核兵器禁止条約 第3回締約国会議 国際赤十字・赤新月社連盟と赤十字国際委員会(ICRC)の共同声明

お知らせ
2025.03.17

ICRC

ニューヨーク、2025年3月5日。

赤十字国際委員会(ICRC)は今から80年前、1945年8月29日に広島に到着したばかりの一人の職員から次のような電報を受け取りました。

状況はひどく、街は壊滅状態、病院の8割は全壊または甚だしく損壊。救急病院を2カ所視察したが、筆舌に尽くしがたい惨状。爆弾の威力は信じがたいほど破壊的。回復に向かっているかにみえた患者の多くが白血球の減少などの体内の異常により突然危篤状態に陥り、膨大な数の人びとが生死の境をさまよっている。周辺の病院には現在も10万人以上の負傷者がいると推定されるが、不幸にも薬や包帯が足りず

最終的な犠牲者は、10万人をはるかに超え、1945年末までに14万人が、以降はさらに増えて32万人が死亡。生き残った何十万人もの被ばくした人びとが肉体的、精神的に悲劇の傷跡を背負って生きています。この状況は、長崎でも同じです。

1945年以来、核兵器の破壊力は何千倍にも増大しました。しかし、どの国も、また国際赤十字・赤新月運動(赤十字運動)を含め、緊急対応をおこなう任務を負ったどの組織も、被害者を支援する能力は持ち得ていません。核兵器が人類に及ぼす壊滅的な影響は、人道支援組織による効果的な対応能力をはるかに超えています。

ICRCと、ベルギーおよびノルウェーの赤十字社、ノルウェー人民評議会は昨年、核兵器が2025年に使用された場合の人道上の影響に焦点を当てた2つの会議をブリュッセルとオスロで共催しました。NukeExpoでは、 トップクラスの専門家と政策立案者が一堂に会し、核兵器使用のリスク、短期的および長期的な人道上の影響、ある首都の上空で100キロトンの核爆発が1回発生した場合の対応能力について、エビデンスに基づく分析が行われました。

その分析とシミュレーションの結果、80年前に広島で目の当たりにした恐ろしい光景と同様になることが分かりました。数万人が即死し、数十万人がひどい火傷や爆風による負傷、放射線中毒に苦しむことになるでしょう。市街地やその近郊の住民にはほとんど、あるいは全く援助が行き届かず、人びとは自力で生き延びるか、爆心地から数十キロ離れた地域にたどり着くしかありません。そこでも、限られた資源、通信手段の断絶、放射線の恐怖によって、公共サービスは機能不全に陥るでしょう。重度のやけどを負った何千もの患者用のベッドはわずかしかないでしょう。政府や緊急対応チーム、軍関係者から首尾一貫した対応を要請する意思決定者の多くも犠牲となるでしょう。

私たちはこの恐ろしい現実を踏まえて、核に関する議論と意思決定をおこなわなければなりません。その一環として、赤十字運動の最高意思機関である代表者会議は「核兵器の使用が人道上および環境にもたらす壊滅的な影響と、核兵器が使用された場合に適切な人道的対応能力が欠如していることに対する長年にわたる深い懸念」を4カ月前に再度表明しました。赤十字運動は、「核兵器が国際人道法の原則とルールに則って使用される可能性は極めて低い」と考えます。私たちは長年にわたり、核兵器使用の合法性に関する各国の見解に関わらず、人道的見地から核兵器が二度と使用されないよう、すべての国に呼びかけてきました。

核兵器禁止条約は、ここまで述べてきた現実に対する、歴史的かつ世界待望の成果であるといえます。私たちは、この画期的な国際条約の締約国である73カ国を称賛し、25の署名国には批准の手続きを完了して条約を遵守するよう強く求めます。また、それ以外のすべての国に対しては、早期参加を呼びかけます。ICRCは、国家安全保障戦略の一環として核兵器に依存する国々に対し、核兵器が世界の大部分を脅かす存在であることを認識するよう促します。このことは、第2回締約国会議以来オーストリアが主導してきた核兵器禁止条約の協議プロセスの報告書にも明記されていて、私たちもこれを歓迎しています。

国際的緊張が高まる今、私たちは世界的な人道主義に基づく運動体として、核兵器の使用を示唆するいかなる脅しも非難します。そうした脅しは核兵器禁止条約でも完全に禁止されていて、不測の事態や事故によって核兵器が使用されるリスクを高め、人道的、法的、倫理的観点からも深刻な懸念を生じさせます。加えて、個人や社会を不安定化させ、状況がエスカレートし、核兵器の拡散を誘発する可能性があります。それは、核兵器禁止条約と核不拡散条約の目的と趣旨に反します。

核兵器使用を継続的にちらつかせることでそうした暴言が当たり前に感じられるようになり、過去80年間使用に歯止めをかけてきた、核をタブー視する考え方を損なうリスクがあります。そのような威嚇を控え、国際社会が一貫して非難することこそが、将来の核兵器使用を回避するための鍵とみなされるべきです。

核兵器が人道上もたらす壊滅的な影響と、存在する限り使用されるリスクが伴うということを、世間や政策立案者にきちんと知ってもらうためのさらなる努力が早急に必要です。すでに膨大な知見が存在するなか、放射線が女性と子どもに与える影響、生殖機能への影響と被ばく者の子どもなど次世代に引き継がれる影響の可能性、過去の核兵器実験で被ばくした人びとの健康被害、そして、環境や通信、インフラ、国際金融システム、社会秩序、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に及ぼす連鎖的影響についてより理解し、エビデンスに基いたさらなる研究が求められています。

この点について、私たちは、本条約の科学諮問グループが実施した作業と、2024年の国連総会の決定、「核戦争の影響と科学研究」に関する国連事務総長による研究委託の決定を歓迎します。また、1987年に世界保健機関(WHO)が発表した「核戦争の健康と医療サービスへの影響」に関する報告書の更新を委託する取り組みも支持します。

今日、多くの個人や地域社会が、過去の核関連活動がもたらした結果に日々苦しみ続けています。私たちは、「被害者支援、環境修復、国際協力および援助」において第6条と第7条に定められた積極的義務を実行に移すための締約国の努力を歓迎します。そして、この作業を支援する信託基金の設立の可能性について、本会議で大きな進展が見られるよう、また、影響を受けた個人やコミュニティーが、近い将来において、核兵器禁止条約の恩恵を享受できるよう、締約国が共同で努力を続けるよう求めます。

最後に、私たち赤十字運動は一丸となって、核兵器のない未来に人類を導くという同条約の誓約実現に向けて、不断の努力を続けることを約束します。