2023年度 国際人道法(IHL)ロールプレイ大会優勝の立命館アジア太平洋大学チームにインタビュー
赤十字国際委員会(ICRC)は、2023年12月に国際人道法ロールプレイ大会国内予選を開催しました。今回は、ロールプレイ大会国内予選で優勝した立命館アジア太平洋大学(以下、APU)の学生3名にインタビューを実施し、大会までに準備したことや心がけたことなどを聞きました。
※国際人道法(IHL)ロールプレイ大会とは、学生たちが武力紛争下におけるさまざまな架空の状況下で、人道支援団体をはじめ民間人、武装勢力など、与えられた役割を演じ、参加者間でIHLの知識や理解度を競う大会です。2023年度 国際人道法模擬裁判・ロールプレイ大会国内予選の結果報告はこちら
Q1:ロールプレイ大会に出場しようと思ったきっかけは?
ウィー: APUでは、国際人道法に触れる機会がなかなかなく、大会をきっかけに詳しく学びたいと思い、参加を決意しました。また、この機会を利用して、自分が慣れない状況やプレッシャーのかかる状況に身を置くことで、自身の成長に繋げたいと思いました。
カン:私はこの大会を通じて、ICRC職員や他大学の学生などたくさんの人と知り合い、ネットワークを作り、繋がった人からいろいろ学びたいと思い、参加しました。
タオ:私は、これまでの大学での3年間はリサーチやレポートの執筆など座学が中心だったので、ロールプレイ大会への参加は、IHLに関する知識やコミュニケーション力、自己表現力などを高める機会だと思い参加を決意しました。
Q2:大会に向けて、どのような練習しましたか?
カン:私たちは、模擬裁判大会に参加するチームのメンバーと一緒に繰り返し、練習しました。模擬裁判大会に参加するメンバーは、IHLについてより詳しく勉強しているので、とてもいいアドバイスをしてくれたと思います。例えば、ある状況ではどの条項を使ったら更に説得力があるのかというアドバイスはとても参考になりました。
ウィー:前の大会に参加した先輩たちがいろいろと助けてくれました。前大会の様子やどのようなシナリオを想定しておくのかアドバイスをくれました。さまざまなシナリオをコーチである平野先生と一緒に練習し、本番に備えました。
タオ:IHLに関する知識を深め、重要だと思ったところをメモし、チームメイトと議論しました。例えば、紛争当事者として戦争の手段と方法について考えておくのが重要だと思い、関連シナリオを一通り作りました。先生とも相談し、自分たちで作ったシナリオを調整しながら繰り返し練習しました。また、どうやったら自信を持って話せるか、他のチームメイトとも議論しました。
Q3:チームワークはやはり重要だと思いますか?
ウィー:私たちはチームワークを大事にしていますが、決して完璧ではありません。いろいろな問題がある中で、準備に費やした5カ月間は「勝つ」という一つの目標に集中し、頑張ってきました。点数をつけると、10点満点中7か8ですかね。
カン:大会に参加したチームは、それぞれの困難や挫折があったと思います。私は、自分のチームメイトに感謝しています。実際、チームメイトからはたくさんのことを学ぶことができました。チームワークを学ぶ上では、他人を理解しようとすることが重要だと思います。また、大会ではチームとして、自分たちの強みを示す必要がありますが、チームメイトの前では、自分の弱点を見せることもときには必要だと考えています。これはなかなか難しいですが、重要な要素だと思います。
タオ:チームメイトと言っても他人なので、一緒にいると衝突も起きます。そうなった際に、話し合いが重要になると思います。先生の支えもあり、最後まで一緒に成し遂げられました。先生の努力と根気強さにはとても感謝しています。ロールプレイは、単に法律の議論をすればいいというわけではなく、状況に応じて対話し、問題を解決しようとするものなので、チームメイトとの付き合いも重要だと思います。準備の過程で、自尊心やモチベーションと向き合いながら、チームメイトと自分の考えを深く共有しました。
Q4:国内予選の際、毎回シナリオに入る前に、他の参加チームに「頑張ろう」と声をかけていたのはどういう意図だったのでしょうか?
ウィー:大会本番なので、他の参加者もきっと緊張していると思い、お互いに励まし合おうと思いました。私たちには、オブザーバーとして同席してくれるコーチや友達がいなかったので、もし他のチームも同じ状況だったら、お互いに支え合う方が良いのではないかと考えました。この声かけは、タオの提案でした。
タオ:他チームへの声かけは、突発的なアイディアでした。大会なので勝敗がかかっていますが、それだけではなく、全てのチームは一つの小さなコミュニティーであって、全員でいろいろな経験をしていくというプロセスが大切だと思いました。精神的に支え合い、できるだけ緊張せずに大会に臨みたいと思いました。
Q5:国内予選で、一番印象に残ったシナリオは何ですか?
カン:3つのシナリオは、一見、馴染みのあるように感じましたが、意外だった部分もそれぞれありました。私にとって、一番印象的だったのは、最初のシナリオです。収容所への訪問に関するシナリオは、事前に練習してきたのですが、本番では想定外のこともありました。例えば、与えられたカバンの中にナイフやタバコが入っていて頭が真っ白になりましたが、チームメイトが冷静に対処してくれたので、なんとかやり過ごせました。
ウィー:ナイフには本当にびっくりさせられましたね。私は2番目のシナリオが難しかったと感じました。専門的な法律知識が問われるシナリオがあるとは想定しておらず、海洋法については、ほとんど勉強していませんでした。ただ、幸いにもチームメイトが知識があり、何とかなりました。
タオ:私にとって一番苦戦したのは、最後のシナリオです。20分の準備時間で、何をすればいいのか全くわかりませんでした。ICRCの職員としてキャンプを訪問するのですが、他大学のチームと一緒に同じシナリオをやるのも意外でした。
Q6:IHLとICRCについて勉強した後、人道支援に関する見方は変わりましたか?
ウィー:私はスリランカ出身で、ICRCは内戦の際に人道支援を行っていたので、組織自体は知っていました。ただ、今回のロールプレイ大会を通してもっとICRCについて勉強したいと改めて思いました。以前は、ICRCは中立的な組織と聞いて、それって可能なのかとずっと疑問を抱いていましたが、ロールプレイ大会を通じて、ICRCの中立とは、人間性(ヒューマニティ)に基づくものだということが分かりました。また、食料や水といった物資配付のみならず、紛争当事者による民間人の保護や被拘束者の処遇改善などもおこなっていると初めて知りました。学びを通じて、ICRCを更に尊敬するようになりました。
カン:私はベトナム出身ですが、特に印象に残っているのはベトナム戦争です。私の叔父は、ベトナム戦争に兵士として参加したのですが、いまだにトラウマを抱えています。この経験から、私はIHLの役割について興味を持ちました。ICRCについて勉強しているうちに、その役割の大切さを痛感しました。以前は戦争や紛争が起きたら、ICRCが現場に行くだろうと当たり前に思っていましたが、それは決して当然ではなく、とても大変なことだと思います。人道支援に携わる人たちは、多くの困難に直面しながら活動しているので、とても尊敬しています。
タオ:私もベトナム出身で、小さい頃からたくさんの物語を見聞きしてきました。特に歴史の本が好きで、世界で起きている武力紛争に興味を持っています。ロールプレイ大会で、紛争が起きた際に、戦争の手段や被拘束者への対応などのシナリオを通じて、紛争下に置かれた人々に親近感を覚えました。紛争の影響を受ける人々や困難に直面している人のことを、忘れてはいけないと改めて感じました。
Q7:この大会に参加した経験は、今後の勉強やキャリアにおいてどのような影響をもたらすと思いますか?
カン:大会に参加する前は、国際関係全般に関連する仕事に就きたいと考えていました。ただ、今は少し変わって、人道分野に関心を持つようになりました。大学を卒業した後は大学院に進学し、国際法をもっと勉強したいと考えています。また、人道支援組織やNGOでインターンシップができるといいなと考えています。
タオ:この大会に参加し、キャリアの方向性はいろいろと変わりました。ただ、まだ明確な答えは出ていないのが現状です。
ウィー:私も迷っている最中です。まず、NGOに就職するかもしれません。そして、修士号を取って国連に行くかな…
Q8:若い世代の人たちによる国際人道法または人道支援に対する理解は、どのように評価しますか?
タオ:イスラエル・ガザ情勢で、若い世代の多くが人道支援や人道法に対する関心を抱いていると思います。APUでも、たくさんのポスターがあり、人道支援のための寄付を募っています。一方で、個人的には、現代の戦争や紛争は多くのフェイクニュースが流れていることに懸念しています。ICRCに関する情報もそうですし、情勢や支援状況などについても正確な情報を入手しにくくなっています。この問題は、すぐにでも取り組むべき課題だと思います。
ウィー:多くの若者間で人道支援に対する関心が高まっていますが、民間人への攻撃に対する怒り、影響を受けている人々に対する同情といった感情をどう処理すればいいのか分からない人が多いように感じます。個人的には、もっと多くの人がIHLやICRCについて知ってほしいと思っています。例えば、IHLを授業の内容に入れ込むのも手だと思います。
カン:あるフランスの弁護士は「戦争の非人道性を乗り越えるために、平時に人間性を強化しなければならない」と言っています。まさにその通りだと私も思います。IHLの原則や人道支援に関するセミナーなどに参加することで、人道的な観点から物事を考え、正しく人道支援が理解できるようになるといいですね。日本の大学も、ベトナムの大学も、もっとそのような機会を提供すべきだと思います。