人道支援をテーマにしたハッカソン:歩行リハビリを受ける子どもを助けるバーチャルリアリティーのツールが大賞を受賞
世界の紛争地域で苦しむ何百万人もの窮状をテクノロジーは変えることができるのでしょうか?
この問いに答えるため、赤十字国際委員会(ICRC)は6月24日から7月2日まで行われたJapan XR Hackthon 2017に共催者として参加しました。新進気鋭の若手技術者のためのコンテストは、人道支援の現場で役立つツール開発を目的に、日本の4都市とカナダで実施されました。
ICRC大賞を受賞したのは、戦闘に巻き込まれて足を失くした子どもたちが楽しくリハビリできるツールを開発した「Happy Children」。大賞チームには、NoitomVRLab(ノイトム バーチャル・リアリティー ラボ )を120日間使用できるフリーパスと、ツールを完成させるための資金4万ドル(約450万円)が贈られました。
※Noitom(ノイトム)は、モーションキャプチャーに特化した技術系企業。会社名のNoitomは「motion」のスペルを逆読みしたもの。
99人の参加者の多くがチームに分かれ、XR(拡大された現実、または、仮想現実<VR>、拡張現実<AR>、複合現実<MR>の総称)などのテクノロジーが、紛争地域が抱える痛みや苦しみを軽減し、人々が尊厳をもって生きることを助ける人道支援にどのように活用できるかを披露しました。
今回のイベント開催では、ノイトム・インターナショナル(Noitom International)が中心的な役割を果たしました。社長のロック・ナカジマ (Roch Nakajima)さんは、ハッカソンのテーマ「人道支援に役立つXR」は挑戦的なものだったと語ります。「今までの技術的な枠組みを超え、時に想像することさえ容易でない世界の問題解決にXRをどう活用できるかという課題をXRコミュニティーに投げかけたことで、これまでになかった新たな何かが、ここ日本で始まったと思います」。
「ハッカソン開催期間のたった1週間足らずで達成させた成果をみると、受賞したプロジェクトは、今年の年末までには現場に導入できるでしょう」と話すのは、タイ・バンコクにあるICRCバーチャルリアリティーユニットを率いるクリスチャン・ルーファー。同ユニットは2011年以降、兵士や戦闘員の視点でみた紛争を正確に再現し、国際人道法の原則とルールを教えるためのコンピュータ・シミュレーションを開発してきました。
柳井成博さん、箕谷章さん、鈴木佑奈さんの3人からなる大賞受賞チームにとっての一番の課題は、XRの人道支援への応用でした。「人道支援という言葉は、日本で日常会話に出てきません。だからこそ、ICRCに提供してもらった背景説明や助言は貴重でした」と鈴木さんは話します。柳井さんにとっては、大賞の受賞が大きな励ましになりました。「チームメンバーは、それぞれ確かな能力と技術を持っていますが、社会のニーズに応えるためにどう活かして良いか分かりませんでした。そんな私たちに、苦しんでいる人たちに役立つ何かを開発する機会を、このハッカソンは提供してくれました。自分たちのアイデアが社会のためになる製品に変わるのを見られることは、とても刺激的です」。
このハッカソンは、仮想体験を通じて紛争下の人々への共感を育むだけでなく、リハビリへの支援など、先端技術を生かした人道支援の拡大を目的に開催されました。XRは、紛争地域の人々の訓練や教育ツールとして、また人道支援従事者を助けるツールとしての可能性を秘めていて、まだ未開拓です。人道支援の現場へのXR導入は、ICRCが支援する人々やコミュニティーに大きな影響をもたらすことができると信じています。
Japan XR Hackathonは、創造性と娯楽性がテーマの枠組みに産業界やデベロッパー、そして一般の人たちを取り込み、XR市場を活性化させます。今年のハッカソンはICRCが共催し、ノイトム、パンドラ(Pandora)、シリコンバレー バーチャルリアリティー(Silicon Vally Virtual Reality: SVVR)の主催で行われました。
受賞作品
- ICRC大賞
足を失った子どものために開発された「Happy Children」
副賞:4万ドルの開発費用、NoitomVRLabの120日間フリーパス - ICRC賞
紛争下の性暴力防止に焦点をあてた「Sexual Violence Meter 」
副賞:1万ドルの開発費用、NoitomVRLabの120日間フリーパス、スイス・ジュネーブまでの航空券(ICRC本部で性暴力を扱うユニットへのプレゼンテーション)
英文は本部サイト(英語)をご覧ください。