なぜ地雷禁止条約が今なお重要なのか
赤十字国際委員会(ICRC)国際法・国際政策担当局長 ヘレン・ダーラム
対人地雷を禁止するオタワ条約が結ばれてからすでに20年近くが経ちました。国際人道法のなかでも重要な位置づけとなるこの条約と、それがもたらす様々な恩恵は、今では当たり前のように思われています。
しかしながら、常にそうだったわけではありません。オタワ条約誕生までの困難な道のりを知ることで、私たちは法の施行後も残っている課題に取り組まなければならない必要性に気づくはずです。
1990年代後半、私は、ICRCの新米の国際弁護士として、対人地雷の問題に関する討論会に参加してほしいと依頼されました。私以外に討論者は2人いました。地雷を踏んだ場合の医学的影響を説明した医師と、地雷の機能について語った技術者です。
地雷を禁止する条約の必要性について、私が熱心に語ったとき、聴衆から反対する意見が出たことには驚きました。「なぜ赤十字が弁護士同士の対話に無駄金を使っているんだ」と一人の参加者が言うと、「この資金を負傷者の支援のために利用したらどうなんだ。より多くの医師が必要されている」とまた他の人が言いました。
「ICRCの役割は、犠牲者を支援し、地雷の危険について住民を啓蒙し、地雷撤去の専門家と協働することに絞られるべきです」
そうした懐疑の目も向けられるなか、1997年、対人地雷の使用・生産・移譲・貯蔵を禁止するオタワ条約が制定されました。この条約は、現場での経験と法的な分析を合致させた各国の赤十字・赤新月社による懸命な「草の根運動」によって実現したと言っても過言ではありません。
この条約によって多くの命が救われてきました。20年前は、毎年約2万人もの一般市民が対人地雷によって負傷または命を落としていた、とICRCは推計しています。オタワ条約が施行されて以降、この数字は急激に減少。現在は約3500人と推定されています。
対人地雷の新たな生産・移譲は事実上停止し、近年では、11の地域における48の非国家武装組織がそのような地雷を使用しないという「契約書」に署名し、これを尊重しているのです。
命を救い、コミュニティを再建する
対人地雷の使用が非難されることによって、数えきれないほどの一般市民の命が助けられています。また、オタワ条約によって、コミュニティの再建が可能になりました。孤児となる子どもの数が減り、多くの家族が一緒に生活を続けられるようになりました。その結果、これまで地雷の犠牲者の支援に充てられていた医療従事者や資金を他の人命救助活動に向けることができるようになったのです。
お分かりの通り、この決して容認できない兵器を完全に廃絶するためには、まだやるべきことがたくさん残っています。
まだこの条約を批准していない国々に速やかに批准してもらい、条約を世界中に普及させることこそ私たちが目指すべき目標なのです。この条約の下、未だに30もの国が自国における対人地雷の撤廃の義務を果たしていません。また、同じく30ほどの国々には、甚大な数の地雷の犠牲者がおり、彼らへの支援を改善する必要性があります。
地雷の被害にあった国々において、独自の使命を持ち前線で活動するICRCの役割とは、犠牲者を支援し、地雷の危険性について人々を啓蒙し、地雷撤去の専門家たちと協働することです。
これらの課題が達成されたときのみ、私たちは本当の意味で対人地雷禁止条例がその目的を果たしたとみなすことができます。もちろん対人地雷禁止条例だけが、無差別に命を奪う兵器を禁止する唯一の重要な条約というわけではありません。例えば、クラスター爆弾を禁止する条約にもっと多くの国々が批准するよう働きかける必要性があります。
しかし、地雷禁止条例が救ってきた何万もの命や復興してきた生活こそが、条約を勝ち取るために払う努力は価値があると主張してきた私たちの信念が正しかったことを証明しているのです。
この記事はアル=アラビーヤ(アラビア語国際ニュース衛生放送)に寄稿したものです。
原文は本部サイト(英語)をご覧ください。