人道支援物資の調達:物資調達課アジア担当とのQ&A
2019年5月末、東京・渋谷で開催された国連ビジネス・セミナー(外務省主催)へ参加するため、赤十字国際委員会(ICRC)の物資調達課からアジア担当が来日しました。日本企業からの製品の買い付けなど、将来的なコラボを模索するためです。
ICRCは物資を調達する際、値段や品質だけではなく、製造から支援対象者の手に渡るまでの全てのプロセスで一貫した倫理規範を重視します。社会・環境面でのコンプライアンスを確認しながら、企業と協働しています。これからは、運用や維持面で利便性の高い、低コストでシンプルな医療機器やジェネリック医薬品などを日本で調達することも考えています。
2015年から開催されている同セミナーは、世界各国で展開される活動で使用する物品やサービスの購入(調達)をする国際機関と日本企業をつなげ、グローバルマーケットへの日本の参入を促すものです。今年はICRCを含め14[1]の国際機関が参加し、日本企業との新たなビジネスの可能性を探りました。
同セミナーに参加したICRC物資調達課アジア担当のベンジャミン・フレイに、アジアにおける物流の現状、そして日本への期待について話を聞きました。
【プロフィール】
ベンジャミン・フレイ(Benjamin Frey)
スイス・ジュネーブ出身。これまでに各国の調達としてマリ、コートジボワール、ナイジェリア、リビアに赴任。新たにアジア調達マネージャーに着任。中国に拠点を置き、食料品や生活用品など紛争現場に届ける物資の調達において、アジアの積極的貢献を後押しする。
―国連ビジネスセミナーはどうでしたか?
一緒に参加していた国連の各機関が、日本の企業とビジネスを行うときに私たちと同じような課題(言語の壁や価格の設定など)を抱えていることが分かって興味深かったですね。しかし、これらの課題がどうであれ、どの機関も活動資金のトップ拠出国である日本の企業との取引を増やしたいと考えているんですよ。
―ICRCの調達において、アジアはどのような役割を果たしていますか?
アジア(主に中国とインド)は、世界中に製品を届ける製造工場として知られていますよね。ICRCは取り扱っている物資の一部 (EHI : 生活必需品セット) を標準化し、アジアで大量に生産して世界各地の現場で配付しています。 これにより、現地調達と比べて大幅な節約が可能になっただけではなく、配付する製品の質をきちんと監視することもできるようになったんです。食料品の購入という観点からも、アジアは重要な役割を担っているんですよ。例えばアフリカの多くの国では、食料を十分に供給することができていないので、そのギャップを埋められるのアジアの国々なんです。
―日本企業とビジネスをする際に、言語の壁などの課題がある、と言っていましたが、ほかに何かありますか?
強いて挙げるとしたら、これらでしょうか(以下参照)
- 日本のサプライヤーの視野に人道支援組織が入っていないケースが多く、ビジネス機会があるとは思っていない
- 日本企業は人道支援の内容が具体的にわからないいので、現場のニーズが分からない
- コミュニケーションの壁 / ほとんどが日本語の資料(取扱説明書や企業HPなど)
- 日本のサプライヤーは地域外 (特にアフリカ方面) への出荷についての知識が少ない、したがって、日本企業は価格設定に難点が残る(品質は良くても高価格なので大量配付となると現実的ではない)
- 日本のサプライヤーは、発注予定の変更や緊急のニーズに応じられる態勢にない
イノベーション、創造性、持続したサービスの提供は、日本のサプライヤーの明らかな強みです。一方で、日本企業の製品の価格はほとんどの場合が高く、他国のもっと単純な製品と比較すると価格的な競争力がないというのが弱点でしょうか。
―日本企業がサプライヤーとして持っている独自の強みと弱みは何だと思われますか?
イノベーション、創造性、持続可能性は、日本のサプライヤーの明らかな強みです。反対に、日本企業の製品の価格はほとんどの場合高く、他国のもっと単純な製品と比較すると価格的な競争力がないという弱みがあります。
―ICRCが日本の新規のサプライヤーに求める素質は何かありますか?
日本企業はICRCが定める調達に関する規則をしっかりと守ってくれています。日本の工場を訪れると、社会的コンプライアンスは当たり前になっていますし、工場は問題なく監査に合格します。国内市場の認証レベルが高く、私たちにしてみれば、問題なく製品を輸出できる良い指標になっているんですよ。
―日本企業がより人道セクターに貢献するにはどうしたらいいでしょうか?
日本人や日本の企業は、政府を通じて困っている人々を支援する人道的な考えについては、大きな配慮をしていると思います。一方で、日本が拠出している資金の用途やその資金を使って私たちがどのようなことをしているかについては、全くと言っていいほど知らない人が大多数でしょう。
日本全体にも言えることですが、日本企業は自国が拠出している資金が実際にどのように人道活動に役立っているのか、より高い関心を持ってその動向を見守っていくことで、人道セクターにさらに貢献できるようになると思います。セミナーに参加した日本の企業の中には、自分たちの会社が作った製品がどのように現場で生かされているか、人道的な成果について広めたい、と私たちの協力をリクエストしてくる企業もありました。そういったことによって、日本人の人道セクターについての全体的な認識度は高まっていくと思います。
―ICRCの調達マネージャーとして日本の民間セクターにどのようなことを望みますか?
日本政府は常にICRCのトップドナーです。アジアでは唯一上位20ヵ国に名を連ねています。ですからアジア調達マネージャーとして、日本のサプライヤーとの協力を拡大したいと考えています。課題は多くありますが、日本企業とのビジネスを増やす機会はこれからたくさんあると思っています。
近年、日本では人道支援とCSRをテーマにセミナーが開かれるなど、日本企業の人道分野への関心も徐々に上向いているようです。グローバル市場への進出を目指す日本企業とのコラボに今後も期待が高まります。
関連トピック(外部サイト):https://courrier.jp/news/archives/145873/
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関連トピック(外部サイト):https://media.lifenet-seimei.co.jp/2018/12/11/14720/
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小口隼人さんインタビュー
出典
[1] 外務省. 「国連ビジネス・セミナーの開催(結果)」. 最終アクセス2019年6月7日. https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/unp_a/page23_002968.html