イスラエルとパレスチナ被占領地:ICRCはどんな活動をしているの?

イスラエル・パレスチナ
2023.11.21
崩壊した建物の側で保護者に抱かれながら泣いている少女

©ICRC

2023年10月7日に激化したイスラエルとガザ地区における戦闘に伴い、赤十字国際委員会(ICRC)の現地での活動や国際人道法(IHL)に関する質問にお答えします。

フェイクニュースなどに惑わされないために

イスラエル/ガザに関しては、非常に多くの誤情報やヘイトスピーチがオンライン上で出回っています。情報を共有・拡散する前に、もう一度よく内容に目を通して、自分の行為が正しいかどうかをご確認ください。

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1) ICRCはイスラエル/パレスチナ被占領地でどんな活動をしているの?(矢印をクリック)

ICRCはいくつもの事業を通して、イスラエルとパレスチナ被占領地(以下、パレスチナ)に住む人びとの生活に変化をもたらすことができるよう、1967年より半世紀以上にわたって寄り添い続けています。私たちは、収容施設に拘束されている人たちを訪問し、離ればなれになった家族の追跡調査や再会・面会を支援しています。また、生計を営めるように畜産業や農業を支援したり、生活に欠かせない水や電気を確保できるようサポートしています。これらすべての活動は、人びとの権利と尊厳を促進するためにあります。

この地域で活動を始めた当初から、国際赤十字・赤新月運動(以下、赤十字運動)のパートナーであるパレスチナ赤新月社やイスラエルのダビデの赤盾社(あかたてしゃ)と一緒にICRCは活動しています。私たちの拠点は現在、イスラエル中部のテルアビブと、パレスチナのヨルダン川西岸地区、ガザ地区に複数あります。

2) 紛争が激化した10月7日から1カ月、ICRCはどんな活動をおこなったの? (矢印をクリック)

十数年にわたりガザ地区で活動してきたこともあり、現在必要とされる保健医療、水、電気のニーズを埋めるべく態勢を整えています。

11月6日時点で、ICRCは保健・医療、生活必需品などの物資を提供し、インフラ補完や武器汚染の問題に対峙しながら、パレスチナ赤新月社と協力してさまざまな支援をおこなっています。

保健・医療分野では、支援医療チームの現地派遣をはじめ、ガザ地区にある9つの施設に医療物資を提供。1万740人が治療を受けられるように支援をおこないました。

生活必需品などの物資面では、キッチン用品、衛生用品、防水シートなどをガザ地区にいる避難民2万7,300人に配付しました。

インフラ面では、5万リットルの水を浄化するための塩素タブレット5,000個に加えて、約11万5,000人に安全な水を提供しました。その他、水道設備や保健施設が稼働するための燃料、修理器具も提供しています。

武器汚染に関しては、民間人が不発弾の被害を受けないよう、パレスチナ赤新月社と連携して、ショートメッセージ(SMS)やテレグラムを用いて啓発活動をおこなっています。

私たちは、人びとが拉致されたり、拘束されたといった報告を耳にする度に、心がかき乱されます。イスラエル人や他国籍の人びとを無作為に拉致している当事者に接触する際は、次のことを明確に要求しています。

まず、捕らわれている人たちに面会し、何が必要かを把握して、家族と再び連絡を取ることができるようにすること。これまで私たちは4人の人質解放をロジ面から支援しましたが、人質に取られた人たちの解放と、拘束されている最中も人道的に扱われなければならないことを、対話の中で繰り返し訴えています。

イスラエル/パレスチナにあるICRCの事務所には、行方不明となった大切な人を探すため、問い合わせの電話が殺到しています。私たちは、こうした人びとの痛みや苦しみに寄り添い、離ればなれになった家族が再会できるよう最善を尽くします。赤十字運動のパートナーと一緒に、行方不明者の所在を突き止め、状況が許す限り、いち早く情報を届けられるよう努めます。

3) ICRCはイスラエルよりもパレスチナでの活動がメインなの?(矢印をクリック)

ICRCは、紛争が人道上にもたらす影響を継続的に見極めつつ、既存の人道ニーズに基づいた支援を提供できるよう尽力しています。パレスチナの失業率や人道支援への依存度といった指標をみればわかるように、イスラエルよりも圧倒的に支援を必要としています。また、イスラエル人のニーズに対応するイスラエル当局の技術的・経済的能力は、パレスチナ当局やハマスのそれをはるかに上回っています。

ICRCは既存のサービスに取って代わることや重複することはせず、現地当局が埋められない人道ニーズに特化して対応します。例えばイスラエル南部では、暴力の被害を受けたコミュニティーを定期的に訪問しています。複数のコミュニティーで、緊急対応のための確固とした態勢を整えています。とはいえ、私たちは引き続き状況をモニタリングして、支援が必要な場合はすぐに実行に移せるよう準備をしています。

4) ICRCがハマスと話すのはなぜ?(矢印をクリック)

武装集団によって支配されている地域、その影響を受けている地域を含めてどこであろうと武力紛争や暴力の被害にあった人びとの苦しみを和らげ、苦しみから守ることが、私たちの使命です。紛争など暴力が横行する地域に住む民間人は安心して生活を送ることができず、人道的な支援や保護を必要とするケースが多くなりがちです。私たちは人道支援組織として、中立で公平な立場から、すべての紛争当事者と関わっています。中立とは、どちらの側にもつかないことを意味し、純粋に支援を必要とする人びとに支援を提供し、人道上の規則を守ることの大切さについてすべての当事者と話します。これこそが、政府であろうと武装集団であろうと、すべての当事者から信頼される唯一の手段なのです。

武装集団と接触し対話することは、ジュネーブ諸条約の196の締約国により私たちICRCに与えられた人道的使命の一つです。実際、ほとんどの場合において、紛争の全当事者とこうした人道上の関わりを持っています。武装集団との話し合いの中身については、機密事項として扱い、公にすることはできませんが、こうしたICRCのやり方が誤解を受けないように、いつも細心の注意を払っています。例えば、政府当局と会う際には、包み隠さず、明確に、武装集団と接触していることを伝えます。純粋な人道上の理由から武装集団とも関わっている事を、責任を持つすべての人に理解してもらうことは、私たちにとって非常に重要なことです。当事者と人道面で関わりを持つことで、紛争など圧倒的な暴力に苦しんでいるすべての人に手を差し伸べることができるのです。

5)もしICRCが中立・公平の原則を曲げて、どちらかの味方をしてしまったらどうなるの?(矢印をクリック)

万が一、ICRCがどちらかの側に立ってしまった場合、双方から信頼されなくなります。信頼が失われると、命を救うための活動も、被害を受けたコミュニティーや捕らわれた人、行方不明者の家族や病人のニーズに応え続けることができなくなります。中立性など、私たちが掲げる基本原則は、必ずしもすべての人に理解されるわけではありません。激しい感情が渦巻く状況においては、なおさらです。しかし、この“中立”と“公平”こそが、あらゆる場面での活動を可能にするカギなのです。

6)人道支援をおこなう対象を決めるとき、宗教は関わってくるの?(矢印をクリック)

いいえ。宗教に関係なく、人道ニーズに基づいた支援をおこないます。また、ICRCは宗教団体ではありません。赤十字運動の一員として、私たちは中立・公平・独立を基本原則として掲げ、活動しています。宗教や政治的思想からは距離を置き、いかなる議論においても、どちらか片方の側につくことはありません。中立・公平・独立の原則に基づいて、人びとの苦しみを和らげ、支援を必要とする人に救いの手を差し伸べます。赤十字運動の仲間が掲げる赤十字や赤新月のマークは、元を辿れば宗教的背景が垣間見られます。しかし、赤十字運動自体は、いかなる宗教にも属していません。人道的行動と、人間の命と尊厳の保護に勤しむ、非宗教団体として定義されています。

7)ガザ地区に連れ去られた人質に会うために、ICRCは何をしているの?(矢印をクリック)

人びとが拉致・拘束されている事実に、居たたまれなくなります。民間人であろうと戦闘員であろうと、拘束された人びとは人道的かつ尊厳をもって扱われなければなりません。人質を取る行為や人質を取ると脅す行為は、国際人道法で禁止されています。私たちは、一貫して即時解放を訴えます。

同時に、捕らわれたすべての人との即時面会も求めています。そうすることで、健康状態を確認し、家族に必要な情報を届けることができます。中立で独立した人道支援組織として、自由を奪われた人びとを訪問することは、私たちの活動の重要な柱でもあります。

8)国際人道法上の人質の定義は?(矢印をクリック)

人質とは、その人の地位に関係なく、個人または組織によって捕らえられ、要求に応えない場合に殺害されたり、ケガを負わされたりする可能性のある人のことを指します。紛争中に人質を取る行為や人質を取ると脅す行為は、国際人道法で禁止されています。

9)国際人道法は拷問についてなんて言っているの?(矢印をクリック)

拷問やその他の不当な扱いは、いつ、どこであろうと禁止されています。国際人道法と国際人権法は、拷問やその他の不当な扱いを防止し、処罰するための包括的な規則を構築する上で互いに補完し合っています。

国家は、いかなる理由を持ってしても拷問はおこなわないことに同意しています。そうした行為によって引き起こされる苦しみは、被害者に長年におよぶ深刻な影響を与える可能性があります。

10)国際法におけるガザ地区の位置づけは?(矢印をクリック)

ICRCは、ガザ地区をイスラエルにより占領されたパレスチナの一部としています。また1993年にノルウェーの仲介で締結された、イスラエルとパレスチナの和平に関するオスロ合意においても、地理的には離れているものの、ヨルダン川西岸地区とガザ地区を統一した領域と認識しています。

11)パレスチナは国家ではないにも関わらず、なぜICRCはパレスチナ地区が占領されていると考えているの?(矢印をクリック)

占領かどうかは、どのような実態かで判断されます。ある領域が、敵対する軍隊の支配下に置かれたとき、その領域は“占領された”とみなされます。占領が開始される以前に、当該領域がある主権国家の支配下にあったかどうかは重要ではありません。パレスチナが国家かどうかという論争は、この法的評価に影響を与えません。

1967年から始まったイスラエルとその周辺国の国際的武力紛争に対しては、1949年の4つのジュネーブ条約が適用されています。以来、パレスチナはイスラエル軍の支配下にあります。そのためICRCは、イスラエルが支配する地域を、交戦中のイスラエルの占領地とみなし、占領法規(1907年のハーグ条約および1949年の4つのジュネーブ条約)の法律上の適用を確認しています。占領法規の適用は、根本にある領土主権に関する論争を害するものではありません。

12)包囲戦にルールはありますか? (矢印をクリック)

包囲する行為は、民間人に甚大な被害をもたらします。民間人を保護するため、国際人道法には重要なルールがあります。それは、民間人が包囲された地域から避難することを許されなければならない、ということ。包囲する勢力も包囲されている勢力も、民間人の意志に反して人びとを留まらせることを強要してはなりません。

包囲は武装した敵対勢力にのみ実行することができ、包囲地域から避難しようとする民間人に対して、銃撃や攻撃を加えることは固く禁じられています。また、当事者は敵対行為を規律するすべてのルールを遵守しなければなりません。都市を包囲し、包囲地域の軍用物を攻撃する際には、民間人に被害が及ばないよう徹底することが常に必要となってきます。

戦闘に巻き込まれて民間人が死傷したり、民用物が破壊される事態を回避、または最小限にするために、実行可能な予防措置をすべて講じる必要があります。国際人道法は、戦争の手段として民間人を飢餓に陥れることを禁じています。同時に、一時的な避難が必要な場合や法的に義務付けられている場合でも、民間人を恒久的に追い出すための手段として、包囲が用いられてはなりません。

13)国際人道法は食料の確保についても触れているの?(矢印をクリック)

紛争下には、深刻な食料不安がつきものです。国際人道法は、極めて重大な食料危機を防ぐため、大切なルールを定めています。例えば、紛争当事者はその支配下にある住民の基本的なニーズを満たす義務を負っている、というものです。

前述した通り、国際人道法は戦闘の手段として民間人を飢餓に陥れることを特に禁止しており、違反すれば戦争犯罪となる可能性があります。食料や農耕地、農作物、家畜、飲用給水設備や灌漑施設など、民間人の生存に欠かせない民用物は特に保護されなければなりません。

これらの民用物が稼働し続けるためにも、攻撃や破壊、撤去の対象にしてはなりません。同様に、国際人道法のルールである、環境を保護することや包囲の制限、人道援助へのアクセスなどを尊重することも、食料不安を招かないための重要な役目を果たします。