模な荒廃を目の当たりにしました。「この紛争により市民は耐え難い犠牲を強いられています。紛争当事者には、国際人道法の下で果たすべき義務がありますが、今回、それらの義務と現場で起きている出来事との間に、深刻な矛盾があることをこの目で確認しました。私たちは、再びこうしたことが起きないよう、当事者と協力して取り組んでいきます」とマウラーは話します。「紛争当事者と国際社会は、支援を最も必要としている場所で持続的な人道支援が行える環境作りに共に励まなければなりません。私たちは、破壊された地域社会の復興支援に全力で取り組んでいます。しかし、国際人道法や人道支援活動、支援従事者がいかなる状況においても尊重されない限り、復興を実現するのは難しいでしょう」

 

ガザ地区では、37日間の激しい戦闘で1900人以上が命を落とし、約1万人が負傷しました。イスラエルでは、3名の市民を含む67人が命を落とし、551人が負傷しました。イスラエル南部では市民生活が日々のロケット攻撃で脅かされています。一方、戦争で疲弊したガザ地区内では、40万もの人々が避難を余儀なくされています。人口が集中するこの地中海沿岸部は、戦闘時になれば、安全な場所などなくなってしまいます。破壊され住むことができなくなった家屋は1万6000軒以上に上り、多くが瓦礫と化してしまいました。犠牲者の半数以上が一般市民であり、25%が子どもであると推定されます。紛争の影響を最も受けやすい状況にある人、つまり子どもや高齢者、病人、負傷者が多くの犠牲を強いられているのです。

 

戦闘前からすでに劣化していたインフラは、電力網と上下水道システムが広範囲にわたって攻撃を受け、大きな被害を受けました。80%以上の世帯が停電となり、ガザ市民の多くは、乏しくなった水源から不定期にトラックで運ばれてくる水の供給に頼っています。病院は、負傷者で一杯であり、彼らは回復しても行くあてがありません。医療従事者は疲れ果て、発電機は動かなくなり、薬の在庫や使用量は非常に少ない状態です。

 

犠牲となった一人ひとりに、彼らの安否を気遣い、愛してくれる人がいたということを忘れてはなりません。多くの家屋が損害を受け、破壊されましたが、これは多くの家族にとって、生涯をかけた懸命な努力を失ったも同然なのです。

 

イスラエル南部では、多数のロケット弾によって、3人が亡くなり、77人の一般市民が負傷し、民用物は破壊され、市民は絶えずストレスを受けています。ガザに隣接した地域の人々は避難しました。

 

私たちは紛争の現場で懸命に活動しています。紛争当事者と対話を続け、国際人道法における義務を遵守し、民間人と民用物に戦闘の被害が及ばないよう常に配慮し、負傷者を保護する必要があると訴えています。ヨルダン川西岸では、占領軍による武力行使を監視し、国際基準に則って治安を維持する必要があると呼びかけています。ICRCはまた、被拘束者に対する家族との再会支援にも取り組んでいます。

 

人道支援における最優先事項

 

私たちは市民の保護と支援に尽力していますが、国際人道法の原則が守られず、人道支援が軽視されている現状では、その努力はなかなか実を結びません。

 

1) 医療

 

傷病者の病院への搬送や治療の支援は、ICRCが昼夜を問わず取り組んでいる重要な活動です。必要としている医療を人々が受けられるよう、戦闘が行われているあいだ、次のような活動を行ってきました:

 

  • パレスチナ赤新月社の緊急医療サービスへ財政支援を行い、物資を供給しました。
  • 紛争地域を通過する救急車の安全走行と患者の退避活動を、当局と調整して実施しました。
  • 外科キット16セット、薬、手術器具、納体袋850個、ストレッチャー20脚、病院ベッド68床、車椅子129脚、松葉杖1325脚、歩行器455脚、8カ所の病院にリネン類、外科用包帯、応急処置キット200セットを届けました。

 

2) 安全な水と公衆衛生

 

  • 紛争開始以降、37万人が新たに安全な水と公衆衛生にアクセスできるよう取り組みました。
  • 損壊した水道施設の査定と修理を行いました。
  • ガザ市において揚水運転と脱塩に必要な燃料を供給し、給水設備の修復に集中的に取り組みました。

 

3) 救援活動

 

紛争が始まって以来、ICRCはパレスチナ赤新月社と連携して家を追われた人々のニーズに応えるべく支援活動に取り組んでいます。かつてないほどの激しい紛争によって、40万以上の人々が避難民となりました。このため、ICRCとパレスチナ赤新月社は、家から逃れてきた人々に食料などの緊急支援物資を提供することに救援活動の重点を置いています。

 

  • 他の支援団体から緊急支援を受けていない臨時避難所(役所や学校、教会、モスク等)に住む避難民のニーズ評価を赤新月社と実施しました。
  • 16地域の避難所に住む1万7500あまりの避難民と、非公式な避難所や受け入れ家族と暮らす6550人に、布団や毛布、ジェリー缶、水汲み用バケツ、衛生用品とオムツを配付しました。

 

今回の停戦合意により、ICRCとパレスチナ赤新月社は、爆撃や砲撃によって家が完全破壊したか深刻な損害を被った人々のニーズ調査を再開することが可能となりました。一度停戦すると、ICRCとパレスチナ赤新月社の合同支援計画が策定されます。

 

4) パレスチナ赤新月社とマーゲン・ダビド公社との協働

  • パレスチナ赤新月社は紛争開始以来、2625人の負傷者を病院へ、461人の遺体を安置所へ搬送しました。パレスチナ赤新月社が危険地帯を通過する際の安全を確保するためにICRCが関わったケースは35件以上に上ります。
  • ICRCは支援の増額をドナーに要請しました。私たちはパレスチナ赤新月社に対し、これまで273万スイスフランの資金援助を行っています。

人命救助に必要な医療品や機器の常備は非常に重要です。戦闘開始以来、ICRCは物品を調達し、ガザに運びました。

  • 赤新月社による配付用に医療品117箱を調達しました。
  • 厚生労働省が使用するための医療品と輸血用品トラック12台分を配付しました。

5) 市民および被拘束者への支援

 

  • ICRCは、紛争当事者に対し国際人道法を遵守するよう絶えず呼びかけています。市民や民用物、人々の生存に不可欠なインフラを攻撃しないこと、人道支援の迅速かつ円滑な実行を妨げないことなどを訴えています。収容所訪問や安否確認といった私たちの中心となる活動は、国際人道法の下で保護の対象となる人に対して行われています。
  • 私たちは、国際人道法が守られていない可能性のある状況に関する情報収集とモニターを行ってきました。いかなる場合にも、ICRCは当局に報告書を提出し、状況を注意深くフォローしています。

 

戦闘が起きた地域に散乱している不発弾や放置されたままの砲弾に強い懸念を持っています。これらが爆発すれば、停戦中とはいえ人命を失うような事態を招くことになるからです。私たちは状況を分析し、必要であれば当局に対し事態を解決するための支援を提供する用意ができています。

 

詳細はジュネーブ本部ウェブサイト(英語)をご覧下さい。