南スーダン:怒った男が銃を片手に病院を恐怖に陥れる

2017.08.25

2017年8月18日

リタ・ドミニク・キヤワさん。南スーダンのワウ教育病院の手術室に男が押し入り、職員に発砲した事件を振り返る©Mari Aftret Mortvedt/ICRC

 

男が手術室に押し入りました。彼は怒った様子で、銃を所持していました。病院が手を尽くしたにもかかわらず、彼の妻が分娩中に亡くなった直後の出来事です。彼は武器を掲げて発砲し始めました。

 

1989年からワウ教育病院で看護師を務めるリタ・ドミニク・キヤワさんは、病院襲撃から4年の月日が経ったにもかかわらず、昨日のことのように話します。仕事は好きですが、自分が命を落としていたかもしれない事件に立ち会って以来、ほぼ一線から退いた状態で、それも自分の運命だと彼女は感じています。

 

リタさんは、男の顔を覚えています。2013年5月、その男は傷つき、怒りをあらわにしていました。病院で亡くなったばかりの妊婦の夫でした。彼は、病院のスタッフが奥さんと胎児を殺したと主張し、復讐がしたかったのです。

 

医療施設への攻撃は、南スーダンで既に弱体化している医療システムにさらなる負担を与え、地元住民の医療へのアクセスを断つ結果に©Mari Aftret Mortvedt/ICRC

 

「女性は出血していて、病院に到着した時には既に手の施しようがありませんでした」とリタさんは説明します。しかし、彼女の夫は、医師たちの話を信じませんでした。

 

男は発砲し、助手を務める医師1名が命を落とし、2名が負傷しました。「患者が亡くなるたびに、この後何が起こるんだろう、と不安になります。私たちが患者を殺したと思われるかもしれないから怖いんです」と彼女は言います。

 

こうした危険は、南スーダン全土で働く医療従事者にとって残酷な現実となっています。医療施設への数多の攻撃は、既に弱体化している医療システムにさらなる負担を強いています。医療施設への攻撃は、医療へのアクセスが制限されることにつながり、最終的には数百万もの住民に損害を与えることになります。

 

「医療施設の攻撃などもってのほかです。誰ひとりとして、病院にいる間に安全が脅かされることなど、あってはなりません」と語るのは、つい最近同病院を訪問したICRCのペーター・マウラー総裁です。

 

ワウ教育病院で母子と触れ合うマウラー総裁©Mari Aftret Mortvedt/ICRC

 

ワウとその周辺で続く武力衝突を受けて、ICRCはワウ教育病院の医療ニーズを軽減するため、5人で構成される移動外科チームを派遣しました。武器による負傷や救急外科に対処するのと同時に、現地職員や学生の能力育成も目的としています。また、再度襲撃されないためのセキュリティー対策を病院内外で強化するため、いくつかの措置を実施しました。例えば、武器持ち込み禁止の徹底や、非武装の民間警備の配置などです。

 

ワウ教育病院は、南スーダンで現在機能している2つの教育病院のうちのひとつで、周辺地域で初期診療を行う数多くの医療施設にとっての委託病院でもあります。

 

「ICRCがこの病院と提携する前は、武器によって負傷した患者を時々、首都のジュバに搬送する必要がありました。移動により治療が遅れることで、患者に悪影響を及ぼしかねませんでした」と、ワウでICRCの病院マネージャーを務めるバーバラ・ターンブルは言います。

 

ICRCはワウ教育病院の手術室を改修し、安全な水が確保しやすいように病院を整備。4月には、移動外科チームにより地域一帯から搬送されてくる戦傷患者の手術や緊急手術が始まった©Mari Aftret Mortvedt/ICRC

 

医療スタッフの派遣に加え、ICRCは手術室を改修し、安全な水へのアクセスも改良しました。「病棟を改修し、電気と水道を通す計画も立てています。清潔さを保つことは、病院にとって最優先事項の一つなので、非常に重要な取り組みです」とターンブルは説明します。

 

ICRCは、反政府勢力の支配地域にいる傷病者にも同様に寄り添い、南スーダンの医療施設支援を行っています。

 

関連データ:

  • ICRCは2017年2月にワウ教育病院の改修に着手、同年4月から移動外科チームが常駐
  • 移動外科チームの構成:外科医、手術室担当看護師、看護師長、麻酔科医および病院マネージャーに加えて、現地スタッフも参加
  • ワウ教育病院の病床数:400。戦傷患者と救急外科の患者のため、ICRCが60床を提供

 

原文は本部サイト(英語)をご覧ください。

 


南スーダン:国民の1/3が避難生活を送り、半数が深刻な飢餓に

2017年8月22日

 

暴力にさらされた南スーダンの人たちに関する数字は、現状がいかに残酷かを物語っています。総人口1200万人のうち、3人に1人が住むところを追われ、2人に1人が深刻な飢餓に陥り食料支援を必要としています。

 

戦争により傷ついた住民を支援するための取り組みとして、ICRCは8月10日から11日にかけて南スーダン北西部のデイム・ズベイルの村で1,000世帯の約6,000人に対して緊急の食料配付を行いました。

 

デイム・ズベイルには、1万8,000人の国内避難民を含む約5万4,000人が住んでいます。2016年6月にラジャで始まった衝突の後、たくさんの国内避難民がやってきました。その数は、2017年4月の衝突でさらに膨れ上がりました。

 

「何も持たず、着の身着のまま子どもだけを抱えて逃げました。財産は全部置いてきました。既に強奪されています。避難民キャンプにはベッドさえありません。床で寝ています」と語るのは、現在デイム・ズベイルの仮設住宅に暮らす、4人の子どもの父親セビト・アクアルさん(31歳)です。

 

デイム・ズベイルにたどり着いた国内避難民の大部分はほとんど何も持っていませんでした。受け入れ先の自治体は、手持ちの少ない資源を彼らと共有しています。ICRCは釣り網を提供するなどして自治体を支援。同時に村の給水所も修復しました。

 

ICRCはこれまで、防水シートや衣服、毛布、蚊帳、就寝マット、調理セット、ポリ容器、バケツ、石鹸などの支援物資を配付。7月には、避難民の中でも特に弱い立場に置かれた700世帯(約4,200人)を対象に実施しました。

 

5人の子どもを持つベリラ・サビーノさんも、紛争の激化に伴いラジャの自宅からすぐさま避難しました。当時妊娠していたサビーノさんは、子ども達と一緒に10日間歩き続け、デイム・ズベイルにたどり着きました。

 

「戦闘が起こった時に夫は不在でした」とサビーノさん。「私は子ども達と逃げてきました。夫がどこにいるのかわかりませんし、夫も私たちの居所を知りません。日々、食料を確保するのに苦労しています。手を差し伸べてくれる知り合いもいません」

 

ICRCのペーター・マウラー総裁は、8月17日に南スーダンに入りました。数百万もの住民が極度の飢餓状態に陥る危険にさらされている現状など、国内における暴力の応酬がいかに壊滅的な影響を与えているかを視察します。