インタビュー:命をつなぐインフラを支える仕事~ICRCの“水と暮らし”事業
皆さん、こんにちは。アレキサンダー・ハンバートです。私は、赤十字国際委員会(ICRC)水と暮らし事業のアジア大洋州担当顧問として、現在タイの首都バンコクに駐在しています。私の仕事は、アジア大洋州のICRCの代表部で水や住環境を専門としている同僚たちをサポートし、技術面でのアドバイスをおこなうことです。アフガニスタンやパキスタン、北朝鮮、パプアニューギニアが主です。あとは、収容施設の設備の向上など、必要な場所に必要な支援を届けられるよう、ICRC内の他部署と連携して戦略的にニーズを埋めることも重要な仕事です。最近では、気候変動を受けた取り組みにも従事しています。
ICRCに入るまで
大学では土木工学を専攻し、卒業後は、母国フランスの民間建設会社で6年働きました。そこでは、病院や学校など、大きな案件の建設に携わっていました。日々の業務を通じて専門性が高まるにつれ、会社の利益を追い求めて仕事を続けるのではなく、“シビルエンジニア”(土木技師)として働くうえで別の目的が欲しいと思うようになりました。朝起きて「さてやるぞ!」と思えるような目的です。ICRCは、支援を必要とする、社会的に最も弱い立場に置かれた人々に寄り添い、厳しい環境下で暮らす人々の生活を少しでも向上させられるよう力を尽くします。これが、「一人の地球市民として、よりよい世界を形作っていく」という私の人生のモットーと合致したんです。
これまで培ってきた建設や公衆衛生工学の専門知識を生かして、2011年からICRCの国際要員として働きはじめ、これまで12年以上にわたって人道支援の現場で働いてきました。単に、キャリア構築の一環としてICRCで働き始めたのではなく、人生を変える選択のひとつとしてこの進路を選びました。自分の心の内側から湧き上がる“やる気”が、ICRCに居続ける理由のひとつです。これまで、ハイチやチャド、アフガニスタン、ミャンマーなど、さまざまな国で活動してきました。そのたびに新しい人々や文化に出会います。技術面でのレベルの違いを含めて驚くこともありますが、そうした経験の一つ一つが、自分の人生を興味の尽きない人生にしてくれているんだと思います。
人道支援の現場での役割
水と暮らし、公衆衛生にまつわる仕事
私たちの水と暮らし部門は、水や電気、住宅などの住環境を維持するのに欠かせないサービスを断たれた人の命と健康を守るために活動します。必要とされるインフラのデザインから提供までをおこない、インフラの状態を評価するために現地まで赴き、実際に利用している人たちの要望を把握し、分析します。そして、需要と供給のギャップを埋めていきます。
私たちのチームの業務は多岐にわたり、自然災害や紛争など、危険な状況や急を要する環境で業務を遂行することもあります。例えば、医療面でいうと、命を救う立場にいる同僚たちがその使命を全うできるよう、病院を建てたり、修繕したりします。
ICRCの重要な仕事に、収容施設の訪問があります。捕虜など、拘束されている人たちの人間の尊厳が保たれているかを、保護部門や医療部門のスタッフと確認し、状況を分析します。例えば、換気がきちんとできているか、十分な明かりがとれているか、清潔な水が入手できているか、体を伸ばして寝るスペースは確保できているか、調理場は全員分の食事を十分まかなえるだけの規模か、などです。十分な食事がとれる環境であれば、栄養失調などの問題も起こりにくく、被拘束者の健康の維持に繋がります。
収容施設を訪問する場合、チェックする場所を事前に決めておきます。それから、直接自分の目で見たり、話を聞いたりしながら、必要な情報を集めていきます。何が起こっているのか、何が必要なのか、被拘束者にもプライバシーを確保した上で話を聞きます。そこにいる人たちのニーズを把握することが一番重要だからです。施設訪問後は、集めた情報を同僚たちと精査し、国際人道法上の基準やICRCに与えられた任務の目的に基づいてチーム一丸となって分析をおこない、優先順位を決めていきます。
中には、さまざまな要因から十分な水へのアクセスがなかったり、建物や設備が破損していたり、収容人数の過多により換気が上手くできていないケースもあったりします。また、医療や水など必要不可欠なサービスに継続的にアクセスできていないことなども、多くの収容施設が共通して抱えている課題です。そのような住環境を改善するため、収容当局と建て直しや修繕について直接話し合います。もし、私たちが介入しなければ、人々の命や健康に影響を及ぼしかねません。そうした事態を何としても避けるために、私たちがいるのです。
そのため、日々一生懸命任務にあたっていますが、物事がそう簡単に進むとは限りません。手っ取り早い解決策など存在せず、長期にわたって取り組む覚悟が必要です。場合によっては、その国や地域の法律やシステムそのものを変える必要もあり、資金調達も含めて、全ての過程に時間を要します。
記憶に残る、ハイチとアフガニスタンでのミッション
ICRC職員として初めて赴いたハイチでの任務は、とても鮮明に記憶に残っています。全てが、新しいことずくめでした。リハビリテーションセンターの再建設では、他部署の同僚と連携をしながら、地震で倒壊したセンターをデザインし直し、施設の建設をおこないました。また、2013~14年に駐在したアフガニスタンでは、治安上の理由から、外出ができませんでした。南部カンダハールの病院のプロジェクトに従事していたのですが、病院と宿舎をひたすら往復する毎日でした。アフガニスタン駐在は自分の希望でもあったので、同僚と協力して、ストレスを感じずに日々過ごすようにしていました。
派遣される国や地域は毎度違いますが、何もかもが違うわけではありません。私自身の経験や蓄えてきた知識と、ICRCが長きにわたり築き上げてきた専門性が相まって、多角的に現場の分析をおこない、何が必要とされているかの答えを導き、現場に適応することが可能となっています。
地元住民と一致団結して取り組み、持続可能なシステムに
命に関わる、急を要する事態においては、自分たちだけで任務を遂行するときもありますが、基本的には、その国や地域の住民と共同で作業をおこないます。そして、地元で調達可能な資源や技術、知識をもって、必要な事業を立ち上げていきます。例えば、日本の耐震基準に見合ったものをアフガニスタンで作ろうとすると、技術面で困難に直面し、持続性に欠けます。だからと言って、完成したものを寄付するというのも、十分ではありません。支援をする際は、地元の人たちが引き継ぎ、維持、修理する必要があります。現地で入手できる資源や技術を用いて、建設から修繕までどのような過程だったのかを地元の人たちが知らなければ、その施設や設備は維持できません。長く持続させるためにも、できる限り、その国や地域の人たちを巻き込んで一緒に作業をおこなっています。個人的にも、ミッションごとに違う地域を訪ねるので、心を開いてその文化を受け入れることはとても大切だと実感しています。