“塀の中”の人間の尊厳や健康にも配慮を ~コロナ禍で開催された5年に一度の「国連犯罪防止刑事司法会議」in京都

イベント
2021.04.01
収容施設内のコロナ対策や人口過密問題など、ICRCは7つのセッションに参加

収容施設内のコロナ対策や人口過密問題など、ICRCは7つのセッションに参加 ⓒICRC

「第14回国連犯罪防止刑事司法会議」、通称「京都コングレス」が、2021年3月6‐12日の7日間開催されました。主に紛争地で収容所などの矯正施設を訪問している赤十字国際委員会(ICRC)も連日オンライン登壇し、施設内でのコロナ対策や人口過密問題など、7つのセッションで人道上の課題や技術面での協力などについて意見交換しました。

「矯正施設にいる人々をコロナからどう守るかや、刑務所の人口過密問題、紛争下の子どもの保護、施設職員の研修、人道的側面から見た矯正建築、独房監禁されている人たちへの処遇など、それぞれのセッションでICRCの知見やこれまでの経験がくまなく共有された」と会議を振り返るICRCのレジス・サビオ駐日代表。「ICRCジュネーブ本部の専門家たちと一緒に会議に参加できたことは大変意義深い。矯正政策を通して、現場での人道的配慮や実践が加速すれば嬉しい」と語ります。

コロナ禍で開催されたこともあり、京都コングレスでは刑務所など限られた空間における感染症対策を話し合うセッションが複数ありました。その中でICRCは、コロナ禍が被拘束者や施設職員の健康面だけでなく、面会の制限や食料調達、弁護士や裁判所へのアクセスなど広範囲に及んでいることに懸念を示しました。

以下は、世界各地の現場でICRCが実際に行っている支援例です。

  • 個人用保護具(PPE)や医療物資を提供
  • 手洗いなど衛生面における対策についての冊子を配布
  • 隔離棟の建設や検査体制の構築をサポート
  • 施設管理当局や医療スタッフへの研修に関与
  • 被拘束者の免疫力を保つために栄養管理面での助言やサプリメントを提供
  • ワクチン接種の機会や医療サービスを被拘束者に提供できるよう当局をサポート
コロナ禍で来場者数を制限し、ハイブリッド参加形式で開催された京都コングレス

コロナ禍で来場者数を制限し、ハイブリッド参加形式で開催された京都コングレス ⓒICRC

「矯正施設職員のトレーニング」をテーマとしたセッションでは、感染症予防・管理に関する研修を200件以上実施したことをICRCが報告。バーチャルリアリティーを用いた訓練ツールも紹介しました。また、「独房監禁」についてのセッションでは、心身面の負担に議論が集中しました。ICRCは、狭い空間や採光、換気などの課題に加えて、人間との接触が断たれることも問題だと指摘。「ICRCは何年も話していなかった人たちの唯一の話し相手だったりする。長い間誰とも会話をしてこなかったから、私たちと話すときに言葉が出てこない人もいる」と実例を挙げ、独房で罰を与えるだけでなく、改善策を提示して更生させることの必要性を訴えました。

紛争下における子どもの保護について語るセッション(セーブ・ザ・チルドレン主催)には、サビオ駐日代表がパネリスト参加。「子どもたちが保護されるためには、各国政府が国際人道法を遵守し、すべての紛争当事者に遵守するよう働きかけることが重要」とICRCの役割について言及し、「世界各地で子どもの権利が守られるよう、教育の機会の確保や元子ども兵士を親元に戻すなどの支援を展開している」と具体的な実践例も提示しました。

コロナ禍で一年近く延期された京都コングレスは、来場者の数を制限した上で、来場参加とオンライン参加を組み合わせたハイブリッド参加形式で開催されました。ホスト国政府事務局長を務めた法務省の山内由光大臣官房審議官は、日本ではコロナ禍が始まって以来初めてとなる国連の大規模国際会議の実施について、次のように語りました。「この会議で採択された京都宣言 は、犯罪防止・刑事司法分野における国連及び加盟国の中長期的指針となる。オンライン参加を含め、過去最多の参加者を得て、各国による充実した議論が行われた。宣言にもあるように、犯罪防止は、政府機関のみで十分な効果を上げるのには限界があり、地方自治体や市民社会、民間セクター、国際組織など、マルチのステークホールダーの協力が不可欠である」。山内審議官は、今後国際社会における法の支配の確立を目指す「司法外交」を発展させる上でICRCの協力を歓迎すると語りました。「法の支配を国際社会に浸透させる上で、世界各地で幅広い活動を展開しているICRCの活躍に期待している。発展途上国での活動や援助を通じて得られた知見、特に、矯正施設における支援を通じて得られた知見を我が国にも引き続き共有してもらいたい」。

京都宣言の仮訳はこちら(法務省サイト):http://www.moj.go.jp/KYOTOCONGRESS2020/programme/download/meeting02.pdf

ホスト国政府事務局長を務めた、法務省の山内由光大臣官房審議官

ホスト国政府事務局長を務めた、法務省の山内由光大臣官房審議官 ⓒ法務省

収容所内の人道的処遇を確認する役割をジュネーブ諸条約から与えられているICRCは、2019年だけで世界1,274カ所の矯正施設を訪れました。「衛生的な水や環境、医療サービスが与えられているか」「宗教や文化的背景を尊重しているか」「暑さ寒さがしのげているか」など、施設のインフラを見て回るとともに、「食事がきちんと与えられているか」「虐待や拷問などの非人道的な行為が行われていないか」など、塀の中で生活している人たちの尊厳がきちんと保たれているかを確認します。加えて、家族との面会や通信手段などもサポート。改善が必要な場合は管理当局と話し合い、必要な支援やアドバイスを提供しています。