国際人道法(IHL)を教育に!——第2回国際法教育カンファレンスの参加報告

イベント
2025.04.25

2025年3月、国際法教育CoLab及び東北大学国際法政策センタ―主催の第2回国際法教育カンファレンスに、ICRC駐日代表部が参加しました。

仙台で開催された本カンファレンスでは、「国際人道法(IHL)と教育」に焦点を当てた会合に約20名の若手国際法研究者が参加しました。

1つ目のセッション「ICRCと国際人道法教育」では、教育現場におけるIHL普及の重要性とICRCが提供する多様な資料やツールを紹介しました。
2つ目のセッション「セッション②:シミュレーション・ロールプレイ」では、青森県立はまなす医療療育センターの吉川靖之様より国際赤十字・赤新月運動で活用するレイドクロス(RAID Cross)をご紹介頂きました。また本カンファレンスの参加者のうち、大学で教鞭をとる研究者の方々には、模擬事例を用いたロールプレイを実体験いただきました。これら2つのセッションを通じ、IHL教育の鍵が「対話」と「体験」であることが、改めて浮かび上がりました。

国際法を“学ぶこと”から“活かすもの”へ

IHLのみならず国際法は、専門家だけが理解できる難解なもので「一般人とは無縁」と捉えられがちです。しかし、ICRCが国際赤十字・赤新月運動で進めるIHL教育は、学生や一般市民も含めた多様な対象者に向け、現実的な意義を強調するアプローチを採用しています。今回の両セッションでは、大学や高校など中高等教育の現場で有効な資料の導入の可能性、ワークショップ形式の体験学習や模擬裁判の実施例を紹介しました。

ロールプレイによる「自分ごと」効果

ICRCが支援するIHL教育の一環として、セッション②でシミュレーション・ロールプレイを実施しました。参加者は紛争状況における軍人、法務官、人道支援要員などの立場となって、与えられた事例をもとに法的・倫理的判断を求められました。砲撃のシナリオでは、与えられた大小のボールを攻撃手段に見立て、離れた場所にある様々な対象物を、命じられた指示に基づき攻撃をする際、周囲の民用物への影響を軍人の立場に立ってIHLを元に検討する必要があります。こうした経験によって、区別・均衡性の原則や付随的損害と軍事的必要性、民間人などの保護、といったIHLの根幹をなす原則について身をもって体験できます。

IHL教育の鍵である「体験」と「対話」

今回、ロールプレイを体験することで「身体をとおして抽象的だった法概念がリアルな問いになる」ことが明らかになりました。国際人道法は規則を学ぶだけではなく、「立場を超えて他者の視点を理解する力」を育てるものであり、まさにそのプロセスこそがIHL教育の核心でもあると言えます。
また、普段、研究者として高等教育にも携わる関係者が知恵や経験を共有しあい、国際法を単に“教える”のではなく、現場の葛藤に苦しむような状況に身を置いて「自身の頭で考える」手法を重視している点も印象的でした。こうした参加・対話型の教育をとおし、学生たちは「もし自分がその場にいたら」という視点でロールプレイに挑み、国際法が実際に運用される“現場性”を肌で感じることができます。

学術界、実践者、若者たちによる相互作用

今回の2つののセッションでは、大学の法学部や国際関係学部の教員に加え、学部・修士・博士課程に在籍する学生たちも参加しました。学術界と法学を実践する業界、そしてこれからいずれかの世界に進む若い世代が互いに学び合い、影響し合う場は非常に貴重な機会となりました。たとえば、ロールプレイを講義に取り入れている教員は「ロールプレイの利点は一方向ではなく、学生の反応からも気づきが得られること」といいます。こうした相互作用こそが、今後のIHL教育において求められる重要なヒントになるのではないでしょうか。

IHL―より広く、深く

戦争や武力紛争の現実が縁遠いと思われる日本においても、実はIHLは「他人ごと」ではありません。まさに今、世界各地で起こる市民に対する被害を考えるとき、IHLの知識と視点を持つことは、現代社会を生きる私たちにとって欠かせない教養になりつつあると言えます。教育は、講義を一度きり受講するだけでは終わりません。真の教育とは、共に考え、悩み、行動するプロセスです。そしてこうした不断の努力の延長線上に「戦争にもルールがある」という感覚が、社会全体に醸成されることを願っています。

本カンファレンスを後援するにあたり、平野実晴先生(神戸大学)、二杉健斗先生(大阪大学)、根岸陽太先生(西南大学)、佐俣紀仁先生(東北大学)を始め、多くの関係者の方々にご尽力を頂きました。ICRC駐日代表部は、引き続き、ロールプレイや模擬裁判、講演会などを通じて、IHLを「人から人へ」伝える取り組みを続けていきます。