ICRC職員インタビュー クリスティーン・チポラ(ICRCアジア大洋州局長)
そもそもICRCで働こうと思ったきっかけは?
2005年にICRC職員になったので、もうすぐ20年になります。最初のミッションは、エチオピアで、その後も国際職員としてさまざまな海外の紛争地で働きました。2011年にジュネーブ本部で約1年半アジア地域を管轄し、その後、バングラデシュやコンゴ民主共和国で現地代表として勤務しました。現職には、2019年6月に着任しました。
社会人になる前には、スイスの大学で法律を学んでいました。スイスでは、ICRCはとても有名な組織なので、学生の頃から働いてみたいと思っていました。家族を失って、厳しい避難生活を余儀なくされる人々のために働くICRCは特別な組織に思えたんですね。入るには職務経験が必要だったので、刑法の分野で2年経験を積んでから国境なき医師団(MSF)に入りました。人道支援をはじめ、医療組織がどのように支援の現場で機能しているのかをMSFで学べたことで、ICRCに入ってすぐに海外の支援現場に行けたんだと思います。
実は私の姉も以前ICRCで働いていたんです。姉は私が入る前に退職していたのですが、1990年代にユーゴスラビアやルワンダ、スリランカなどで紛争が激化していた時代にICRCの職員でした。姉の働く姿を見て、私もやってみたいと決心したのを覚えています。
私ができることは大海の一滴にしか過ぎないのですが、周りに誇れる仕事だと感じています。
アジア大洋州局長はどんな仕事をしているの?
ジュネーブ本部を拠点に、アジア大洋州地域にある代表部を統括することが私の主な仕事です。現在、日本を含めて12の代表部があり、各代表部の独自性を踏まえて、それぞれの国におけるICRCの付加価値を形成しています。アジア大洋州地域にある代表部は、大きく分けて3つに分類することができます。
1つ目は、アフガニスタンやミャンマー、フィリピンなど紛争や暴力の影響下にある地域で、支援を必要とする人々に寄り添う代表部です。これら3カ国での支援ニーズは非常に大きく、アジア大洋州地域に割り当てられた予算の約75%を占めています。
そして2つ目は、外交的な働きかけです。日本はこれに該当し、世界中で展開するICRCの活動を人道外交上サポートしてくれています。中国やインド、インドネシアのような国々も外交面では高い影響力があります。
そして3つ目は、資金調達です。(ICRCの活動費は、主にジュネーブ諸条約に加入している政府から拠出されているため)日本をはじめ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国は、アジア大洋州地域におけるICRCの活動を支える重要なドナー国です。現地政府および国民から理解を得ることは非常に重要で、私はこれら3つの役割を基軸にそれぞれの代表部の活動をジュネーブ本部からサポートしています。
また、各国の代表部に出向き、政府関係者や他の人道支援団体、学者、シンクタンクなどさまざまなアクターと交流し、関係を構築することも私の大切な仕事の1つです。
日本にはどのような役割を望みますか?
日本は、アジア大洋州地域において非常に重要な役割を果たしています。この場を借りて、日本政府をはじめとするICRCを支援してくださる方々に、お礼申し上げたいと思います。
日本の役割は主に3つです。まず、政治的な影響力と資金面でのサポート、核兵器の脅威を世界に伝えるうえでの役割です。現在、ウクライナやガザなどで起きている激しい武力紛争の中、日本は私たちの活動をさまざまな面で支えてくれています。これは、紛争から距離を置いている国々に、直接ではないにしろ重要なメッセージを届けていると思います。日本がトップドナーの一つであり続けている事実も、私たちの活動の継続性には重要です。また、軍拡競争が高まり、核武装の話をする国も出てきているなか、日本の声は非常に重要になってくると思います。
アジア大洋州地域で、ICRCが直面している課題は?
この地域での紛争と言えば、20世紀に起きたことという印象を持たれがちだと感じます。ICRCは当時から支援活動を続けていますが、今はそれぞれのアクターとの対話を重ね、新しい規範や支援の在り方を考え、それに適合していくことが重要だと思います。2024年になった今、ICRCがアジア大洋州地域で一体何ができるのか、それを再考することも必要だと思います。この地域に限ったことではありませんが、地球上のほぼすべての国によって署名されているジュネーブ諸条約の遵守は、政治的な優先事項です。それをどのように政治に反映してもらうか、私たちの活動がどのような影響を具体的に与えることができるのか、支援が必要な人々にどこまで寄り添えるのか。私たちは、それらの議論を進めるために絶え間ない努力が必要だと思います。
これからの世代に伝えたいことは?
2つあります。1つ目は、ぜひ人道支援に携わっている人たちの話を聞いてみて欲しい、ということです。日本にはICRC駐日代表部があるので、職員たちと話す機会を設けるのも良いと思います。特に、海外での経験を持っている職員たちの話を聞くと良いですね。現地で直面する課題や支援現場で働くことがどのようなものか、より具体的にイメージできるようになると思います。2つ目は、実際に関わって欲しいということです。やってみないと分からないことは本当にたくさんありますからね。まずは、関心のある人道支援組織がどのような活動をしているのか調べてみて、何らからの形で参加して興味を持ったら、実際に働いてみるのも良いと思います。