駐日代表のご紹介

お知らせ
2023.06.01

©ICRC

皆さん、こんにちは。駐日代表の榛澤祥子です。

2023年6月に、11年ぶりの日本人代表として着任しました。

大学と大学院で、国際関係学を専攻し、 人道支援に携わるようになって10年以上。外務省や国連難民高等弁務官事務所、国境なき医師団などに勤務し、世界各地で働く中で、ICRCの業務を近くで見ることがあり、ここで働きたいと思うようになりました。最初は単純に「赤十字のマークのついた車がかっこいい」という憧れから。ICRCは人道原則に徹している団体で、NIIHA (Neutral, Impartial and Independent Humanitarian Action: 中立・公平・独立した人道的な活動)の理念を守ろうとする姿、忠実であろうとする姿勢、これは決して消極的になるという意味ではなく、この理念を守ることによって本当に支援を必要としている人へのアクセスを可能にし、助けることができる団体だと強く魅力に感じ、2019年にICRC駐日代表部で働き始めました。

ICRCの現場

ICRCの真髄を再確認したウクライナでの経験

ウクライナでの短期ミッションでは、捕虜の訪問をする機会がありました。捕虜の訪問は、ICRCならではの活動の一つです。厳しい状況の中でどのように国際人道法に基づいたHumanity(人道)を届けるか。そしてそれをどのように守るか。ICRCの存在意義、Humanity(人道)の重要性を再確認しました。最も印象に残っているのは、赤十字通信による家族とのつながりの維持です。家族から受け取った手紙を捕虜の方へ届けたときの捕虜の方の表情は忘れることができません。普段、当たり前になっているかもしれない手紙を受け取る、送る行為ですが、捕虜の方にとっては、家族から届いたこの一通の手紙が本当に特別で、唯一、自分と家族とのつながりを感じることができるものなのです。

ウクライナ東部ハルキウ州で、現地スタッフと共に食料と衛生用品の配付を準備 ©ICRC

復興という観点からの人道支援/国際人道法の普及

その後エチオピアにも行く機会があり、現場の活動を肌で感じてきました。

停戦合意がされ、復興へ向かっている州の一つである、北部ティグレ州では、多くの保健医療施設が銃撃によって穴が開いていたり、砲撃によって屋根が壊されていました。地域周辺で唯一の保健医療施設へ訪ねた際、一つの部屋には、乳児用の保育器がきれいな状態で保管されていました。しかし、電気が通っていないため使用できません。また、救急車が不足していて複数のコミュニティーがたった一台の救急車を使い回していました。紛争が起きる前までは、多くの命を救っていたであろう保健医療施設が今は機能しておらず、住民全員に対して保健医療支援が行き届かない、アクセスすることができない状況を目の当たりにしました。

また、他の病院へ訪ねた際、そこには、多くの負傷した若い元兵士がいました。車いすに乗る人、廊下にびっしりと並べられたベットに横たわる人。支援や予算が限られている中でどのように活動をしていくか、考えさせられました。

ティグレ州北部にある破壊された保健医療施設を視察 ©ICRC

ICRCの役割の一つとして国際人道法の普及があります。エチオピアでも、現地の同僚が武力紛争の当事者に国際人道法の重要性を説いていました。例えば、紛争当事者が保健医療施設を占領している事案があったのですが、ICRCのスタッフが直接当事者にかけ合ったことで立ち退いてもらうことができました。国際人道法の守護者として、その重要性を理解してもらうこと、そして、それが実際に守られているかどうか見守ることもICRCの重要な役割の一つだと思います。

現場での経験を踏まえて日本でできること

他機関との連携強化を

日本国内における赤十字の認知度はとても高く、赤十字と聞いたら多くの方が日本赤十字社を思い浮かべると思います。私たちICRCと日赤は同じ家族の一員だと考えています。これからもお互いの強みを生かしながら連携していきたいと思います。

また、外務省や防衛省をはじめとする省庁との連携も大事な役割の一つです。ICRCは、日本政府から多くの拠出金をいただき活動しています。私たちは、独自でニーズ調査をおこない、本当に必要とされている支援の提供を赤十字の枠組みの中で全うします。この“独立性”こそが強みだと思います。また、その活動も多岐にわたり、水と住まいを扱う部署や、家族をつなぐ部署など、さまざまな専門性を組織として持ち合わせているからこそできる支援があります。その場その場で必要とされる支援を迅速に届けています。これからも、日本政府をはじめとして日本の皆さんにご支援いただき、駐日代表部を通じて人道支援の現場に還元できればと思います。

世界で唯一の戦争被ばく国として

日本は世界中で唯一、戦時中に核兵器が使われた国です。だからこそ、広島と長崎の被ばく者の思いを大切に語り継ぎ、世界中の人たちに伝える使命を果たさなければなりません。ICRCは、1945年に原爆がはじめて使われて以降、その惨状の目撃者として、核兵器の非人道性に焦点を当てて、廃絶にむけて声を上げてきました。

核兵器をこの世からなくすといっても、そう簡単にはいかないと思います。いかに難しくても、やり遂げられるまで努力を続け、声を上げ続けるべきではないでしょうか。人道支援組織としての矜持はもちろんのこと、被ばく者の方々の思いをしっかりと理解して具現化していきたいと思っています。

日本の皆さんに望むこと

ロシア・ウクライナ間の国際的武力紛争をきっかけに、これまで以上に、紛争への関心が高まっていると思います。これをきっかけに、戦争にもルールがあることを多くの皆さんに知っていただき、そして戦時のルールである国際人道法への興味、関心をもっていただければ嬉しいです。それと同時に、忘れ去られてしまっているその他の国や地域で起きている戦闘、そして人道危機にも光を当てるべく、駐日代表部としても力を入れ伝えていきたいと思います。

エチオピアを含むアフリカの角地域やサヘル地域、アジアではアフガニスタンやミャンマーなど、多くの方々に世界でどういうことが起きているのか、もっと知っていただければ嬉しいです。


榛澤 祥子 (はんざわ しょうこ)

赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表

2019年にICRCに入り、駐日代表部の人道調整顧問として政府をはじめ関係当局との協力を強化。中立・公平・独立の人道の諸原則に基づいたICRCの活動や、国際人道法の普及に努める。2023年6月より現職。

ICRC以前は、外務省や国連難民高等弁務官事務所、国境なき医師団に勤務するなど、10年以上人道支援の分野に携わっている。アフガニスタン、イスラエル・パレスチナ、ミャンマーなどにも赴任。

米国コロンビア大学で国際関係学の修士号を取得。


Shoko Hanzawa

Head of Delegation in Japan
International Committee of the Red Cross

Shoko Hanzawa joined the ICRC in 2019 and was appointed as Head of Delegation in Japan in 2023.

Prior to her current role, Hanzawa was the Humanitarian Affairs Advisor at ICRC Japan and committed herself to gaining support from the authorities and promoting its principled humanitarian action with neutrality, impartiality and independence. She mainly engaged with ministries, the Japanese Self-Defense Forces, parliamentarians, development organizations and other key actors.

Over her 10-year career in the humanitarian field, Hanzawa worked for different organizations, such as the Ministry of Foreign Affairs of Japan, the United Nations High Commissioner for Refugees and Doctors without Borders. She also has professional experiences in foreign missions, including to Afghanistan, Israel and the occupied territories and Myanmar.

She holds a Master’s degree in International Affairs from Columbia University, USA.