ICRC職員にインタビュー:軍事顧問としてのキャリア
赤十字国際委員会(ICRC)には軍事顧問という職務があります。ICRCの軍事顧問としてアジア大洋州地域を管轄する、スノウイー・リンターンにインタビューしました。
Q1.軍事顧問としての仕事について教えてください。
スノウイー・リンターンです。駐日代表部を拠点とする軍事顧問として働いています。アジア大洋州地域を管轄する立場として、日本の自衛隊はもちろん、ハワイに司令部を置く米インド太平洋軍、オーストラリア、ニュージーランド、フィジーとパプアニューギニアを担当しています。現在は日本を拠点にしていますが、地域的な職務であり、自衛隊や各国の軍隊が戦争法や国際人道法について知り、司令官をはじめとした軍人が、戦争法や国際人道法について知っておくべきことを確実に理解できるようにすることが任務です。私は法律の専門家ではありません。紛争を経験し、実務的な経験を積んだ元軍人です。ですから、実践的な視点で法律がどのようなものか理解していますし、それをこの職務を通して伝えようとしています。

ICRC
Q2.ICRCにはなぜ軍事顧問という職務があるのですか?
幸いなことに、アジア大洋州地域に関して言えば、私たちは平和な時代に生きています。しかし、歴史的に見れば今後もそうであるとは限りません。国家が多額の防衛費を費やすのには理由があり、潜在的な紛争への備えには余念がないです。多くの軍にとって、民間人の存在は忘れられがちです。そのため、私は特に戦争にまつわる人道的配慮を意識しています。空白の中で活動しているわけではないこと、民間人がいるということ、紛争の法を理解し尊重する権利と義務があることを伝えています。軍事顧問として、敵や味方の兵士ではなく、民間人という第3のレンズを持ち出すのです。民間人がいるなかでどのように軍事作戦を行うのか、という要素を伝えるのが軍事顧問の仕事です。
Q3.なぜこの仕事に就いたのですか?
私は英国軍で25年間過ごしました。英国海軍で軍艦の艦長をしていたので、世界中を航海し、紛争地域に接近したり、紛争に巻き込まれた時間も長くありました。その結果、ICRCに出会ったのです。ICRCはどの紛争にも存在し、活動しています。このように、私は軍隊時代にICRCの存在を知り、退役後に欧州連合(EU)で6年ほど仕事をした後、ICRCで軍事顧問として働く機会が訪れました。軍人として紛争の状況を目の当たりにした私にとって、人類に恩返しができるというのは非常に魅力的なことでした。
Q4.ICRCで働く前に印象的だった仕事の内容を教えてください。
私は2003年のイラクとアフガニスタンのヘルマンド州で、2度紛争に巻き込まれた経験があります。私は軍隊にいたとき、紛争を経験しました。それはとても衝撃的な経験でしたが、そのような経験があるからこそ、ICRCの軍事顧問という立場で他国の軍人と話すときに、私自身の経験により、相手の今後の軍事作が想定できるので、自信を持って話すことができます。
欧州連合(EU)に勤務していたとき、最初の仕事は中東担当としてパレスチナ被占領地におけるEUのミッションを管轄していました。そのため、2、3カ月に一度はガザを訪れました。ヨルダン川西岸地区でかなりの時間を過ごし、イスラエル国防軍とその周辺の課題について話し、何人かのイスラエル人やパレスチナ人と親しくなりました。そして、状況が行き詰まったままであることへの苛立ちや失望感は、6、7年前であっても非常に強いものでした。紛争で対立している中、双方にいる友人たちが心に深い傷を負うような時間を過ごしていると知って、とても残念に思いました。
Q5.過去の経験から感じる、ICRCの仕事の特徴や、過去の仕事と今の仕事の違いはどこにあると考えますか?
EUは政治的な存在で、政治目的のために活動していました。その点で、中立ではありませんでした。ICRCが持つ他の組織との真の違いは、中立性を掲げ、助けが必要なすべての人びとにアクセスできること、紛争のあらゆる側面について、武器を所持しているすべての当事者と話し合うことが求められていることです。被害を受けた人びとは、非国家武装集団などから影響を受けているので、人道支援をする必要性は明らかであり、中立性を掲げる組織だからこそ、それが可能になります。 また、紛争において、ICRCは当事者のどちらの側につくかという選択肢を持ち得ません。影響を受けている人びとがどこにいようとも、活動しなければならないのです。中立性は、私たちの活動と存在の根幹をなすものです。の出身を尋ねられることがありますが、仕事をする際は「イギリス」も「ヨーロッパ」も私のアイデンティティを表すものではありません。私はICRCの職員であり、中立な組織の人間です。それが私であり、私がここで働く理由です。
Q6. 現在までで、アジア大洋州地域に対してどのような印象をもちましたか?
日本は島国です。そこからフィジー、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランド、ハワイといった国々にも目を向けています。いずれも海上での活動です。ICRCが自衛隊や軍と協力する際の課題のひとつに、ICRCの名前は聞いたことがあっても、何をしている組織なのかは知られていないということが挙げられるでしょう。日本であれば、日本赤十字社の活動を思い浮かべるかもしれません。赤十字といえば献血や救急法の訓練、あるいは自然災害の支援などが想像されるでしょう。ICRCは少し違います。対話をする当事者には、ICRCという組織から来た私たちが何者で、何をしているのか、そして何をしないのかを知ってもらうことが重要だと感じています。そうすることで、当事者は初めて私たちと対話をする意味を理解することができるのです。ですから、私たちがどのような存在なのかを理解してもらい、軍事関係者と協力できるように門戸を開くことが重要です。ICRCは常に中立であり、助けが必要な人びとがどこにいるかにかかわらず、人類の利益のために活動をしています。また、私たちの活動には守秘義務が伴うことが多く、秘密の厳守も重要です。私や他の同僚が紛争当事者や政府の関係者と話すことの多くは、完全に極秘事項だからです。まとめると、日本を含むアジア大洋州は、一般市民の人びとへの訴えや関わりは少ないものの、軍事顧問としての仕事の重要性はより高い地域と言えます。

ICRC
Q7. あなたにとってICRCとは一言でなんですか?
私にとってのICRCとは、明滅する光です。紛争という暗闇のなかにいるような経験において、ちらちらと瞬く光です。この光は、民間人、負傷者、病人、捕虜に対する希望と援助という非常に現実的な意味を持っています。ICRCの存在によって、希望、そして援助してくれる人がいるという期待感に繋がっていると感じるからです。
Q8. 最後に、若い世代でICRCに関心のある人びとに一言お願いします。
自分の信念に従ってみてください。この種の仕事を自身の天職として捉え、人類や人類の利益のために、困難な状況に身を置く覚悟がある方。そして、人びとの現実的な生活を本当に改善するため、変化をもたらすために、最善を尽くす覚悟がある方は、是非行動に移してください。年を重ねて体の自由が思うほど利かなくなった時に、ああしておけばよかったと後悔するのはむなしいです。天の声が聞こえたら、それに従ってみたらどうでしょうか。

ICRC