なぜICRCは武装集団とも対話をするの?―4つのQ&A
世界のどこであっても、赤十字国際委員会 (ICRC) が活動する上で武装集団は重要な位置を占めます。2022年、人道上見過ごすことができないとして、私たちがリストアップした武装集団の数は524に及びます。それらによる支配や影響を受けている地域には、約1億7,500万人が暮らしています。現地の人道ニーズを理解し、埋めるためにも、ICRCは武装集団との対話に努めています。住民がきちんと人道支援を受けているかどうかを見極めるためです。
本稿では、なぜ武装集団のことを理解する必要があるのか、なぜ武装集団と関係を築くことが重要なのか、など4つのQ&Aを通してICRCの武装集団担当顧問が詳しく解説します。
1)ICRCが活動する上で武装集団が重要な位置を占める、ってどういうこと?
ICRCの使命は、どこにであろうと武力紛争やその他暴力の伴う事態下にある人々の苦しみを軽減し、予防することです。もちろん、武装集団の支配下や影響下にある地域においてもです。こうした地域の住民の暮らしは困難を極め、人道支援や保護の必要性が高まることがあります。人道支援組織として、私たちは公平・中立の立場から、武力紛争のすべての当事者と接触します。つまり、誰の側にもつかずに、人道ニーズのみに基づいて援助を行うことに加えて、すべての当事者との対話を通して人道上のルールを尊重することの重要性をはっきりと示します。こうすることが、政府か武装集団かを問わず、すべての当事者から信頼を得る唯一の方法だからです。
2)ICRCはいくつの武装集団と対話をしているの?
2022年、ICRCは、人道支援を行う上で私たちが把握しておく必要がある524の武装集団を特定しました。そのうちの3分の2と私たちはこれまで関与してきました。情勢が極めて不安定な中で活動している私たちにとって、できるだけ多く武装集団と対話することが重要です。私たちのことを知ってもらい、理解や信頼を得ることで活動を認めてもらいます。スタッフがより安全に活動できるようになれば、被害を受けている住民のニーズに対応しやすくなります。
3)武装集団への接触は公にしたくない?
そんなことは全くありません。武装集団への接触は、ジュネーブ諸条約のすべての締約国からICRCに公式に与えられた人道上の任務の一部です。実際、こうした人道的見地からの接触は頻繁に行われています。具体的な対話の中身は、非常にデリケートな内容であるため表には出せませんが、これがICRCのやり方・役割であることをすべての人に理解してもらうべく心を砕いています。例えば、政府当局と面会する際には、私たちの立場についてわかりやすく、包み隠さず説明します。純粋に人道上の理由から武装集団と接触していることを、説明責任を負う私たちがすべての人に理解してもらうことは、非常に重要です。そうした関与なしには、ICRCは紛争やその他暴力の伴う事態下で苦しんでいるすべての人に手を差し伸べることができないからです。
4)武装集団に接触する際、どんな問題に直面するの?
さまざまな問題が立ちふさがります。例えば、一つの地域に多くの異なる武装集団が存在する場合、人道援助を安全に行うためにすべての集団と対話をする必要があるのですが、分裂していたり、新しい勢力が誕生していたり、消滅したりしていることがよくあります。したがって、特定の地域でどの武装集団が活動していて、接触するのに最適な方法は何なのかを正しく把握するのは決して容易ではありません。私たちのチームにとって、現場の動向を注意深く観察し、各地域の武装集団の存在を把握することは重要です。
他には、ICRCが武装集団と接触する理由や意味が正しく理解されないことです。純粋に人道上の理由から関与しているにもかかわらず、武装集団と接触することに当局が疑いの目を向ける場合があります。世界を見渡してみても、武装集団と接触すること自体が法律上かなり困難になっていて、ICRCの活動も一筋縄ではいきません。例えば、人道支援は対テロ政策の適用から本来であれば除外されるべきですが、除外されていないことも多くあります。
2021年初頭、ICRCは中央アフリカ共和国に135トンの人道援助物資を届けることに成功しました。人道支援組織であれば、この程度のことは簡単に達成できるように思えるかもしれません。しかし、当時暴力が横行していた同国では27万6,000人超が避難を強いられ[1]、人道ニーズが急増しているにもかかわらず、治安の悪化により現地入りが困難を極めました。武装警備なしには、人道援助物資の車列は人々のもとにたどり着けなかったのです。
この“武装警備”が問題となるのです。というのも、ICRCは常日頃から、“紛争被害を受けた地域の治安を確保し、法と秩序を回復することを目的とした軍事行動から、人道支援は切り離されるべき”と訴えているからです[2]。そのためにはまず、対話から始めます。対話を通じて、紛争下の地域に受け入れてもらい、活動できるようにするのです。当時、同国のICRCブアール副代表部を率いていたイブラヒマ・トゥンカラは次のように語ります。
人道上のアクセスを制限しないよう、武装集団から確約を取ることが私たちのゴールでした。交渉は長期にわたり、難航しました。ICRCの車列が紛争地域に入る際、私たちには決して妥協できない絶対的な掟があります。それは、安全の確約を取ること、です。人道上のアクセスはもちろん、私たちの安全も保証されなければならない、というメッセージを当事者に伝えました [3]
ICRCブアール副代表部 イブラヒマ・トゥンカラ元代表
トゥンカラは、紛争が生み出す力に飲み込まれそうだった、と続けます。「私たちは大きな重圧を感じていて、事態は緊迫していました。対話は長期にわたりましたが、あくまでも外交的な態度を貫く必要がありました。個人的に、サヘルやチャド湖周辺、中央アフリカ共和国での経験から学んだことが2つあります。一つは、武装集団との対話の絶対的な重要性、もう一つは、“ICRCが武装集団と対話している”という認識です。個人としてではなく組織として対話をしていること、また、対話を通じて取引しているのではないということを念頭に置いて臨むことが重要です。武装集団には、国際人道法の下[4]、人道上のアクセス[5]を保証する義務があります」。
絶対的な掟を守ったことで、ICRCは135トンの人道援助物資を27万6,000人余に届けるために必要な人道上のアクセスを確保することに成功しました。私たちの車列は、武装警備をつけずに、約400kmを 12 日かけて移動しました。
これは、ICRCが世界中の武装集団との対話の維持・構築に取り組んできた中でようやく達成した、いくつかの成果のうちの一つに過ぎません。人道の原則に忠実な外部の専門家の知恵や知識も取り入れながら、ICRCのスタッフや活動の安全性は保たれています。
[1]『中央アフリカ共和国:2021年3月2日時点の状況報告書』(中央アフリカ共和国、ReliefWeb)
[2]『ICRCと武装警備員の活用』(ICRC)
[3] ICRCのポッドキャストより。(Humanitaires)
[4]『赤十字国際レビュー 人道支援の車列のための武装警備:国際人道法上の未開拓の枠組み』(icrc.org)
[5] ICRCのポッドキャストより。(Humanitaires)