5月8日は世界赤十字デー ~Everywhere for Everyone!
今年の世界赤十字デーは、過去の困難を乗り越え、「思いやり」や「助け合い」の気持ちを胸に歩みを進める人物に焦点を当てます。
夢は保健師。「将来は大槌に戻って働きたい」
日本赤十字秋田看護大学 看護学部看護学科1年
松橋瑞季さん(18歳)
「嵐が好き」。6年前、恥ずかしそうにそう教えてくれた少女は、この4月、日本赤十字秋田看護大学に入学した。
松橋瑞季さん、18歳。岩手県大槌町出身の大学生。2011年3月11日に起きた東日本大震災で自宅が津波の被害を受け、祖父が神主を務める小鎚神社で一時避難生活を送っていた。瑞季さんは、発災のちょうど一週間前に12歳の誕生日を迎えたばかりだった。
私たちが現地に赴いたのは、発災から10日後。被災地の現状を国内外に伝えるため、赤十字運動の三機関の広報がチームを組んで、岩手県宮古市を起点に、宮城県石巻市まで海岸線を南下した。その途中の大槌町で、私たちは松橋一家に出会った。
当時のリポートはこちら:
日本語:ICRC駐日事務所ニュースレター:震災特集 (pdf ファイル)
英語:英BBC:赤十字の震災ダイアリー
松橋家はその後、プレハブの仮設住宅で約6年を過ごす。「不安でした。何もないし、この先やって行けるのかな?って。支援をもらってありがたいと思いながらも、これまで感じたことのない重い感覚をずっと引きずっていました」。
自分の家族は全員無事に避難した一方で、津波で家族を失った人たちが周りにたくさんいる。「私だけ幸せに暮らしていていいのかな?」。周囲への気遣いや申し訳なさから、瑞季さんは嬉しさや喜びといった感情を一切表に出さなかったという。
高校生になり、いよいよ進学先を決めなければならなくなった時、取材を通して知った赤十字の活動が頭をよぎった。「赤十字の人たちに会った時、一瞬気持ちが楽になったんです。私たちのことをちゃんと考えてくれているのが取材を通じて伝わってきて、心が落ち着きました。自分もそういう存在になりたいって思いました」。
今、彼女が目指すのは、保健師。いつか大槌に戻って地元の人たちのために働きたい、という。
「やりたいことが見つかったら、感情も自然に出せるようになりました」と瑞季さん。何気ない日常でも幸せだと感じられるようになった、と照れながら語ってくれた。
東北の厳しい冬が終わり、草木も芽吹く春の到来。瑞季さんは、大槌を離れて秋田で学生生活を始めた。「私が大学に入ってすぐ、家族は仮設住宅を出て、新しい家に引っ越したんです」。松橋家は今、6年前に奇跡的に津波の難を逃れた小鎚神社の入口近くに家を建て、新しい生活をスタートさせている。
震災を通して体得した「目の前にいる人を大切に思うこと」。その決意を胸に、瑞季さんは夢に向かって着実に一歩を踏み出していた。
世界赤十字デーとは?
赤十字の創設者で、第一回ノーベル平和賞(1901年)を受賞したアンリー・デュナン。
189年前にこの世に生を受けた彼の誕生日を記念して、毎年5月8日を世界赤十字デーとしています。
今年のテーマは「Everywhere for Everyone」。
1700万人を超えるボランティアと45万人の職員で成り立つ赤十字運動は、世界最大のこの人道ネットワークを活かして、紛争や自然災害など困難に直面している人々のもとへ駆けつけ、「生きる力」と「人間の尊厳」を日々支えています。
私たちがたどり着く人の数は、毎年1億6000万以上。
日本では、日本赤十字社の47都道府県支部や、医療、社会福祉、血液などの事業を通して、地元の人々に寄り添い、災害救援や救急法・安全法の講習会実施など日本独自のニーズに見合った活動を行っています。
すべての人が人間らしく生きるため、そして、尊厳のある人生を送れるようにするため、赤十字は世界各地で寄り添っています。