ICRC設立から160年:紛争下にある人々の苦悩の緩和に向けて、いまなお課題は山積み
武力紛争下で苦しむ数百万もの人々に寄り添い続けてきた赤十字国際委員会(ICRC)は、2023年2月17日に設立から160年目を迎えました。
1863年の設立以来、紛争の形は技術の進歩に伴い大きく様変わりました。一方で、残念ながら変わっていないこともあります。それは、紛争の犠牲となった人々が強いられる壮絶な苦悩です。ICRCの共同創設者であるアンリー・デュナンは、イタリア各地で激しい統一戦争が勃発した1859年、北イタリアの町「ソルフェリーノ」で残虐な戦闘を目の当たりにして、次のように記しました。
多くの家が穴だらけになり、破壊され、がれきと化していました。光の届かない地下室で、何も食べずに丸一日近く身をひそめて隠れていた住民たちが、自分の身に降りかかった出来事に恐れおののきながら、外に這い出してきました。
当時、デュナンが記した内容は、ウクライナやイエメン、シリアの紛争下で苦しむ人々に今でもそのまま当てはまります。ここ数年にわたり戦闘が続いているアフガニスタンやソマリアで暮らす人々も同様に、紛争の残虐さに恐れおののく他ないのです。
ICRCのミリアナ・スポリアリッチ総裁は、「ICRCは、160年にわたる支援活動を通して、世界各地の戦場で民間人への被害が大きく減ってきたことを実感しています。一方で、今なお多くの人々が紛争下で壮絶な苦悩を強いられています。人々の苦悩の緩和に向けて、いまなお課題は山積みです」と語ります。「これまでも、そしてこれからも、国際人道法を尊重することで、最低限の人間性が戦時下で保たれるのです。戦争のルールを守ること。それこそが政治の最優先事項であるべきです」。
ICRCは、世界100以上の国や地域で活動し、約21,000人の職員が主に紛争地域で人道支援を展開しています。新しい武器や技術が次々と生み出されていく現状においても、ICRCはこれまでと変わりなく、国際赤十字・赤新月運動のパートナーと連携して、中立・独立・公平の諸原則に基づき人道支援を行っていきます。また、こうした諸原則に基づく活動がすべての人に理解されるよう啓発活動を続けていきます。
誰の側にもつかないICRCが唯一擁護するのは、「人道」です。私たちはこれまで同様、これからも武力紛争に直接参加していない人への攻撃を禁止する国際人道法のよりいっそうの尊重を求め、訴え続けていきます。
編集後記:デュナンは、イタリアでの自身の体験をもとに、のちに『ソルフェリーノの思い出』という本を著し、戦争で負傷した人を敵味方の区別なく救うための組織をすべての国に設けることに加えて、世界共通の標章の採択や国際的な条約の締結を提案しました。1863年2月17日に、ICRCの前身である「五人委員会」が結成されて、デュナンの提案の一つが実現。さらに、その1年半ほど後の1864年8月22日には、戦闘下における傷病兵やその救護にあたる人々、救護のための機器を保護の対象とし、危害を加えてはならないことを明記したジュネーブ条約が、12カ国の署名により誕生しました。