モンテカルロテレビ祭: NHKドラマが赤十字賞を受賞
NHKスペシャル特集ドラマ「東京が戦場になった日」が、第54回モンテカルロ・テレビ祭で、モナコ赤十字賞*を受賞しました。受賞にあたり、演出の伊勢田雅也さんと制作統括の篠原圭さんにお話を伺いました。
Q:モナコ赤十字賞の受賞おめでとうございます。
4大テレビ祭の一つで、米国のエミー賞、イタリアのイタリア賞、カナダのバンフテレビ祭と並ぶ国際的なテレビ祭です。今回受賞したモナコ赤十字賞は、テレビ映画6本、ミニ・シリーズ6本の12本から一作品に与えられる賞で、NHKも初めて受賞しました。番組の内容だけでなく、ドラマに込められた精神に感銘してもらったという意味では、大事にしたいと思います。
選考委員だったICRCの方からは、「It was a beautiful film.(美しいフィルムだった)」とのコメントがありました。これは、ドラマが本質的に美しかったという意味だと思っていて、赤十字の精神がドラマに込められているということと二つの面で頂けた賞だと思います。
そこに「戦争を憎む」というメッセージが入っていたのがよかったというコメントもありました。
Q:ドラマの題材となっているのは実話ですか?
元消防署長だった中澤昭さんの「東京が戦場になった日」が原案です。この本は、当時の年少消防官や学徒消防隊の方々のお話を記録したものです。中澤さんを初め、この本に出ていらっしゃる方々にお会いして取材を重ね、中園健司さんが脚本化しました。年少消防官や学徒消防隊のなかには、当時のことは話したくないと口を閉ざされる方もいましたが、ドラマの随所に、お話をして下さった当事の消防官の実話がちりばめられています。東京大空襲をメインの題材としたドラマはNHKとしても初めてと聞いています。
Q:ドラマ化されるまでのお話を聞かせて下さい。
2011年11月頃から脚本家の中園健司さんと終戦にからめた企画を考えたいと話していたところ、中澤さんの記録本を紹介され、また3月の東日本大震災で、消防隊やハイパーレスキュー隊の活躍が記憶に新しかったこともあり、東京大空襲と年少消防官に焦点をあてたドラマを制作することが決まりました。
2012年中には準備稿が出来あがり、2013年3月26日クランクイン、5月9日に姫路でクランクアップ。2013年8月の放送を予定していました。しかし、題材が3月に起きた東京大空襲だったこと、またNHKスペシャルの枠での放送が決定したこともあり、2014年3月の放送となりました。
残念なことに2013年8月に脚本家の中園さんに食道癌がみつかり、10月6日にお亡くなりになられました。3月の本放送をご覧頂けなかったのが非常に残念です。
Q:このドラマの制作の意図、狙いは何ですか?
そもそもNHKの設立理由に、公共の福祉のために良い番組を作るというのがあり、報道や終戦ドラマを通して、ずっと戦争の悲惨さをお伝えしてきました。その上で、東日本大震災でのレスキュー隊の活躍と東京大空襲時の年少消防官の活躍が重なり、企画を出して社内で制作が決定するまでは早かったのです。
Q:ドラマ制作にあたり何が一番大変でしたか?
戦争を知らない今の若者にどう戦争のおろかさや悲惨さを伝えたらいいのか、という点です。東京大空襲では2時間半で10万人が亡くなっていて、この悲惨さをそのまま伝えて実際視聴者にメッセージが届くのか、という懸念がありました。また、壮絶な大空襲が題材ですが、最後は希望で終わらせたいという意図もありました。
東日本大震災では、戦争を知らない世代が非常にショックを受け、災害や修羅場から、もう一度立ち上がるという経験もしてきました。そこで、震災から立ち上がった今の日本人とリンクさせることで、現代の私たちに響くような東京大空襲の話にするという意図を実現させることにしました。東日本を経験した今だからこそ、東京大空襲を伝える意味があると思ったのです。
Q:どのシーンの撮影が一番大変でしたか?
とにかく、火を扱うので、風の向きを見たり、燃え広がる規模をコントロールするのに苦労しました。火の近くは高温なので、俳優さんたちも大変だったと思います。
Q:視聴者の反応は?
戦争世代からは、悲惨でつらいがこのようなドラマを続けて行くのがNHKの使命だと言って下さったり、あんなものではない、もっと悲惨だったというご意見もありました。
若い世代からは、泣いた、年少消防官や学徒消防隊がいたことを知らなかったという反応がありました。
Q: 主役はどのようにえらばれたのですか?
高木徳男を演じた俳優は、200名以上のオーディションを経て決まりました。
Q:ドラマには聴覚が不自由な方も出てきます。
障がいを持った方も勤労動員させられていたという事実を伝え、戦地に行かなかった人の苛酷さを描きたかったのです。リハーサルでは台詞を声に出すのですが、本番は手話のみです。でも、このような役だからこそ演じたいのだと、熱心に取り組んで頂きました。
Q:タイトル通り、東京もまさに戦場だったんですね。
当時の消防隊の規律は陸軍や海軍と同じで、軍服も着ていました。彼らにとっては、火災現場に行って火を消すことが、戦地に赴くことと一緒だったのです。また、このドラマのタイトルの英訳は「Battlefield Tokyo」ですが、東京も戦禍にのまれ、戦場と同じ状況だったという意味合いを残したくて、英訳に「東京」を残すことにこだわりました。
Q:英語の字幕もすばらしいですね。
NHK内の他部署になりますが、知財展開センターの字幕担当の方々に、この単語ならこういう意味、これならこういう意味になりますが、どちらがいいですかと、一回一回チェックされました。今回受賞できたのは、英語の字幕の質の高さもあったと思います。
Q:8月に再放送されると伺いました。視聴者へのメッセージがあればお願いします。
今の日本や世界の人たちに戦争の悲惨さをどう伝えるのかというところで苦労したドラマですが、戦争は二度としてはいけないということは言い続けなくてはならないと思います。その上で、このドラマを、戦争ものということだけでなく、人間には愛情や人を敬う気持ちがあるんだという視点から見て頂ければと思います。
当日の取材の様子は、こちらのNHK番組スタッフブログでも紹介されています。
*注「モナコ赤十字賞」 赤十字の精神である人道・公平・独立・中立・チャリティーなどの少なくともひとつを描いたミニ・シリーズまたはテレビ映画に贈られる賞。
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モンテカルロ・テレビ祭で審査にあたった、赤十字国際委員会(ICRC)のコメント
赤十字の7つの基本原則※に謳われている、”人道”と”奉仕”の精神をドラマの中に見た。
第二次世界大戦末期に、年少消防官や学徒消防隊として消火活動や人命救助にあたった若者たちの勇気や弱者を守ろうとする志、そして気高さに感銘を受けた。
このドラマは友情と慈愛の賛歌である。「生命力は破壊力をも凌ぐ」というメッセージが最後に心に響いてきた。
※人道・公平・中立・独立・奉仕・単一・世界性