シリアに希望の光をもたらすことは可能なのか

2015.03.29
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©SARC

 

シリア北部では、春になってもまだ寒い夜が続きます。そんななか、電気の通っていない病院で出産することがどれだけ危険であるか、想像できるでしょうか。アレッポ東部では、赤十字国際委員会(ICRC)とシリア・アラブ赤新月社が戦闘の最前線を越えて、市内唯一の小児科病院に発電機を届けました。しかし、それまでこの病院では、子どもたちが内戦の混沌と殺りくのなか、死と隣り合わせで生まれてきていたのです。発電機が届けられた数日後、ICRCシリア代表部の首席代表のもとに一枚の写真がメールで送られてきました。そこに写っていたのは、何列にも並ぶ温かい保育器の中で、生後数時間の赤ちゃんたちが眠る様子でした。

 

「発電機を病院まで届けるのは危険な仕事でしたが、これによっていくつもの命を救うことができたと思います」とICRCシリア代表部で首席代表を務めるマリアンヌ・ガゼールは言います。赤新月社のボランティアは病院の電気を復旧させるために、狙撃者による射撃にも勇敢に立ち向かったのです。

 

新しい命の誕生は、その母親と父親に大きな喜びをもたらします。そして、彼らがその子の将来に抱く希望は、壊滅的な内戦が5年目に突入したシリアでも、決して奪うことができないものです。しかし実際のところ、その子の未来は明るいものではありません。アレッポで生まれたその子は、何カ月間も続く激しい戦闘によって瓦礫と化した街の中で育つでしょう。絶え間ない銃撃や砲撃の音を聞きながら眠るでしょう。そして、両親と一緒に避難することになれば、これまでに国外へ逃れた400万のシリア人、もしくは、国内のキャンプや簡易シェルター、また、友人や親戚のもとに逃れた700万のシリア人の一員となります。

 

シリアで生まれた全ての子どもが、何らかの形で紛争の影響を受うけています。医療サービスは崩壊し、経済は停滞し、雇用を失った大勢の人々は残り少ない貯金を切り崩して生き延びようとしているのです。この子の親戚は戦闘で殺害されるか、負傷するかもしれません。また、病院が閉鎖もしくは破壊され、医師が避難または命を奪われてしまったような状況で、もしこの子が病気になったら、両親は適切な治療を与えることに苦労するでしょう。なお、両親は、どこで食料を調達するか、どのようにして暖を取るか、水道からたまに出る水は安全な飲み水なのか、などのことも常に考えていなければならないのです。

 

戦闘に参加しない人々を守るはずの法律は、もうほとんどが破られてしまっています。こうした状況のなかで、このアレッポの子どもは極めて脆弱な立場に置かれるでしょう。4年間にわたる暴力行為で数々のものが破壊されているとはいえ、医療施設を攻撃したり、民間人に無差別に被害を与えたり、被拘束者を不当に扱ったりすることは、今もなお決して許されることではありません。生まれた場所や、親の宗教、民族的背景が理由でその子が攻撃の標的になってはいけないのです。本来、国際法のもとでは、若者、高齢者、障がい者、そして傷病者は保護を受ける権利を有しています。ICRCはこのような法律の順守を呼びかけていますが、あまりにも頻繁にそれは無視されてしまいます。

 

この紛争はあまりに甚大な損害を生んでおり、国際赤十字・赤新月運動は次々にインフラ基盤を修復することを余儀なくされています。私たちの技術者はポンプを直したり、パイプラインを交換するほか、水のボトルを配付し、給水車で水を配達して、1600万のシリア人に生活必需品である安全な飲み水を届けています。また、アレッポでは配電施設がひどく破壊されており、一日にたった一時間ほどしか電気を届けることができません。私たちは高圧ケーブルを交換することで、病院を始めとした施設が必要なサービスを提供できる環境を整えています。

 

この内戦で傷つけられたのは建物だけではありません。人々も多大な被害を受けています。当局によると、紛争のぼっ発以来、アレッポだけで7万から10万人が身体の一部を切断せざるをえない状況に追い込まれています。傷つけられた一人ひとりが身体的、そして精神的に回復するためのリハビリを要します。また、車いすや義手・義足も必要となります。ICRCとシリア・アラブ赤新月社は、この夏までにアレッポとダマスカスで2つの整形外科クリニックを運営し、治療や義手・義足を提供することを目指しています。

 

私たちがこのようにして展開する、水や身体リハビリテーションのプロジェクトは、シリアで目に見える効果をもたらしています。マリアンヌは18カ月間シリアを離れ、最近再び戻ってきたのですが、私は彼女に、その間シリアで何が変わったかと尋ねました。彼女の答えは、シリアに残った友人の多くが希望を失ってしまった、というものでした。和平交渉の行方は政治家に委ねられていますが、私たち国際赤十字・赤新月運動は、多大な支援を提供してくれる中東のドナーとともに、シリアの人々が希望を持ち続けられるよう手を差し伸べることができると考えます。

 

私たち国際赤十字・赤新月運動は、忍耐強く交渉に取り組み、本当に助けを必要としている人々に支援を提供するべきだと主張し続けることで、シリアで希望を少しずつ回復させてきました。私たちの倉庫からは毎週200台のトラックがシリア国内へ物資を運ぶために出発しています。また、昨年私たちが人々に支援の手を差し伸べるために戦闘の最前線を越えた回数は、その前年の倍に上りました。トルコやレバノン、ヨルダンの赤十字社および赤新月社は、最も脆弱な立場に置かれる人々に食料と住まいを提供するほか、負傷者を搬送、そして治療し、避難民に基本的な医療サービスを提供しています。なお、これら国々の政府と国民は、安全に自宅へ帰ることを待ち望むシリア人難民を寛大に受け入れています。シリア国内でも、ただでさえ他者に提供できるものが少ない人々が、それを周りの人々と共有しようとしています。ICRCは人々に食料を配付し、何千人もが使用する集団キッチンのガス代を支払っていますが、このキッチンは地元のチャリティ団体によって運営されており、シリアの地元住民の温かさと優しさがなければ存続できないのです。

 

国際赤十字・赤新月運動は、国際的な対応と国内的な対応を組み合わせ、独立かつ公平な立場で活動を行っています。この独自の性質のもと、この先何年も希望を保持して支援を続けることができるのです。今後、私たちはシリアにおける活動領域、そして、近隣諸国に暮らす避難民や、窮地に立たされている受け入れコミュニティに対する支援を倍にすることを目指しています。

 

この紛争は、明日終結するわけではありません。そのため、私たちは長期的な計画を立てています。あと最低5年間は、こうした人道支援活動を集中的に行う必要があるでしょう。

 

私がこれを書いているのは、クウェートで開かれる第3回シリア人道支援会合の前夜です。この会合は、各国がシリアにおける人道支援活動に対する資金拠出を表明する場となり、国際赤十字・赤新月運動の活動も支持してくださる、クウェート首長のシェイク・サバーハ・アル・アハマド・アル・ジャービル・アル・サバーハ殿下が主催しています。

 

もしこのクウェート会合において、ドナーと国際赤十字・赤新月運動の間で長期的なパートナーシップを結ぶことができれば、それはアレッポと周辺地域で誕生する全ての命にとって、希望の光となるでしょう。

 

原文はHuffington Post(英語)をご覧ください。