世界最大規模の人道危機下にあるイエメンから目を背けてはならない

イエメン
2021.12.07

©ICRC

イエメンでは武力紛争による人々の犠牲は拡大する一方で、今年の9月以降、首都サナアの東に位置する都市マアリブでは推定40,000人、西部の紅海沿岸に位置する都市ホデイダでは10,000人以上が安全を求めて故郷を離れることを余儀なくされています。複数の前線沿いで続いている軍事行動や地雷によって、民間人の暮らしや生命が脅かされていることに加え、水や食料、医療、教育などの必要不可欠なサービスへのアクセスも困難になっています。

こうした現状を受けて、ICRCは現地の緊急の人道ニーズに対応するための活動を拡大しています。一方で、昨年一年間にわたり、以下の支援を実施してきました。

  • 戦争によって傷病者となった数万人を治療することに加えて、約5万人の障がい者にサービスを提供。
  • ICRCが支援している83の病院と保健センターで、1,324,123人の患者を診察。
  • 水や衛生関連分野での活動を通して、5,811,970人に寄与。
  • 国内避難民など1,643,880人に、食料や現金、生活必需品の提供、および、農業や酪農業を営むための支援など、さまざまな形態の支援を提供。

ここで、アラーさんの物語を写真とともにご紹介します。

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イエメンの古いことわざに「人の気持ちを本当に知りたければ、その人の目を見よ」というものがあります。目はすべてを明らかにします。まだ小さなアラーの目は、すでに多くの苦しみを見てきました。1年前、まだ4歳のときにりゅう散弾により足を失いました。その直後に、新型コロナウイルス感染症に感染した父親が亡くなりました。

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「りゅう散弾でこことここを怪我したの」とアラーは自分の足を指して語ります。兄のアハメドに病院に連れて行かれたアラーは、足を切断されました。その後、義足を装着し、ICRCが支援するイエメン南西部の古都タイズのリハビリ施設で理学療法を受けたことで、歩行し、自分で何でもできるようになりました。

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「私たちが義肢を提供することで、人々は再び自分の足で立ち、歩いたり、トイレに行ったりするなど、基本的なことができるようになります。しかし、アラーは、まだ子どもなので、助けが必要です。サポートや教育、特別なケアが必要です。足を失ったどの子どもたちもそうですが、特別なケアが必要なのです」。

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目に見えない傷も癒されなければなりません。「戦争によって、精神状態が非常に悪く、ダメージを受けやすくなっている患者がたくさんいますが、その大半は手足を切断された子どもたちです。引きこもるようになり、孤立していきます。私たちの使命は、そうした人々にリハビリを提供して、生活を取り戻してもらうことです」と語るのは38歳のセラピスト、タハニです。

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アラーの兄のアハメドもまた、自分の経験を受け入れられずにいます。「戦争のこと、妹の身に起きたことを夢に見ます。空爆の音が聞こえてきて、子どもたちに危害が及ぶのではないかとパニックを起こして目が覚めるのです。妹たちのために平気なふりをしようとしても、できません。否定的な考えを頭から振り払い、妹を力づけたいのですが、そうすることができないでいます」。

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アラーの話は決して特別なものではありません。あまりにも多くのイエメンの子どもたちが毎日苦しんでいます。彼らはその日その日を生き延びるのがやっとで、未来への展望を見出すどころではありません。紛争はイエメンの子どもたちに大きな犠牲を強いています。多くの場合、教育は中断され、子どもたちは何かをする時間、ひいては子ども時代を奪われています。さらに、今後、220万人以上の子どもたちが急性の栄養失調に陥ると推測されています。

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食料価格が1.5倍に高騰しているイエメンでは、1,600万を超える人々が食料を確実に手に入れることができないでいます。同国では過去最悪のコレラの流行が続き、2020年12月には250万を超える感染者と約4,000人の死者が発生しました。コレラやジフテリア、そして今回の新型コロナウイルス感染症が同時に流行しているにも関わらず、同国内の医療施設は半分しか機能していません。

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6年間の長期にわたる紛争により、推定23万3,000人が死亡し、そのうち13万1,000人は、医療サービスやインフラ、食料の不足などの間接的な原因で死亡しました。人々の対処能力は低下し続けています。必要不可欠なサービスはほぼ崩壊し、何百万ものイエメン人が壊滅的な人道状況に置かれています。

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ICRCは、人々が栄養失調に陥ることがないように、助成金や食料を入れた小包を提供するなど、こうした事態下での支援を強化しています。

イエメンにおけるICRCの活動:

ICRCは1962年からイエメンで活動を続け、複数の州に常駐しています。2015年にイエメンで武力紛争が勃発して以来、ICRCは武力紛争下にある人々を支援するために、救援物資や医療用品、清潔な水の提供を行っています。また、保健所や病院、地域の水道衛生事業施設や収容所などでの支援を行っています。