バングラデシュ:苦難の中で勝る人間性

バングラデシュ
2017.03.24

シャヒーナ・ベグムさんと彼女の家で一緒に暮らす難民たち (c) Rayhan Sultana Toma/ICRC

 

2016年10月以来、約7万人のイスラム教徒が身の危険を感じミャンマーから逃れ、バングラデシュにたどり着きました。シャヒーナ・ベグムさんのようなコックスバザールの住民は、難民を支援することを自らの課題としました。バングラデシュ赤新月社と赤十字国際委員会(ICRC)は、不安定な情勢によって離れ離れになってしまった家族を再びつなぐ支援を行っています。地元の医療施設を改修し、医療へのアクセスを向上させます。

 

南東に位置するバングラデシュ屈指の海沿いの町、コックスバザールからシャヒーナ・ベグムさんの家までは、でこぼこ道を1時間かけて車で進んだところにあります。45歳のシャヒーナさんは、地元の学校の教師です。彼女は教師になる前、地元で非政府組織(NGO)の開発プロジェクトに携わっていました。

 

シャヒーナ・ベグムさんの家  (c) Rayhan Sultana Toma/ICRC

 

2016年10月以降、ミャンマー北部のラカイン州から逃れ、コックスバザール、バンダルバンとその隣接地で避難できるところを探していた40~50人のイスラム教徒をシャヒーナさんは受け入れ、支援しています。敬意をもって「マダム」と近所の人々から呼ばれているシャヒーナさんに、なぜ彼らを助けるのか尋ねました。彼女は逆に「なぜ助けないんですか?他に彼らはどこに行けばいいのです?」と聞いてきました。

 

難民支援は彼女と彼女の夫の限られた資源によるものであるにもかかわらず、シャヒーナさんは、ちゅう躇なくできる限りのことをします。最も重要なのは、苦難と疲弊に見舞われた旅の後で、平和と静けさを提供していることです。

 

「難民は私たちとなんら違いません。私たちは皆、血の通った人間です。彼らは、家と食べ物、寒さをしのげる衣服が必要です。できることは限られていますが、彼らを受け入れ、支援を提供します」と彼女は説明しました。彼らの直面した試練を聞いた後、困惑と動揺を覚え、小さな土地と屋根付きのスペースを提供することを決めました。

 

ICRCのチームはコックスバザールでシャヒーナさんに会い、彼女の家で避難している人々を含め、ラカイン州を逃れた人々の様子を聞き、行方のわからない身内の調査依頼を受けました。

 

生き残るための恐ろしい旅

 

シャージャハルさんは、シャヒーナさんに受け入れてもらっている難民の1人です。ラカイン州の家を捨て、バングラデシュに来ました。身重にもかかわらず、夫と2人の小さな娘とともに12日間歩き続けました。バングラデシュとミャンマーを結ぶナフ川を船で渡った彼女は女の子を出産。「どうしたらいいんだろう?」と途方にくれました。バングラデシュに着いて、シャージャハルさんと彼女の小さな娘 スマイダは、まるで母親のように親切に世話をしてくれるシャヒーナさんに出会いました。そして彼女の小さな家に一家を受け入れました。

 

シャヒーナさんはこのことを良い想い出での一つだと回顧します:「赤ちゃんが私の家に来た時、彼女はまだ生まれて8日目か9日目で、まるで小さな毛皮の毬くらいの重さでした。寒さで震えていた彼女を腕に抱きかかえ、温かい布で包みました。もうすぐ生後4カ月で、順調に、そして健康に育っています。」

 

 

シャージャハルさんは、シャヒーナさんから受けた支援に深く感動しました。「彼女はまるで私の母のようです。彼女の寛大さと心遣いは母を思い出させました。」

 

支援に動いた地域社会

 

難民を受け入れて彼らに仕事の機会を与えることに対し地元の人たちからは批判が寄せられ、シャヒーナさんはその壁を打ち破るのにとても苦労しました。そこで彼女は、コミュニティに新しく入って来た人たちへの支援と助力を集めるため、キャンペーンを行いました。簡易トイレの設置や飲み水の整備を数カ所で行いました。

 

「難民の人たちは、すでにとても苦労してきています。彼らを助けるために何かやりましょう」と、シャヒーナさんは話を結びます。いったい何が彼女を駆り立て、限られた資金と空間を全く見知らぬ人々と分け合おうとするのでしょうか?「それは、他の方々にも持っていてもらいたい『人間性』です」とシャヒーナさんはためらうことなく答えます。

 

バングラデシュ南東部で顕在化する課題

 

多くのイスラム教徒の難民がミャンマーのラカイン州から逃れ、バングラデシュ南東部にたどり着いています。2016年10月からで、この地域は7万人を受け入れています。乏しい資源といった地域なりの課題を抱えているにもかかわらず、受け入れたコミュニティは多くの到着者を保護するなど、素晴らしいほどに手厚い対応力と忍耐力を発揮しています。

 

難民の流入は、突発的な事態にきちんと対応する能力と資源に欠き逼迫していた地元行政に、さらなる負荷をかけています。教育、医療、水、衛生、廃棄物管理に至るまで、基本的な公共サービスは逼迫しています。バングラデシュのような人口が過剰で貧しい国では、このような危機は、より多くの人が仕事と生活をめぐって競うことで、労働市場にも大きな影響を与えます。一方で、流入者を受け入れたことにより、医療や衛生面での改善をもたらすこともあります。国際機関などが難民キャンプに提供する医療サービスが、その地域にも提供されるからです。

 

シャヒーナ・ベグムさんと彼女の家で一緒に暮らす難民たち (c) Rayhan Sultana Toma/ICRC

 

ラカイン州からバングラデシュに逃げてきた何千ものイスラム教徒のコミュニティを支援するため、ICRCは2014年からコックスバザールで活動しています。バングラデシュ赤新月社と連携し、政情不安によって引き離された家族の再会支援を行っています。また、地域にある2つの主要な医療施設の改修や、サービスや施設自体の向上化も図っています。昨今の高まる人道支援のニーズに応えるために、地元赤新月社支部の能力強化も実施しています。

 

原文は本部サイト(英語)をご覧ください。