国際人道法(IHL)ロールプレイ大会世界大会 ジャン‐ピクテ・コンペティションに出場した東京大学チームにインタビュー

国際人道法
2025.03.24

東京大学チーム 大会後の様子

赤十字国際委員会(ICRC)は、2024年12月に国際人道法(IHL)ロールプレイ大会国内予選を開催しました。

今回は、同大会の世界大会と位置付けられているジャン-ピクテ・コンペティション(以下ジャンピクテ)に出場した東京大学の学生3名にインタビューを実施し、大会までの準備、大会での経験、参加して得られたものなどについてインタビューしました。

今回お話を伺ったのは、同大学教養学部4年のペインハンナ愛子さん、同大学教養学部2年のべスヨンさん、同大学理科一類1年の根来一葉さんの3名です。

※IHLロールプレイ大会とは、学生たちが武力紛争下におけるさまざまな架空の状況下で、人道支援団体をはじめ民間人、武装勢力など、与えられた役割を演じ、参加者間でIHLの知識や理解度を競う大会です。2024年度 IHL模擬裁判・ロールプレイ大会国内予選の結果報告はこちら

Q1:参加したきっかけは何ですか?

ペインさん:まず国内のロールプレイ大会国内予選に参加し、そこで受賞したことによってICRCからジャンピクテに参加することを勧められたので応募しました。

ベさん:指導教員の先生が、国際人道法に関心がある生徒に向けて毎年講義をしてくださるのですが、その際に国内予選について紹介されたことで参加しました。

Q2:練習で重視したことや、大変だったことは何ですか?チーム内の関係性はどうですか?

ベさん:チームとして、お互いの強みと弱みをよく理解していました。いつ発言し、いつ待つかといったタイミングもよく分かっているような感じで、とてもいい雰囲気でした。

ペインさん:練習中は、時間制限を再現することを意識しました。時間の制限を設け、その中でどう役割を分担し、その役割を実行するかといったことを意識して準備を進めていきました。

根来さん:限られた時間で準備をするというのがロールプレイの大変なところであり、楽しいところでもあると思います。練習の時に、臨場感を出すことが大変でした。本番で緊張しても、その場に入るしかないのですが、私たちは比較的仲が良く、落ち着いてるチームであるということもあり、リモートで3人で練習する際に本番の緊張感を想像して練習することが大変でした。
チームの関係性については、良いバランスが取れていたと思います。全員が落ち着いており、各自の努力を怠らないので、一緒にチームを組むことができて良い経験になりました。

Q3:英語の壁はどう克服しましたか?

根来さん:チーム全体で見るとネイティブに近いのですが、私は個人的に普段は英語を話さず日本語を話すことが多いので、大会が近くなると実際に口を動かすことを意識しました。本を読むことや書くことと、実際に話すことは全然違うと思うので、咄嗟に聞かれても何か話せるように練習しました。それでも、英語という共通言語があったことで、世界中の人びととコミュニケーションを取ることができたのはとても嬉しかったです。

Q4:実際に大会に参加してみた印象や、記憶に残っている場面があれば教えてください。チーム内での役割分担や工夫したことなど。

根来さん:印象に残ってることは、すでに弁護士として活躍されてる方の様子を大会で見たことです。本当に真剣な態度で、ロールプレイであることを忘れるくらい本気で取り組んでいる姿勢を見てとても刺激を受けました。特に、私たちは全員学部生なのですが、学部生で参加しているのは珍しい方なんです。大学院生であっても、法律を専攻されている方が多かったので、まだ学部生でいろいろと進路を考えているこの時期に大会に出場する経験ができて、とてもありがたく感じています。

ペインさん:シナリオの中で一番難しかったのは、地域社会がある集団によって侵攻を受けているという場面です。その集団は国際人道法を尊重していなかったのですが、私たちは国際人道法のエキスパートとして、この場面にどう携わるか考える必要がありました。私にとってこのシナリオは難しかったですが、こういった場面では、交渉がとても重要であると学びました。

ベさん:私たちに与えられた資料の量は多かったと思います。そのため、チームの作戦として役割を分担し、お互いに信頼し合って資料に目を通しました。このように、短い時間を有効に使って大量の資料を読み込むことができました。役割分担という点では、お互いに信頼し合って、交互に主導権を握るような場面もありました。この作戦はとても効果的だったと思います。

表彰のようす

東京大学チームと大会運営責任者Christophe Lanord

Q5:先生からの言葉やアドバイスで、印象的だったものがあれば教えてください。

ペインさん:指導教員の教授からはたくさんの励ましの言葉をもらいました。一番印象に残っているのは、この経験を楽しむ、というアドバイスを受けたことです。私たち以前に参加した生徒たちも、ジャンピクテの大会をとても楽しんでいた、という話を詳しくお話してくださり、すごく価値のある経験になると私たちに伝えてくれました。

根来さん:印象に残っている言葉は、リラックスしてね、という言葉です。夏休みから、もう一つの大会の模擬裁判の準備を並行して行い、その上先輩たちも素晴らしい功績を残されているということもあって、ずっと緊張している状態だったんです。そのような緊張状態の中、逆に、リラックスして、という言葉を聞いて、しっかりと落ち着いて取り組むことができたのではないかと思います。

ベさん:また、私は教授が私たちと大会出場経験がある先輩方とのつながりを作ってくださり、準備期間中、先輩方は私たちに沢山のフィードバックをくださったことは本当に力になったと思っています。

Q6:参加してよかった・成長したと感じる点があれば教えてください。

ベさん:個人的にとても成長した経験でした。すべてが計画通りにいくわけではないということを、この大会を通して実感できたと思います。予期せぬことが起こることもありますし、自分の認識だけで決めつけず、広い視点を持つことが重要だと思います。特に紛争地での国際人道法の適用に関しては、物事が瞬時に起こるのを目の当たりにします。変化するシナリオに適応していかなければならないので、完璧主義的で計画的な性格を時に手放すことも大切だと感じました。そのようなシチュエーションにも適応し、全体的に少し落ち着いて状況を見ることができたので、間違いなく私が生涯学ぶ教訓を得たと思っています。

ペインさん:大会を通して、自信を持つことの大切さを学びました。完全に準備できなくても、挑戦しに挑む大切さを学びました。大会に出場して、私たち個人個人が成長したと思いますし、根来さんが賞にノミネートされたことは、チームとしてとても誇らしいことであると感じます。

根来さん:個人的には、 ICRCへのリスペクトがすごく具体的になったと感じています。フィールドにおいて実際にどういうことをして活動しているのかということを想像できるのようになりました。個人としても、何かしら貢献したいという気持ちが大きくなりました。

東京大学チームの様子

Q7:国内大会やこの大会を含め、実際に学んでいることを活かす場としてはどうでしたか?参加した経験は、今後の勉強やキャリアにどう活かしていきたいと考えていますか?

ペインさん:ジャンピクテでは、国際人道法のあらゆる知識を動員しました。数日間におよんだことで、いろいろな国際人道法の分野に触れたと思います。

根来さん:ロールプレイの中では、自分が反論されたとしても、それが法律に反していないということが分かっていたら、しっかりと論じ返すということをしました。今後に活かすという意味では、自分が知っている知識に自信を持つということが大事だと思います。

ベさん:大会を通して、法律がどのようにして現実に適用されているのか知ることができました。これからも国際人道法を学び続けたいです。

ペインさん:私は、来年からイギリスで法律を勉強する予定です。大会に出場した経験により、法律が人を守るものとして、役割を果たしているということを学ぶことができました。イギリスの国内法を学ぶ予定ですが、その後国際法も勉強したいと思っています。

Q8:国際人道法に興味を持ったのはいつですか?国際人道法を学ぶことはどんな意義があると思いますか?

ベさん:私は国際関係学を専攻する学生として、グローバルな問題には常にアンテナを張るようにしています。国際人道法は、現代の世界においてより重要になってきていると思います。そのため、世界には無視されているかもしれない様々な国際人道法の規則が存在すると知ることは、国際人道法が尊重される国際的な文化を構築するために重要です。

ペインさん:個人的に私はジャンピクテのオープニングセレモニーで聞いた言葉がすごく印象に残っています。その内容は、国際人造法が尊重されている紛争では、その後の和解のプロセスがよりスムーズになるというものです。もちろん紛争はない方がいいですが、国際人道法はすごく人の命を守るものとして、紛争後にも影響するということが印象的でした。

東京大学チームの様子

Q9:日本国内では、国際人道法が大学でもメジャーなジャンルではなくあまり認知されていないという現状があると思います。国際人道法を一般の人にも知ってもらうためにはどのようなことができると思いますか?自分の周りの人・家族や友達、そして自分たちより若い世代に対して、より多くの人が国際人道法を知ることができるよう、裾野を広げるにはどうすればよいでしょうか。

ペインさん:一番重要なことは、国際人道法を分かりやすい言葉で人びとに伝えることだと思います。英語のウェブサイトでは、簡単に分かる情報も多くありますが、日本語の情報はまだまだ少ないです。そのため、英語のものを日本語に翻訳したり、日本語のコンテンツを充実させることが有効だと思います。

ベさん:大会後、私たちはチームとしてできる貢献をしたいと考え、まずは学内で私たちが活動する国際人道法の意識を高める活動を始めることにしました。そのため、来学期から国際人道法学生会を立ち上げ、国際人道法に関心がある新入生を歓迎予定です。

根来さん:大会に出る人は多分限られてると思いますが、そのプロセスに一緒に参加してくれる人や、興味を持ってくれる人がもっと多くなっていけたらいいなと願っています。サークルのような形で、みんなが集まる拠点にしたいと思っています。

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