イエメン危機:国際人道支援活動の転換点となるか?
トムソン・ロイターのAlertnetに掲載されたICRC事業局長のイヴ・ダコーによる寄稿です。
現在イエメンで起きている緊張が新たな人道問題の火種となる前から、国際人道支援の分野は限界点に達していました。ここまで大規模な人道ニーズが様々な場所で同時に高まることはこれまでありませんでした。また、求められているニーズと人道支援組織が提供できる支援にこれほどまでのギャップが生じているのも初めてのことです。
シリアにおける戦闘への解決策が見いだせないなか、同国の人道危機は世界最大規模となり、国内や地域全体の何百万もの人々に影響を及ぼしています。この問題の解決に必要な資金は莫大で、3月にクエートでドナーが支援を約束した38億ドルも、拡がり続けるニーズに対応するための今年の活動予算として国連が要求した額の半分にも達していません。一方、アフガニスタンや南スーダン、中央アフリカ共和国、ソマリア、コンゴ民主共和国でも紛争が長引いていて、万人に計り知れない苦痛を与えています。ウクライナ東部での人道状況もいまだに切迫しています。イラクやリビアが負っている人道コストは、解決の糸口が見えない紛争がもたらしたものです。ここ数週間で、リビアからヨーロッパに避難しようとした何百もの人々が海で命を落としたことは、数えきれないほどの男性や女性、子どもまでもが追いやられている悲惨な状況を、改めて痛感させます。
長年にわたる紛争からやっと抜け出した国々も、政治体制が不安定で経済やインフラが根本的に脆弱であるため、特に貧困に苦しむ人々は、自然災害などの深刻な事態の影響を受けやすくなっています。何年もかけた紛争後の復興が後退し、大規模な人道危機が起きている例としては、4月と5月に発生したネパールでの大地震が挙げられます。
不十分な対応
これらの国々の中でも特に苦しい状況にあるイエメン。数週間にも及ぶ激しい戦闘と広範囲にわたる空爆がもたらした人道状況は壊滅的で、死傷者の数は日を追うごとに増加しています。病院やクリニックでは、医療物資と設備の両方が底を尽きつつあります。水や食料、燃料などの生活必需品も、ほぼ全土で不足し、社会の大混乱と干ばつ、貧困を乗り越えてきた人々に、生き残る術は残されていません。
今のところ、十分な人道支援が行われているとは言えません。人命を救うための活動や必要としている人たちへの支援の提供は、執拗な戦闘や治安の悪さ、行政上の問題によって滞っています。軍や武装勢力に対し、人道支援物資の提供を妨げないよう、そして必要としている全ての人々を治療するために医療の中立を尊重するよう求める国際人道法は、残念なことに大半が無視されています。
さらに状況を複雑にしているのが、イエメンで中心的に活動している組織や団体の政治、軍事、人道アジェンダが、少なくとも一般の人々からは理解しづらいということです。国連機関やパートナー組織だけでなく他の団体が、紛争の苦痛を強いられている人々に公平にアクセスできないのは、対テロ戦略や空爆、国連による反武装勢力への武器禁輸が一因なのかもしれません。
現場への委任
イエメンでの人道支援活動が効果を発揮していない理由は、他にもあります。そして、それは人道支援組織自体に拠るところが大きいのです。予算規模に限界があるということだけが原因ではありません。主な要因は、多くの人道支援組織が、リスク管理を含めた支援活動全体について、現地で活動する人々や組織に委任してしまっているという点にあります。これでは、支援の方法や実施場所に関する管理が難しくなり、支援の手を差し伸べたい相手との関係が構築できません。このようなリスクは、「公平」の原則と人道支援の意義を保つことを難しくさせます。真のニーズは何かを見極める視点が失われていたり、紛争の影響を受けたコミュニティの再生する力が奪われてしまった場合は、特に顕著でしょう。「原則に基づく人道支援」は、現場での活動に効果的に活かしきれないことが多いのです。
もちろん、危機の性質によっては、ある特定の状況において、違ったアプローチによる人道支援が功を奏することもあります。例えば大地震後のネパールでは、国内の活動を補完することを目的に、国際的な支援は足並みを揃えて進められました。ICRCは緊急支援や家族との連絡回復支援を行いつつもネパール赤十字社(公的機関を補助する役割)や国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の活動を支援することがほとんどでした。
しかし、武力紛争のように、助けを求めている人々の保護や支援を当局が拒否したり、できない状況では、直接的で革新的な原則に基づいた対応は、非常に有益です。ICRCや国境なき医師団のような「デュナン派」に属する組織にとって、原則に基づく支援とは、公平かつ中立、独立という赤十字原則の価値を実践にあてはめることになるからです。そのような支援を実現するには、支援を必要としている人々のニーズを第一に考え、彼らにできるだけ寄り添い、全てのステークホルダーと関わっていかなければならないのです。それは、可能な限り広く受け入れられ、活動が尊重されることにつながり、結果として保護や支援を必要とする人々へのより広範囲な人道アクセスが確保されることになります。
可能な限り寄り添う
目的や方法を異にする市民団体や軍が多数人道支援に関わるようになると、先に述べたようなアプローチが、すべての人にとって正しく、唯一の方法でなくなるのは当然のことです。もちろん、安全上のリスクが高まったり、アクセスが制限されてしまうこともあります。また、西欧諸国以外のドナーや受益国、新興の非国家主体、人道支援の受益者はそれぞれが課題を抱えています。
紛争の影響を受けている人々やコミュニティは、リアルタイムかつ容易に情報にアクセスできるので、様々なことが可能な状況にあります。彼らは、多様な支援から自分たちに合うものを選択できますし、自分たちの条件を課すこともあります。同時に、人道危機にあっても、支援を必要としている人々へのアクセスが容易な場合は、ビジネスモデルやリスク便益分析をもとにサービスを提供しようとする新しい支援の担い手の格好のターゲットにもなってしまいます。
非常に複雑かつ危険で、アクセスが限られている現在のイエメンのような状況では、支援を最も必要としている地域に入って行こうとする、あるいは行ける国際人道支援組織は数少ないと言わざるをえません。人道状況が目まぐるしく変化し、大きなプレッシャーに晒されているなか、紛争の犠牲を強いられている人々の苦しみを和らげるには、敵味方の区別なく彼らに寄り添うことが今まで以上に必要とされています。人道的対応は、人によってなされるということを忘れてはなりません。
原文は本部サイト(英語)をご覧ください。
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日本政府はICRCに対し、「イエメン共和国の国内避難民及び周辺国に流入したイエメン難民等に対する緊急無償資金協力」として105万米ドルの無償資金協力を実施することを決定しました。