シリア、アレッポのリハビリテーションセンター 報告:矢田盛夫/ICRC義肢装具士

シリア
2022.02.22

シリアでは、リハビリテーション事業が非常に限られており、サービスを利用しようとしても、治安状況という課題があります。ラッカ、デリゾール、ハサカ、イドリブ、また同国南部に住む人々にとって、北部アレッポや首都ダマスカスのリハビリセンターへのアクセスは、治安と経済的な問題から非常に困難です。多くの子どもたちが紛争の永続的な影響を受けて苦しんでおり、多くの国内避難民が障害を負ったまま生活しています。シリアの糖尿病の有病率は、人口の12%と推定されており、残念ながら、糖尿病性足病変による下肢切断のリスクを減らすための予防策となる特別なサービスはまだありません。

アレッポの赤十字国際委員会(ICRC)リハビリセンターの多くの患者は、戦争による負傷や、糖尿病の悪化による合併症で下肢を切断したことが原因で義足を必要としています。資格を持ったリハビリテーション専門家(理学療法士や義肢装具士など)が不足しており、患者の数に追いついていないのが現状です。

アレッポのリハビリセンターⒸICRC

ICRCは2015年8月、アレッポにリハビリセンターを開設し、下肢および上肢の義肢や装具、歩行補助器具、車椅子、理学療法を提供しています。アレッポでは、戦争(爆撃、銃撃、地雷)による怪我が原因で下肢や上肢の切断を余儀なくされた患者が、全体の患者の約60%にのぼります(2021年度調べ)。ICRCでは、センターへのアクセスが困難な農村地域またはアレッポ県外の地域から来る患者の宿泊、移動および食事に関する費用を負担しています。

複数の異なる医療職種によって構成されたチーム(MDT)が、患者に対して義肢装具トレーニングの準備ができている状態かどうかを評価します。義足の場合、最初の診察の後、患者のニーズを基に、目的、活動度、残存機能等を考慮して処方を決定し、採寸・採型を行います。アレッポで義肢装具に使用されている原材料は、ICRCが世界各国における同様の事業で使用しているポリプロピレンです。

シリアでは通常、義肢の製作は、切断後早ければ2〜3カ月経って切断部分が安定した後に開始されます。ただ、さまざまな理由により、数年かかる場合ももあります。アレッポのセンターでは、患者とMDTが一緒に目標を設定します。最終的に目指すのは社会復帰ですが、目標は患者ごとに異なります。たとえば、サッカーをもう一度できるようになりたい、ジョギングをしたい、自力で500m歩きたい、などです。すべての患者が自分の希望に応じて目的を決定することが非常に重要です。

ICRCのリハビリセンターでは、理学療法士3名、義肢装具士4名、ベンチワーカー9名、事務員2名、サポートスタッフ3名を雇用しています。私は、2021年7月からアレッポのセンターにおいて、義肢装具士とベンチワーカーの技術チーム計13名を率いています。それ以前はバングラデシュに3年9カ月勤務し、これがICRCでの初のミッションでした。

最初のフィッティングは、適切なバランス、高さやアライメントを見つけるために非常に重要。写真左が矢田ⒸICRC

患者が初めて義肢を試すときは、オーダーメイドの服を試着するようなものです。高さを調整し、きついところや緩いところがあれば調整を行い、アライメントと呼ばれる位置調整を行います。調整が終わると、理学療法士はトレーニングを段階的に開始し、最初はバランスを取ることから始め、次にステップ、歩行等、最後には平坦でない場所(階段、砂や石の上)を歩けるようになるまで訓練を行います。訓練の最終日には、でこぼこした庭や、20段ある階段を患者さんに歩いてもらいます。当初センターに車椅子で来て、立つことも大変だった患者さんが、この訓練を終了するときには達成感を抱き、自分で歩いて帰っていきます。そうした患者さんたちを私たちはとても誇りに思います。

ICRCは、義肢装具の製作から理学療法まで、患者が再び自立するために必要なすべての過程と、終了後のフォローアップに関わる費用を全負担します。アレッポのセンターに通うのを待っている人たちの“待機リスト”は、大変長いです。長期的に事業を展開できる資金があれば持続性が保たれ、より多くの患者により多くの義肢装具を提供できます。シリアではニーズが非常に大きいので、そうした支援が継続して寄せられることを祈るばかりです。

アレッポの田園地帯で羊飼いとして生計を立てる父親の手伝いをしていたアダム君は、2020年12月に地雷を踏んでしまいました。彼は翌年の10月にICRCのリハビリセンターを訪問し、今では新しい義足を使って歩行の練習をしています。ICRCはまた、継続的なケアを保証するという観点から、心のケアを提供しています。多くの患者は戦争で負傷してここに来るので、心的外傷後ストレス症候群(PTSD)の方が多いです。私は日本、バングラデシュ、タイで同様の経験をしたことがありません。義肢装具士としてのキャリアの中で、戦争による怪我やPTSDに関連するメンタルヘルスの問題に直面するのは初めてです。それは私にとって大きなチャレンジであり、ここの患者のために最善を尽くせることを願っています。

追記:アレッポのICRCリハビリセンターでは2021年、月平均で66人の患者にリハビリサービスを提供しました。同センターの2022年の予算として、50万スイスフラン(約6,140万円)を計上しました。

矢田や理学療法士とおしゃべりするアダム君(7歳)ⒸICRC