化学兵器禁止を改めて強調:化学兵器禁止条約第26回締約国会議

お知らせ
2022.01.21

©ICRC

以下は、2021年11月29日―12月3日の間で、オランダのハーグで開催された化学兵器禁止条約(CWC)第26回締約国会議で発表された、赤十字国際委員会(ICRC)の声明。

赤十字国際委員会(ICRC)は、申告済みの化学兵器を全廃する方向で、国際社会が徐々に前進しつつあることを心強く思います。これまでに保有が申告された化学兵器の98%以上が既に廃棄され、残存分に関しては、化学兵器禁止機関(OPCW)が廃棄の進捗状況を監督し、その業務は2023年に完了する見込みです。

しかしながら、過去10年間に化学兵器はシリアで繰り返し使用され、イラクでも使用され、また、神経剤については個人を標的に使用される例が世界各地で数件見られました。このことは、重大な懸念となっています。

私たちは、いかなる状況においても化学兵器の使用はCWCのもと全面的に禁止されている、ということをこの機会に改めて強調します。化学兵器や毒物の使用は、すべての武力紛争の当事者全員を拘束する慣習国際人道法によっても禁止されています。

私たちは、いかなる化学兵器の使用も明確に非難し、武力紛争のすべての当事者とCWCの全締約国に対して、この禁止条項を遵守するよう訴えます。

2003年以降、ICRCは、警察や治安部隊、軍隊が法執行に伴い実力行使する際に、有害な化学物質、つまり、「人を無力化する化学物質」や中枢神経系に作用する化学物質を武器として使用することに関心を示している事実について、懸念を表明してきました。これまで幾度となく強調してきたように、毒性の物質を用いることは、戦争においてだけでなく、法執行においても正当な手段とはなり得ません。

そうした背景から私たちは、OPCW執行理事会の決定(2021年3月11日、EC-96/DEC.7)を歓迎します。その決定とは、「中枢神経系に作用する化学物質を噴霧化して使用することは、CWCが定義する『禁止されていない目的』である法執行の目的とは矛盾するものとみなす」ことを、本会議において決定することを推奨する、というものです。

ICRCは、本会議がこの重要な決定を行うよう強く求めます。なぜなら、法執行のための武器として有毒化学物質の開発と使用が増加していることに対する深刻な懸念に対処し、そうした武器によって命を奪われたり、一生涯の障害を負ったりするリスクを防止しなければならないからです。また、CWCの目的と趣旨が損なわれるリスクを最小限に抑える上でも、この決定が大きな意味を持つものだからです。

こうしたリスクを考慮して、私たちは2013年以降、法執行に伴う武器としての有毒化学物質の使用は、CWCで定められているように、暴動鎮圧剤(RCA)に限定すべきであるという見解を明示してきました。また、締約国に対しては、そうした趣旨を盛り込んだ国内政策と法律の採択に加えて、国際的な議論の場において共通理解を促すことを求めてきました。

中枢神経系に作用する化学物質に関する本会議での決定は、CWCの締約国が共通の理解を明確にする上で重要な意味を持つでしょう。

ただし、今回の決定が、中枢神経系に作用せず、噴霧化されていない有毒化学物質を法執行の際の武器として使用することを認める、と解釈されてはならないとICRCは考えます。

実際、他の手段での中枢神経系に作用する化学物質の使用や、人体の他の部分をむしばむ有毒な化学物質の使用は、人道上、そしてCWCや国際人権法などの法律上の問題が生じるでしょう。

「化学兵器のない世界」や「CWCの普遍的な遵守」にまだ手が届かない現状を考えると、何か事が起きた時の対応能力を継続して強化していくことが重要です。それは、化学兵器の被害を受けた際に、支援を要請し、その支援を受ける締約国の権利に応える観点からも大事なことです。

そうした意味で、各国政府やOPCWが、世界全体や地域における支援を強化し、保護するための訓練の実施や能力開発に取り組んでいることを歓迎します。

ICRCは、化学兵器のリスクにさらされる可能性のあるスタッフの安全とセキュリティ、および人道支援の継続性を確保し、状況が許す限り、被害を受けたコミュニティーや個人に支援を提供するべく、引き続きリスク管理の観点を取り入れて活動に臨みます。

私たちは、主に爆発性戦争残存物の影響を受けるコミュニティーで暮らす人々のリスクや、そうした人々が化学物質や生物剤、放射性物質、核物質にさらされるリスクを軽減することを目的に、武器汚染に主眼を置いた活動を行っています。これには、武力紛争中に意図的または偶発的に放出された化学物質(有害工業化学物質を含む)がもたらすリスク軽減も含まれます。

また、各国赤十字・赤新月社や、現地のほかの人道支援従事者に対して、リスク軽減にまつわる能力向上を目指したトレーニングや指導なども提供しています。

こうしたICRCの活動は、OPCW技術事務局が提供する能力開発プログラムを補完するものです。同プログラムは、化学兵器が使用された際のCWC締約国の政府当局の対応力の強化を目指して実施されています。

OPCWとICRCは、それぞれ異なる使命を持っていますが、こうした活動領域においては補完関係にあります。

化学兵器による攻撃も含めて、ICRCは常に中立・公平・独立の原則に基づいて人道支援を展開します。化学兵器の使用が報告された案件の調査に私たちが参加することはありません。これはOPCWなどの管轄当局の責任の範ちゅうで、私たちの仕事ではないからです。

最後に、化学兵器を状況を問わず包括的に禁止しているCWCに加入しないことへの正当な理由は存在しえない、ということ改めて強調して終わりにしたいと思います。未加入の4カ国には、遅滞なく批准もしくは加入するよう強く求めます。

ICRCは、193の締約国すべてに対して、CWCを遵守し、化学兵器禁止に伴う義務を果たすよう訴えます。化学兵器が廃絶され、二度と使用されないためにもできる限りの努力を払う意志を、改めて表明してください。