人道支援の現場より:ICRC職員の三田真秀(みた まさよし)さん
現在、2万人近くの赤十字国際委員会(ICRC)の職員が、100を超える国や地域で人道支援に携わっています。職員たちは、紛争をはじめ困難な状況下にある地域に赴き、家族と数千キロも離れて暮らし、かつてないほどの困難に直面しながら働いています。こうした状況下で、職員たちが障害を乗り越え、紛争やその他暴力事態下にある人々にとって欠かせない支援を届ける原動力となっているのは、「人々の置かれている状況を改善したい」という“熱い想い”です。
日本人であり、ミャンマー西部ラカイン州で保護活動を担当する三田真秀(みた まさよし)さんも、そうしたICRCの職員の一人です。
「人道支援は、ときに辛い仕事です。目立たず、たいていは人目につかないところで行われ、効果を測ることも困難です」と語る三田さんは、その主張を裏付けるように、ICRCでの最初の任務として、2012年に保護活動の担当者としてパレスチナのナブルスに赴任したときの心に残った出来事を振り返ります。
三田さんは、長期にわたる武力紛争下で繰り返し被害を受けてきた、この地域に暮らす年配の女性から、「この紛争のおかげで、私は何人もの外国人に会うことができるのよ」と皮肉を言われたことがありました。女性は微笑んでいたものの、その目は暴力が女性の人生に与えた影響を物語っていました。三田さんは、「ICRCの職員を含む人道支援従事者たちは、さまざまな形で女性を支援してきました。ですが女性は、状況は長い間ほとんど何も改善されていないと感じていたのです」と続けます。「そのとき初めて、自分の無力さを感じました。それでも、たとえほんの僅かでも誰かの置かれた状況を改善できることは、私にとっては大きなやりがいです」。
現在、5つ目の赴任地であるラカイン州のシットウェで保護活動を担当している三田さんは、それ以前は、アフガニスタンやタジキスタン、タイ、マレーシアで働いていました。今回の任務終了後は、人道問題顧問としてインドネシアのジャカルタに赴任する予定です。ICRCで働くことは、誰かの人生に関わるということであり、「だからこそ、ベストを尽くすことが求められるのです」と三田さんは語ります。
国際人道法を学び、人道問題を専門的な視点から分析することができる三田さんは、「残念ながら、武力紛争が起きれば、人道法違反の問題が常に持ち上がります」と語ります。人道法に規定されているからといって、武力紛争がもたらすこうした問題の解決策を必ずしも見出せる訳ではありません。「法律は重要ですが、現実は別物です。私の知る限り、ICRCは柔軟性をもって、最善の解決策を見出すべく常に力を尽くしています」と語ります。
ICRCで働くには、コミュニケーション能力も不可欠です。組織の内外で、さまざまな人と関わることが仕事の大きな部分を占めるからです。そのためにも、傾聴のスキルを身につけて、同僚との関係を育んでいく必要があると三田さんは語ります。
「武力紛争下にある人々に寄り添い続けていきたい」と語る三田さんは、ICRCで働き始めた日と変わらずに今も、人々の置かれた状況を改善すべくベストを尽くしています。