行方不明者の家族を取り巻く問題、社会 『どこにいるの?』

お知らせ
2021.05.31

©ICRC

家族が行方不明になってしまった――。悲しいことに、これは紛争地ではよくあることです。この問題に取り組んできたのが、中央追跡調査局(The Central Tracing Agency : 略称CTA )と呼ばれるICRCの機関です。CTAと世界中にある赤十字・赤新月社は、紛争や暴力の状況下で、離散家族の再会を支援してきました。中立な仲介者、そして専門知識を備えた情報源として、行方不明者の追跡調査や、新たに行方不明者を生まないための予防、家族のもとへ遺体を帰すための活動など、法的・制度的枠組みの構築も手助けしながら与えられた役割を果たしています。その役割とは、戦時のルールであるジュネーブ諸条約に則ったもので、全ての情報は安全に管理されています。ここでは、CTA設立150周年を記念して、行方不明者の『家族』を軸にこの問題について考えます。残された家族や社会に、一体どのような影を落とすのでしょうか。

世代をまたぐトラウマから脱出して新たな共同体へ

行方不明者の家族の思いは世代を超えて脈々と引き継がれ、一つ一つが切実です。最も顕著な側面の一つは、そうした切実な思いにどう応えていくか、ということ。身内に行方不明者がいると、家族の歴史やアイデンティティに影響し、子どもは両親や祖父母の心の傷やトラウマを受け継ぎます。ある行方不明者の姪は、ICRCにかつてこう語ったことがあります。『これは次世代に受け継がれていく刻印のようなもので、私たちは体の中に記憶を宿しています。私たちの血の中で前の世代から渡されたバトンをつないでいく感じです』

行方不明者の家族は社会的に弱い立場に追い込まれ、地域社会の中で居場所を失うことが多いことも特徴です。何年にもわたって夫が不在の女性は、夫が生きているのか死んでいるのかもわからないため、夫婦が揃っていることが前提のコミュニティーや、すでに夫を亡くている未亡人コミュニティーにも入れず、親権や財産権を行使できない場合もあります。身内が行方不明になった理由や、紛争下で敵側の勢力についていたのかなど立場を邪推され、疑惑を向けられる家族もいます。

一方で、この個人の苦しみが集団の大義となって団結を生んだ例もあります。1998年7月、当時のユーゴスラビアの町スレブレニツァに暮らす行方不明者の妻たちで構成される団体が、3年前(1995年)の大虐殺で遺体が流された川にかかる橋の上に集まりました。この式典が個々人をつなぎ、集団としての絆を生み、彼女たちは社会の中で居場所を得ることができたのです。こういった共同体は、行方不明者の問題に対処するための国内の制度的枠組みの構築において重要な位置を占めます。共同体の役割は、個人的な物語を超えて社会問題としての認識を獲得し、国が過去の一端をたぐり寄せて向き合う機会を作り出していくからです。

この共同体は、紛争地の地域社会の中で、人間関係についての洞察も教えてくれます。コソボとキプロスのそれぞれの共同体の間で行われた対話に関する調査では、次のことが判明しました。行方不明者の家族は、愛する人の運命を明らかにするいかなる行動をも支持する立場に回りやすく、協力する必要性を相手方に説得された場合にはそれを受け入れる、ということが分かりました。対話は、お互いの親族についての手がかりを探すためギブアンドテイクの形からスタートするかもしれませんが、時を経て、苦しみを認め合う関係にまで発展させることも可能です。その融和の手前における「信頼の構築」に重要なことは、まず、見ず知らずの相手を「同じ問題を抱える人間」として認識することです。

行方不明者を取り巻く問題への対応

多くの紛争が、排他的な概念への怒りや不満に根ざすことが研究で示されています。紛争中、紛争後に当局が行方不明者の家族の要望にどのように対応するかによって、人々の反応が必然的に決まるでしょう。もし差別ありきで対処すれば、社会の中で怒りを永続させる可能性が高いと考えられます。未解決の事件が残す傷や、その傷が家族全体に与える影響は計り知れません。そしてその問題を解決できるのは当局だけであり、当局の行動次第で家族を取り巻く環境が変化する可能性があるからです。

行方不明者の身に何が起こったのか――その運命と居場所を明らかにし、家族に必要な支援を提供するためには、政府によってのみ導入可能な、国内における適切な法的・制度的枠組みが欠かせません。例えば、行方不明者の情報の収集、分析、伝達、行方不明者の権利を家族が行使できる適切な法的制度、遺体発掘の許可や裁判所の命令などが挙げられます。 しかし、この枠組みの中で、行方不明者の消息を知ることや家族の要望への対応は、車の両輪でたとえると片方でしかありません。もう片方は、行方不明者の発生を防ぐための取り組みです。紛争や暴力行為が行われている状況下で行方不明者を生まないこと、行方不明者の問題に迅速に対応すること。この両輪からなる枠組みの整備は、政治的意思を示すうえでも重要です。また、市民と国家間の信頼関係を守り、発展させるためにも欠かせません。

ICRCならではの役割

立場の異なる当事者が関わる枠組みでは、中立的な立場からのサポートが必要となるケースがあります。これこそが、私たちが使命の一環として果たしている役割です。中立的な仲介者は、行方不明問題に対応するために双方の橋渡し的な役割を担うことができるのです。

家族のつながりを守ること、家族が離散しないように手助けすること、そして行方不明者の問題を解決するために可能な限り手を尽くすこと。こうした活動は、武装紛争下や暴力にさらされた状況だけではなく、平和な時や紛争が終わった時にも必要とされます。それゆえ、全ての関係者が、行方不明者の問題にどのように対処するかということに格別の注意を払う必要があります。これは、被害を受けた家族のためだけではなく、人々の不満や怒りの形成と定着を防ぎ、現在、そして将来の社会全体の利益のためでもあるからです。

戦争は、人々の間にある信頼をも破壊し、家族や社会を引き裂き、多大な犠牲を生みます。敵対関係が終わったとしても、そこからもたらされた苦しみは続いていくのです。私たちはかつて、自分たちの足で情報収集し、手紙や電話を用いて家族の再会支援活動を行っていました。今それが、インターネット上での情報交換に代わり、アプリなども有効活用しています。技術やツールは、CTA設立当初の頃とは大きく変遷を遂げましたが、時代を経ても変わらないことがあります。それは、行方不明者を持つ家族の「身内の居場所や安否を知りたい」という切実な思いです。そして、心の中で延々と繰り返される「どこにいるの?」という問いです。

参考文献(英語):”Where are they? Three things the families of missing persons teach us about war and peace”, ICRC blog for Humanitarian Law & Policy: https://blogs.icrc.org/law-and-policy/2021/05/06/where-are-they-families-missing-persons/