国際人道法の重要要素

イスラエル・パレスチナ
2024.02.26

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コーデュラ・ドローゲ(ICRC法務部長)
※同様の記事を『季刊アラブ冬号』No.186(2024)に掲載。レイアウトは駐日代表部による※

国際人道法は、「戦争法」とも呼ばれ、武力紛争の当事者の行動を規制する一連の国際ルールだ。同法を語るうえで重要な要素は二つ。

① 国家間の武力行使が合法か否かを規定する国際連合(国連)憲章などの規則とは別個独立したものであり、武力紛争の犠牲者を保護することを目的としている。紛争の目的がいかなる手段をも正当化するものではないこと、つまり軍事作戦を遂行できる手段はこの国際人道法によって制限されている。

② 国際人道法は、国家であろうと非国家武装集団であろうと、武力紛争のすべての当事者に適用される。

その国際人道法の役割は、大きく分けて二つ。

① 軍事作戦がどのように遂行されるべきかについて制限を設ける。これは「敵対行為の遂行に関する規則(the rules on the conduct of hostilities)」と呼ばれるもので、区別、均衡性、予防という基本原則を定めている。

② 敵側の支配下に置かれている人々への処遇を規制する。たとえば、占領下にある場合、あるいは敵対勢力に拘束されている場合など。人々は常に人道的に扱われなければならない、というのがその基本的なルールである。

区別の原則に則り、攻撃側は常に戦闘員と民間人、軍事目標と民用物(住宅や民間インフラ、環境)を区別しなければならない。攻撃対象になりうる者は戦闘員や武器を持って戦っている者だけであり、民間人への攻撃はご法度で、保護される立場にある。軍事目標以外を標的にすることはできない。 特定の軍事目標に向けられない攻撃、いわゆる“無差別攻撃”も禁止している。ただし、民間人が直接的に敵対行為に参加している場合は、その間攻撃から保護される地位を失う。

均衡性の原則とは、攻撃によって民間人が巻き込まれて死傷したり、住宅やインフラなどの民用物に損害を与えたりすることが予想され、そうした犠牲が具体的かつ直接的な軍事的利益と照らし合わせて過大となる場合に、攻撃自体が禁止されるというもの。軍事作戦から予測される被害とは、ただちに犠牲になるという直接的な影響だけでなく、第二次、第三次的な影響も含まれる。例えば、送電線を破壊したり損傷したりすれば、病院や揚水設備、下水設備にも影響が及び、さらなる死傷者が出ることは十分に予測できる。したがって、このような民間人の被害も、予見可能であれば考慮しなければならない。

敵を倒すため、あるいは戦争に勝つためなら、民間人の被害が正当化される、という話をよく耳にする。それは実は許されるべき根拠とはならない。

病院や学校などが軍事目的に使用された場合どうなるのか?

軍事目的を明確に定義するのは、そう簡単ではない。その性質、位置、目的、用途によって、軍事行動に効果的に寄与し、かつ、その一部または全体を破壊、捕獲、無力化することが、その時の状況において決定的な軍事的優位をもたらすものに限定される、と書かれている。簡単に言えば、本来、典型的な軍事目標とは、例えば軍事兵器や戦車のようなもの。しかし、軍事行動のための具体的な役割を帯びていれば、民用物や施設も例外的に軍事目標になり得る。例えば、武器庫として使用されている民間ビルがあるとすると、そのビルは軍事行動のために使用されるため、軍事目標に変わる。大きな建物や複合施設の一部が使用されている場合、その建物全体を攻撃できるということにはならない。なぜなら、民間人の家屋や人命に被害が及ぶ事態を避けるため、または被害を最小限に抑えるため、常に実行可能なあらゆる予防措置を講じなければならないからだ。

予防措置とは、民間人や民用物への危害を回避するか、少なくとも最小限に抑えることが可能な場合、紛争当事者が講じなければならない措置のこと。上述の区別と均衡性の義務を尊重するための原則だ。

例えば、攻撃が間近に迫っている場合、それが実行可能であれば、民間人に警告を発したり、民間人への被害を最小限に抑えるような方法で弾薬の種類を選んだり、攻撃のタイミングを決めたりするなどの措置が考えられる。また、合法的な標的を狙っているかどうかを常に検証し、そうでなくなった場合や、付随的な被害が過大になると判断した場合には、攻撃を中止することも求められる。人々の動きや避難先を考慮し、避難者がどこに移動し、どこにいるのかを常に把握し、攻撃先を最終的に調整することである。つまり、いくつかの軍事目標から選択しなければならない場合は、民間人や民用物に与えるリスクが最も少ないものを選ばなければならない。大きな目標であっても、民間人への危害を避けるため、あるいは最小限に抑えるためにより的を絞って、限定的に狙わなければならない。紛争当事者は本来、これらすべての具体的な手段を講じなければならないのである。

ガザだけでなく、ウクライナやスーダンでみられるように、人口密度の高い都市環境において、軍事目標が民間人の近くにあり、民間人と戦闘員が混在している場合は、無差別攻撃の禁止や不均衡な攻撃の禁止、さらには予防措置の原則に従わなければならない。しかし、用いる兵器の精度の低さや不正確さ、破壊規模の大きさから、このような都市環境においてこれらの原則を守ることができるかどうかについては、本当に疑問が残る。

都市は、何よりもまず民間人の場所であることを忘れてはならない。民家や民間の建物が軍事行動に使用されているかどうか疑わしい場合、それは民間のものであると見なされるべきである。

2022年、人口密集地での爆発性兵器の使用が、民間人被害の主な原因であることを認める政治宣言が採択された。より多くの国がこの政治宣言に参加し、現在使用されている、そして私たちが目の当たりにしているような民用物の破壊や人的被害は容認できず、変えなければならないという明確な政治的シグナルを示すことを望んでいる。