赤十字国際委員会総裁ペーター・マウラーによる、国家・グローバルリーダー・市民への要請

お知らせ
2018.04.23

核兵器:地球規模の大惨事を避けるために

 

赤十字国際委員会総裁ペーター・マウラーによる、国家・グローバルリーダー・市民への要請

 

赤十字国際委員会(ICRC)は、全ての国家、グローバルリーダー、そして市民に対し、核兵器の使用という高まるリスクに関して行動するよう要請します。核兵器が特定の地域で使用されるか、主要な大国間で使用されるかを問わず、その使用は壊滅的かつ取り返しのつかない人道の危機をもたらします。

 

もし今日、核紛争が発生すれば、たとえ核兵器の使用が限定的であったとしても、適切に対応する国際的なプランや能力はありません。それゆえ、唯一かつ堅実な行動指針は予防です。私たちは、核兵器が二度と使用されることのないよう確約を得るために、緊急に取り組むことを要請します。

 

地球規模の核の大惨事を避けるためには、全ての国家が早急に行動を起こす必要があります:

 

―核兵器を保有する国家とその同盟国は、核兵器使用のリスクを減らし、最終的に排除するための対策を緊急に取らなければなりません。国際社会を構成する他の全てのメンバーにとって、それらの国々が確実に対策を取ることは大きな関心事です。

 

―核兵器の不拡散に関する条約(NPT)の締約国は、核兵器の削減、リスクの縮小、そして他の国際的な核軍縮の取り組みに先立ち、使用の脅威や核軍備の近代化から離れて、2010年のコミットメントの完全な実施に向けた方向へと転換するために、2020年のNPT運用検討会議と、2018年4月のジュネーブにおける準備委員会を活用しなければなりません。

 

―1972年のNPTや1996年の包括的核実験禁止条約、2017年の核兵器禁止条約、そして他の核軍縮及び不拡散条約をいまだ締約していない国々は、それらの条約を固守するための必要な措置を取り、条約内の規定を完全に履行すべきです。

 

ICRCは、核兵器使用のリスクが世界で高まりつつあることを背景に、この要請を行います。かつて存在した制約は次第に弱まり、核兵器の使用を匂わす威嚇が政治の主流になる中、核兵器の不使用と廃絶を重視することより、核兵器の使用の可能性が高まる方向へと変化していると私たちは捉えています:

 

―核兵器保有国とその同盟国が関わる軍事的事件が不穏な頻度で発生しており、核兵器使用の危険は冷戦期よりも今日の方が高いかもしれません。

 

―最近、国連事務総長は、「冷戦が再来した、…(中略)…しかし、違った形で。かつて存在したリスクの増大を管理するメカニズムとセーフガードは、もはや存在していないようである」と国連安全保障理事会に警告しました。

 

―核兵器を保有する国家は、より広い文脈で使用できるよう核兵器を適合させるための計画を持っています。同時に、命令・統制システムは、サイバー攻撃に対してより脆弱になってきました。

 

ICRCの見解は明白です。全ての国家、特に世界の不安定な地域における紛争に関わった国は、安全保障上、自国と同盟国のリスクを含めた複雑な課題に直面しているのです。今や地域紛争は、グローバルレベルでの対立と切り離せません。長引く紛争の多くは、政治的な解決がもたらされる兆しもなく、ただ続いています。しかし、核兵器の導入や使用をほのめかす威嚇は、そうした紛争をより危険なものとし、地球規模の争いというリスクを増大させるだけで、人類は取り返しがつかないほどに傷つけられるでしょう。実際、いくつかの事例において、核兵器の存在とそれに付随する「安全保障上の」利益は、情勢を緊迫させる根本原因です。

 

また、過去20年間、私たちは冷戦時の水準から核兵器の数を減らすため、重要な歩みを進めてきました。しかし、上述した事実や危険という観点から、削減だけではそれら使用のリスクは減りません。それゆえ、核のリスクを低下させるための一致した歩みが、緊急に必要とされているのです。核兵器国とその同盟国には、特別な責任があります。リスクを減らす取り組みには以下のようなものがあり、周知されています:

 

―核兵器を先制攻撃に決して使用しないという明確なコミットメント

 

―核兵器を一触即発の警戒態勢から外すこと

 

―核兵器に関するミサイルや他の運搬手段の発射に関する軍事行動の事前通告

 

―予期しない、かつ潜在的に不安定化をもたらす出来事をリアルタイムで明らかにするための共同の早期警戒センターの再構築

 

―安全保障政策における核兵器の役割を継続的に縮小するための措置

 

この要請は、73年前の広島と長崎におけるICRC自らの経験と、今日でもなお、何千もの原爆の被ばく者に治療を続ける日本の赤十字病院の経験に基づいています。こうした経験に加えて、環境の専門家や国連、他の組織との連携によって得られた知見から、以下のことが明らかになっています:

 

―核兵器によってもたらされる壊滅的な非人道的結末は、時間と空間を限定することができず、核兵器が用いられてから数カ月あるいは数年後には、放射能中毒や癌、その他の病気が原因で、爆発の時よりも多くの被ばく者が亡くなるだろう。

 

―今日でもまだ、核兵器の使用に適切に対応する人道支援の国際的な能力やプランはない。

 

―都市部の標的に対して、現存する核兵器のうちのほんの一部である100発が使用された場合、地球規模の気温の低下や、耕作期の短期化、大規模な食料不足が誘発され、10億人以上が亡くなる可能性がある。

 

ICRCによるこの要請は、191ヵ国にある赤十字・赤新月社と世界中の何百万人ものボランティアを含めた、国際赤十字・赤新月運動(以下、赤十字運動)全体の緊急の懸念を反映しています。昨年11月に赤十字運動は、核兵器が使用されるリスクが高まっていると大々的に警鐘を鳴らし、「壊滅的な非人道的結末を考慮すると、核兵器の使用のいかなるリスクも受け入れられない」と強調しました。同時に、私たちは、核兵器が二度と使用されることがないよう、そしてその廃絶を確実にするために意欲的な4カ年行動計画を採択しました。

 

3年前の2015年、私はNPT検討会議に先立って、ジュネーブ外交団に向けて核兵器に関する声明を述べました。「これまで以上に、核兵器のリスクが高く、その危険があまりに現実的なものであることを私たちは知っています。各国、そして、各国に影響を及ぼすことができる私たちが、緊急性と決意を持って行動を起こさなければなりません。そうすることで、核兵器の時代を終結させなければいけないのです」と声明を締めくくりました。

 

これまで何度も、国際社会は予見可能な危機を防ぐことができませんでした。今度こそ、差し迫った核の危機を防ぐことが急務です。かつてないほどの緊急性をもって、核兵器のリスクを低下させ、廃絶に向けて共に行動する時です。

 

原文は本部サイト(英語)をご覧ください。