パキスタン:医療従事者への攻撃を止めるよう訴える

2016.08.04
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渋滞にはまる救急車。カラチにて (c)ICRC

 

パキスタンの主要紙「ザ・ニュース」は最近、2012年から2014年だけで130人の医師が命を奪われ、150人が誘拐された、と報じました。これは、医療従事者が負傷したり、病院や救急車、資材に損害をもたらすような暴力事件を上回る数字です。

パキスタンでは、医療サービスに対する暴力が日常茶飯事となっています。現在、この問題を解決するためのイニシアティブが採用されており、パキスタン国内をはじめ国外での適用も検討されています。2014年、赤十字国際委員会(ICRC)のパキスタン首席代表部やAPPNA公衆衛生研究所、ジナ・メディカル・センター(JPMC)、国際法研究学会(RSIL)、インダス病院は共同で、南部のカラチにおける医療従事者の保護を目的とした「危機にある医療支援(Health Care in Danger)」プロジェクトを立ち上げました。

このプロジェクトは、3つの主要な柱で構成されています。2015年にまず最初の取組みとして、RSILとICRCはカラチで医療サービスを提供する上での法的枠組みを見直しました。これは、法制度における隔たりを特定し、医療従事者と患者の保護を国内法に盛り込むよう政府に勧告することが目的でした。

次に、APPNAとJPMC、ICRCは医療を標的とした暴力について、暴力の種類やその影響、暴力の受け止められ方などの観点から調査し、解決策を提示しました。

最後に、ICRCやパートナー機関、救急車の運営会社であるイーディ基金とアマン基金が、救急車を保護することの重要性をより広く知ってもらう啓発キャンペーンを始めました。

 

上記のインタビュー動画では、シーミン・ジャマリィ医師とルブナ・ベッグ教授が、カラチで実施したプロジェクトについて述べています。

 

「危機にある医療支援(Health Care in Danger)」プロジェクトに携わろうと思ったきっかけは?

シーミン・ジャマリィ医師: カラチで最も忙しい緊急処置室で25年以上も働いてきた経験のなかで、医療サービスに対する暴力や脅迫を嫌というほど見てきました。同僚も私自身も、敵対する市民軍によって患者が病院のベッドの上で殺されるのを、目の当たりにしてきたのです。病院内で機関銃を振り回す男たちに脅えてきました。

担架の上ですでに死に絶えた人間を生き返らせるように要求する怒れる男たちもよく見かけます。負傷した自爆テロリストが、不発弾を身体につけたまま病棟に運ばれてくることもあります。一度、私は爆風で病院の外へ投げ出されたことがあります。病院をターゲットとした攻撃が続き、死傷者やその家族の治療で手一杯のときでした。

ICRCにこのプロジェクトを持ち掛けられたとき、カラチで起きている問題を解決するために立ち上がらなければならない必要性を説明してもらわなくても、その重要性を十分理解できました。

ルブナ・ベッグ教授: 私にとっては非常に身近な問題です。医師としてのキャリアの中で様々な暴力に直面してきました。医療に携わるの友人の多くが、深刻な怪我に苦しんでいます。命を落とした仲間もいます。脅迫や暴力から逃れるために、多くの有能な専門家が国外へと去っていきました。

調査員として、この問題の根深さと広がりを研究したいと思いました。メディアが報じている内容が氷山の一角に過ぎないと知って、驚くことはありませんでした。カラチで実施した医療に対する暴力の調査では、最大規模です。アンケート調査には822の回答を頂き、医師や看護師、医療補助員、警備員、その他病院スタッフ、救急車の運転手、そしてメディアや法執行機関(文民警察連絡委員会、パキスタン・レンジャー部隊、警察)に対し、17のフォーカスグループでの調査と42の詳細なインタビューを実施しました。

この調査には、多くのパートナー機関が参画し、量的・質的な調査が組み合わされた点で、これまでにない内容となっています。参加者の約3分の2は、過去一年以内になんらかの暴力を経験したか、もしくは目撃したことがあり、3分の1は実際に暴力を受けたことがありました。言葉による暴力が身体的な暴力よりも多く、さまざまな加害者が関わる事件は半数以上に上りました。加害者の大半は患者の付添人で、身元不明者があとに続きます。暴力が起きる場所として、救急救命室や病棟内が多く挙げられました。

 

調査の結果はどのように活用されますか?

ルブナ・ベッグ教授: 調査によってこの問題の複雑さを理解することができました。これからは、救急車サービスへの尊重を促す啓発活動といった具体的な行動に移していきます。問題の率直な分析に基づいて着実に進歩してくことが、人々の人生を本当に変えていくのではないかと思います。

シーミン・ジャマリィ医師: 暴力にどう対処すればいいのか、という視点からのトレーニングが欠けていたことが、調査で明らかとなりました。そこで、数回に渡るワークショップを開催しました。周りの職員の反応はとても良く、暴力への対処や緩和について学ぶコースに進んで参加しています。講義では、参加者が打ち解けて自身の経験談を話す時間が毎回設けられています。驚くことに、参加者それぞれが何かしらの経験を持っているのです。このワークショップで教わったスキルが、勤務中の安全確保に役立つことを願っています。こうした職員の問題に注意が向けられていること自体が、改善に向けた一歩のように思います。

 

このプロジェクトに取り組む中で直面している課題はありますか?

ルブナ・ベッグ教授: 医療機関のなかには未だあまり協力的でないところがあり、またカラチでの法律の執行制度に関していくつか解決しなくてはならない問題ある点です。医療従事者を保護するためのアプローチも様々で、例えば銃を携行させた方がいいのか、など様々な意見に対応しなくてはなりません。

シーミン・ジャマリィ医師: もっとずっと前から取り組むべき問題だったのは確かです。暴力の連鎖を傍観するのは危険です。なぜならそれは暴力を受け入れることになりかねず、一度受け入れてしまうと、変化をもたらすのが難しくなるからです。医療従事者はヒーローだと思っている人もいるかもしれません。だからといって、彼らの仕事を妨げる無意味な暴力が許されるわけがありません。医療への暴力に対し「ノー」を突き付けることを畏れてはいけないのです。

 

・ シーミン・ジャマリィ医師:カラチのジナ・メディカル・センター共同理事
・ ルブナ・ベッグ教授:シナ・シンド・メディカル・ユニバーシティ前副学長代理、APPNA公衆衛生研究所学部長

原文は本部サイト(英語)をご覧ください。