破壊と喪失の10年―シリアの若者が背負う大きな代償

プレスリリース
2021.03.10

シリアの現地住民に囲まれている赤十字国際委員会の職員

 

ジュネーブ(ICRC)―2021年3月、シリアのカオスは11年目に突入します。赤十字国際委員会(ICRC)が外部に委託した昨今の調査では、過去10年の危機的状況がシリアの若者たちにとてつもない代償を払わせていることが浮き彫りになりました。

調査対象者は、シリアやレバノン、ドイツの3カ国で暮らす18〜25歳のシリア出身の若者1,400人です。家族や友人との絆の崩壊、経済的に追い詰められた末の生活苦と先行きの不安、目標設定ができない日常、そして長年にわたる絶え間ない暴力と混乱によって心に負った深刻な傷などについて語ってくれました。

「すべてのシリア人にとって、破壊と喪失の10年間でした。特に若者たちは、愛する人や機会、将来の見通しさえも奪われました。調査結果に映し出されたのは、紛争によって思春期や青春時代が満たされなかった世代の苦悩です」とICRCのロバート・マルディーニ事務局長は語ります。

シリアは人口の半数以上が25歳未満であるため、調査結果からは、この10年に何百万ものシリア人がどのような日常を耐えてきたかを伺い知ることができます。

  • シリアで暮らす若者の約半数(47%)が、紛争により命を落とした近親者または友人を持ち、約6人に1人(16%)が殺害されたまたは重傷を負った親を持つ。12%は、自らが紛争により負傷している。
  • 近親者と連絡が取れない人が54%。レバノンの回答者に限ると約70%と高め。
  • 62%が家を追われ、シリア国内外に避難。
  • 約半数(49%)が紛争により収入源を断たれた。5人のうち4人(77%)が食料や生活必需品の調達、購入に困難が伴い、シリアの回答者に限ると約85%と高め。
  • 57%が、たとえ通学が可能であったとしても、長い間教育を受けられていない。
  • 5人に1人が紛争により結婚の予定を延期。

回答した若者たちが最も必要としているのが、経済活動の機会と仕事です。次に、医療、教育、心のケアと続きます。中でも女性は経済的に大打撃を受けています。シリアに暮らす女性の3人に1人が収入ゼロと回答し、家族を養えていません。一方レバノンでは、人道支援を求める声が上位に見られています。

また、紛争が心の状態にも暗い影を落としていることが明らかになりました。シリアに暮らす若者はこの1年間、次のような症状に悩まされました:睡眠障害(54%)、不安(73%)、抑うつ(58%)、孤独(46%)、苛立ち(62%)、苦悩(69%)。心のケアは、調査した3カ国で特に必要とされているものの一つでした。

ICRC中東事業局長のファブリツィオ・カルボーニは、こうした若者たちの将来を憂慮します。「混乱した苦しい状況の中で、次の10年が始ります。この世代は、子ども時代や青春時代のほとんどを暴力行為によって奪われました。にもかかわらず、復興や再建に向けての責務が将来的に重くのしかかってくることでしょう。非常に気の毒な立場に置かれています。これから生まれてくる子どもたちの人生にも、紛争の爪痕は見て取れるでしょう」。

シリア紛争は、言語に絶する残酷な日常へと市民を追いやりました。都市部で繰り返される大規模な破壊により、人々は国内で逃げ惑い、また海外に逃れることで世界に波紋が広がりました。2020年は、紛争が始まって以来最大の経済危機に見舞われました。それに、国際社会からの制裁や世界規模のコロナ禍が追い打ちをかけ、何百万もの人々の生活が困窮を極めました。シリアの総人口約1,800万人のうち、およそ1,340万人が現在も人道支援を必要としています。この数字は、東京都の総人口(約1,390万人)に相当します。

このような現状にあっても、回答者のほとんどは、明るい未来を思い描いていました。次の10年を見据えての抱負や願いは共通しています。安心と安全、安定がもたらされること、家族を持って給料の良い仕事に就くこと、医療や公共サービスを受けられるようになること、そして何より、紛争とカオスが終焉を迎えることです。