赤十字国際委員会総裁マウラー「今こそ国際人道法を尊重するとき」と呼びかけ

2015.10.30

赤十字国際委員会総裁 (ICRC) ペーター・マウラーの声明

国連事務総長、そしてご臨席の皆様

 

私は今朝、ソマリアの都市モガディシュから戻りました。アフガニスタンやシリア、イエメン、スーダン、チャド湖周辺地域、その他どの地域であっても 、私が行く先々には常に紛争の犠牲を強いられている人々がいます。ですから、今日ここで皆様に訴えたいことは一つです。ICRCと国際連合(国連)という二つの国際組織の基本理念である国際人道法や国際赤十字・赤新月運動基本原則、国連憲章は、これまで以上に国際社会から強く支持される必要がある、ということです。

 

その必要性に突き動かされたからこそ、今日ここにこうして潘 基文(バン・キムン)事務総長と並んで、人道の原則を尊重し、保護するよう各国政府や紛争当事者に訴えているのです。政治を主導する立場にある方々にはぜひ知っておいていただきたい憂慮すべき現実に私たちは直面しています、それは、私たちが突入した新しい時代は、平和とは程遠いものだ、ということです。

 

紛争は長期化が進み、世界は戦争状態にあるのです。原因は複雑化していて、影響は広範囲に及び、人道的な影響は計り知れません。

 

国際社会もまた、暗黙のうちに、紛争が人々にもたらす悪影響は避けられないもの、と受け入れている風潮があります。しかし、こうした態度は、モラルに反しており、一世紀以上も継承されている国際人道法と人道の原則とは相いれません。

 

各国政府や紛争当事者、国際社会が、責任ある行動を直ちに取らなければ、さらに数百万以上の人々が紛争の犠牲となることでしょう。責任ある行動を取るということは、政治的解決を見るための努力をこれまで以上に積み重ね、その上で、国際人道法と人道の原則が確実に尊重されるよう働きかけていくことなのです。

 

今日、武力衝突によって世界は引き裂かれています。数百万もの人たちが、暴力の応酬に苦しみ、十分な水や食料、住居、医療支援がない生活を余儀なくされています。学校に通えない子どもは、数百万に上ります。病院は攻撃を受け、患者や医師、看護師、人道支援組織の職員が命を落としています。紛争や暴力から逃れるため、家を捨て避難する事態が慢性化していて、難民の数はこれまでにないレベルに達しています。これは受け入れ難い現象です。

 

戦争とはいえやりたい放題は許されない、国際人道法はそう謳っています。戦争に制限がないということは、戦争に終わりがないのも同然なのです。つまり、人々の苦しみにも終わりがないということです。

 

「人道・中立・公平・独立」という人道原則が適用されてはじめて、人道支援従事者は、危険で情勢が不安定な紛争下にあっても、支援を届けることが可能となるのです。

 

私たちは、武器の影響から人々を守り、自由を奪われた被拘束者が非人道的な待遇を受けないよう保護しています。水や食料、シェルター、医療をコミュニティに届けています。そしてこのような私たちの活動は、国際人道法と原則に守られ、裏打ちされているのです。ですから、人道法と原則が無視されたり、人道支援が政治の道具に使われたり、傷病者へのアクセスが断たれたり、安全上の理由から活動の中止を余儀なくされるということは、苦難の渦中にある人々を見捨て、保護の概念は意味をなさなくなり、人道が軽視される、ということになるのです。

 

確固たる行動を通して私たちがこれまで共有してきた人道を再認識し、国際人道法を守る責任を堅持するよう、各国政府に訴えます。

 

紛争の当事者である国家ならびに非国家主体には、国際人道法に定められている区別と均衡の原則を守り、市民を保護するよう呼びかけます。また、違法な武器や人口密集地での武器の使用を止めるよう求めます。また、故意に餓死させたり、レイプやその他の性暴力、裁判を経ない死刑、被拘束者に対する非人道的な処遇は、直ちに止めなくてはなりません。

 

私たちの活動の指針である人道の原則を認識するよう、紛争の当事者である国家ならびに非国家主体に求めます。紛争の犠牲を強いられている人々に手を差し伸べるためには、紛争の全当事者と対話をすることが必要である、ということを理解してもらいたいと思います。

 

紛争のさなかにあっては、人道はしばしば見過ごされます。

 

しかし、紛争のさなかにあるからこそ、希望を共有し、情熱をもって団結することも可能なのではないでしょうか?違う未来を想像し、その実現に向けて一歩を踏み出すこともできると思うのです。

 

今年は、国際平和と安全保障を維持するために国連が設立されて70年、国際赤十字・赤新月運動の基本原則が採択されて50年という節目の年です。世界は転換点にあるのです。

 

5週間後には、第32回赤十字・赤新月国際会議がスイス・ジュネーブで開催されます。未来について話し合う3日間の会議には196カ国の代表が集います。数か月後には、トルコ・イスタンブールで世界人道サミットが開かれます。短期間のうちのこれら二つの会議が開催されることは意義深いことです。この機会に、国際人道法と基本原則を意義のある支援につなげ、紛争下で苦しむ何百万もの人々のために人道の精神が再認識されることを期待します。

 

ありがとうございました。

 

ペーター・マウラー 赤十字国際委員会 総裁

 

原文は本部サイト(英語)をご覧ください。