アフガニスタン:数百万人の命を救うために残された時間はわずか

アフガニスタン
2022.03.10

©ICRC

カブール(ICRC)―2月末に5日間にわたりアフガニスタンを訪問した国際赤十字・赤新月運動(以下、赤十字運動)の幹部たちは、同国が坂道を転げ落ちるように完全な崩壊と最悪の人道危機に陥っていくのを防ぐために、国際社会は今すぐ立ち上がらなければならないと警告します。

アフガニスタンでの政権奪取から半年、国際社会による制裁や援助の凍結が行われ、それまで援助を行っていた国の多くが現政権との関与を拒み続けています。そのため、40年以上にわたる紛争や度重なる干ばつ、コロナ禍の三重苦によってすでに疲弊し、深刻な窮状に陥っていた数百万に上るアフガニスタンの人々が、よりいっそう厳しい状況に追い込まれています。

「25年にわたり人道支援に携わってきましたが、ここまでの状況を見たのは初めてです。アフガニスタンの人々が直面している危機の規模と悪化のスピードには驚きを禁じえません」と語るのは、今回、デンマーク赤十字社とフィンランド赤十字社のトップとともに同国を訪れた赤十字国際委員会(ICRC)のロバート・マルディーニ事務局長です。「アフガニスタンの人々の命を盾に政治的な駆け引きを行うことがあってはなりません。援助国は、政治目的で利用されうる開発援助と、政府機関が必要不可欠な公共サービスを提供し、経済の崩壊を防ぎ、アフガニスタンの市民の命を救うために必要な援助を区別することが重要です。時間は残されていないのです」。

今、最も喫緊で支援を必要としているのが医療機関です。その顕著な例が、ICRCが支援する南部の都市カンダハールにあるミルワイズ地域病院です。この地域やその周辺に住む900万に上る人々に医療を提供していますが、需要が対応能力をはるかに上回っています。650床規模の施設に、毎日約4000余りの傷病者が治療に訪れます。このような事態となった一因は、現在の危機下で、小規模な医療施設が幾つも閉鎖され、多くの開業医が国を離れたことです。

どの病棟も過密状態です。例えば、小児科病棟の病床使用率はほぼ300%で、多くの場合、1つのベッドを2、3人の子どもが使っています。子どもだけでなく大人でも栄養失調にかかっている人が多く、その数は増え続けています。即席爆発装置(IED)の被害にあった子どもたちもいます。例えば、ある少年は、IEDをおもちゃだと思って拾ったために、手が吹き飛ばされてしまいました。アフガニスタン全土で流行している麻疹にかかった子どもたちであふれかえっている病棟もあります。

フィンランド赤十字社のクリスティナ・クンプラ事務局長は、「アフガニスタンの人々の苦しみの度合いを目の当たりにして、本当に胸を痛めています」と語ります。「アフガニスタンはすでに以前から、母親や幼い子どもが生きていくのが世界で最も難しい国の一つでしたが、現況の厳しさはこれまでの比ではありません。今この病院にいる人たちはまだ恵まれていると言っても差し支えないでしょう。医療施設の多くはまったく機能していないため、病人や弱い立場にある人々が医療を受けるには、長距離を移動せざるをえません。しかし、それができる人などほとんどいません。多くの人は必要な治療を受けることさえできないのです」。

「この国で最も喫緊の人道上の課題の一つは、間違いなく、医療へのアクセスでしょう」と語るのは、デンマーク赤十字社のアンデシュ・ラデカール事務局長。「専門医の教育病院や看護学校に対する支援は、すでに弱体化している医療の崩壊を防ぎ、その未来を守るための、最も効果的かつ持続可能な方法の一つです。適切な支援をどれだけ急いで行っても、急ぎすぎということはありません」。

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2021年12月の国連安全保障理事会での決議においては、人道支援が制裁の対象外となるなど、支援をより行いやすくすような歓迎すべき進展がありました。しかし、ロバート・マルディーニ事務局長は、国家にはもっとやるべきことがあると強調します。「人道支援は不可欠ですが、機能する公共セクターの代わりに、アフガニスタン全土で4,000万人に必要不可欠なサービスを提供することはできません」と語ります。「次のステップとして、最も火急で求められているのは、公共サービスに携わる50万余りの公務員に給与を支払い、重要なサービスを確実に機能させること、および中央銀行への技術支援を再開して金融や流動性の危機を緩和することです」。

一方で、ICRCは、病院再建プロジェクトを通じて、1万余りの医療従事者に給与を直接支払うことを含め、全国28の病院を支援しています。この支援によって、最大で2,000万人が医療を受けることが可能となっています。ICRCは、アフガニスタン赤新月社を含む、赤十字運動の内外の主要なパートナーと緊密に連携しながら、その他の重要なセクターなどにもこうしたモデルを適用し、拡大していく用意ができています。公共の水道施設や電力施設への支援を通じて、都市の中心部で飲料水を常時供給するための取り組みも始めました。

そのためにも、ICRCは今月、5,000万スイスフラン(62.8億円)近くの活動予算の追加要請を行い、その大部分をアフガニスタンの病院や医療スタッフの支援にあてる予定です。

「今必要なのは、政治ではありません。援助国は、アフガニスタンの人々の命と暮らしを最優先しなければなりません」とマルディーニ事務局長は語ります。「何もしないままでいれば、ますます大きな代償を払うことになります。大惨事となり、取り返しがつかないことにるのです」。