国際人道法(IHL)を教育に!——第2回国際法教育カンファレンスの参加報告

© Gen SASAKI/ Miharu HIRAN
2025年3月、国際法教育CoLab及び東北大学国際法政策センタ―主催の第2回国際法教育カンファレンスに、ICRC駐日代表部も参加しました。
仙台で開催された同カンファレンスでは、「国際人道法(IHL)と教育」に焦点を当てた会合に約20名の若手国際法研究者が集いました。
1つ目のセッション「ICRCと国際人道法教育」では、教育現場におけるIHL普及の重要性と、ICRCが提供する多種多様なツールを紹介しました。
2つ目のセッションの「シミュレーション・ロールプレイ」では、戦時の決まりごとであるIHLを青少年に学んでもらう体験型ツール赤十字の「レイドクロス(RAID Cross)」を、青森県立はまなす医療療育センターの吉川靖之氏が紹介。加えて、模擬事例を用いたロールプレイを実体験する機会も設けました。これら2つのセッションを通じて、IHL教育の鍵が「対話」と「体験」であることが、改めて参加者の間で認識される機会となりました。
“学ぶこと”から“活かすもの”へ
IHLのみならず国際法は、専門家だけが論じる難解なもので、「一般人とは無縁」と捉えられがちです。しかし、赤十字が進めるIHL教育は、学生や一般市民も含めた多様な対象者に向けられていて、現実的な意義を強調するアプローチを採用しています。前述した両セッションでは、大学や高校など中高等教育の現場で有効な教材の導入の可能性、ワークショップ形式の体験学習や模擬裁判の実施例が紹介されました。
ロールプレイの「自分ごと」効果
赤十字のIHL教育の一環として紹介された、セッション②のシミュレーション・ロールプレイにおいて、参加者は紛争下を仮定して軍人や法務官、人道支援要員などの立場を演じました。仮想事例をもとに法的・倫理的判断を求められ、砲撃のシナリオでは、与えられた大小のボールを攻撃手段に見立て、離れた場所にあるさまざまな対象物を、命じられた指示に基づき攻撃。その際、周囲の民用物にどのような影響が及ぼされるのかということを、実際に武器を持って戦う軍人の立場で考慮します。これは、区別・均衡性の原則や付随的損害と軍事的必要性、民間人などの保護、といったIHLの根幹をなす原則を学ぶのにうってつけです。
こうした体験を通して、抽象的だった法概念がリアルな問いを喚起することにつながります。IHL教育とは、単に規則を学ぶだけではなく、「立場を超えて他者の視点を理解する力」を育てるものでもあります。まさにそのプロセスこそがIHL教育の真髄です。
その他で印象的だったのは、普段、研究者として高等教育にも携わる関係者が知恵や経験を共有しあい、国際法を単に“教える”のではなく、現場の葛藤に苦しむ状況に身を置いて、「自身の頭で考える」手法を重視している点でした。こうした参加・対話型の教育によって、学生たちは「もし自分がその場にいたら」という視点でロールプレイに挑み、国際法が実際に運用される“現場性”を肌で感じることができます。
学術界、実践者、若者たちによる相互作用
2つのセッションには、大学の法学部や国際関係学部の教員に加えて、学部・修士・博士課程に在籍する学生たちも参加しました。学術界と法曹界、そしてこれからいずれかの世界に進む若い世代が互いに学び合い、影響し合う場は非常に貴重です。、ロールプレイを講義に取り入れたある教員の方は、「ロールプレイの利点は一方向ではなく、学生の反応からも気づきが得られること」と語ります。こうした相互作用こそが、今後のIHL教育において求められる重要な鍵になると私たちは考えます。
より広く、深く
戦争や武力紛争を身近に感じることのない日本においても、IHLは「他人ごと」ではありません。まさに今、世界各地で起きている紛争で一般市民がどのような犠牲を強いられているかを考えるとき、IHLの知識と視点を持つことは、現代社会を生きる私たちの視野を広めてくれます。教育とは、講義を一度きり受講することではありません。共に考え、悩み、行動するプロセスです。そのプロセスを真摯に踏んでいく中で、延長線上に「戦争にもルールがある」という常識が社会全体に認知されることを願っています。
ICRC駐日代表部は、引き続き、ロールプレイや模擬裁判、講演会などの「対話」と「体験」を通じて、IHLを「人から人へ」伝える取り組みを続けていきます。