核兵器のない未来に希望をつなぐ:国連総会におけるICRCの宣言
核兵器禁止条約に関するICRC総裁ペーター・マウラーによるスピーチ。第72回国連総会にて。
今日、世界はこの有望な条約を必要としています:核兵器のない未来に希望をつなぐ国際社会の約束事です。人類は核戦争の暗い影の中では生きられず、私たち皆が知る甚大な苦しみをもたらします。
核兵器禁止条約は、核兵器のない世界への道を照らす、全人類にとってのともしびです。
ICRCは、核兵器が初めて使用された72年前から、その廃絶を求めてきました。今回の条約は、廃絶に向けて長く待ち望んだ重要な一歩として私たちは歓迎します。また、これら兵器の犠牲者、つまり、広島と長崎の爆撃やのちの核実験で亡くなった人々、そして今なお苦しむ人々のことを心に留めて、条約を歓迎します。
1945年8月30日、ICRCは広島にいる同僚の医師から恐ろしい電信を受け取りました。その電信によると、
「ぞっとするような状況です。街は壊滅しました。全病院の80パーセントは破壊されたり、ひどく損傷しました。たくさんの犠牲者がいます。今や救急病院では10万人を超える膨大な数の人々が亡くなっています」
私たちは、このようなメッセージを二度と受け取りたくありません。核兵器攻撃による尋常ではない荒廃や苦しみを二度と経験したくはありません。より強力となった今日の核兵器が使用されれば、さらに甚大な影響があるでしょう。もし今日、核紛争が勃発すれば、そのような大惨事に適切に対応できる人道援助能力は存在しません。恐ろしいことですが、このことを真の現実として受け止めなければなりません。核兵器禁止条約は、市民社会と国際赤十字・赤新月運動だけでなく、生き残った犠牲者をはじめとする多くの人々と団体の努力の成果です。
条約は、核兵器の使用が悲惨な人道的帰結をもたらすことを認め、国際人道法に基づいて完全に禁止しています。また、核兵器を保有する国々を含む、全ての国家に対して遵守のための道筋を提供します。
条約だけでは、一夜のうちに核兵器をなくすことは無理でしょう。しかし、それは今日の世界における核兵器の役割を非合法化し、核拡散に対する強力な阻害要因になります。核兵器のいかなる開発、近代化、実験、脅威そして計画は、誰によるものであっても全く容認できない、ということを全ての人に示しています。
今日、この場で条約に署名することにより、核軍縮のための既存の取り組みを全うし、とりわけ核兵器不拡散条約(Non-Proliferation Treaty : NPT)の第6条への信認を高めるべく、具体的な一歩を踏み出すことになります。NPTへの信認を保つためにも、核軍縮への取り組みに関する真の進歩が、是が非でも必要です。この点において、核兵器禁止条約は、NPTの不拡散と軍縮目標を補完し、支えています。
この条約に署名すれば、人類に対する最も大きな脅威の一つを終焉させる決定的な一歩を踏み出すことになります。地域的そして国際的な緊張が高まり、核兵器の使用のリスクが高まり続けている現状において皆さんたちは世界が今日必要としている希望をかたちにするのです。
核を保有する国にも保有していない国にも、私たちはすべての国家に対して、人道的な責務としてこの条約に署名し、履行に向けてしっかりと取り組むことを強く求めます。もし核兵器で武装した国が現時点で条約に参加することができないのであれば、長い間の約束を果たすためにも、核兵器の意図的または偶発的使用の危険を減らすために必要な対策を早急にとることを求めます。
真の成功があるとしたら、それは、世界がこうした兵器の影で怯えながら暮さずにすむ日の到来です。全人類のともしびを消さないでください。そのともしびは、私たちの希望であり、次世代に引き継がなければならないレガシーなのです。
原文は本部サイト(英語)をご覧ください。