ロシア・ウクライナ:紛争激化から2年にわたるICRCの対応

ウクライナ
2024.03.19
支援物資を配付するICRCの職員

©ICRC

ロシア・ウクライナ国際的武力紛争が激化し、2024年2月で丸2年が経ちました。紛争の激化は、民間人・民用物への被害など、現在でも深刻な影響を及ぼしています。そのような状況にも関わらず、現地の人びとは自らを奮い立たせ、たくましく生きています。

ドネツクとルハンスクにおいては、敵対行為が10年近く続けられており、2022年2月に激化した紛争は、死傷者や行方不明者など人道的被害をさらに深刻化させました。

2022年2月24日以降、ICRCはウクライナ全土に計900人のスタッフを配置し、人道支援を必要とする人びとに寄り添い続けています。また、地域社会が復興できるよう支援するとともに、紛争による影響が最小限に抑えられるよう努めています。

受益者の写真

キーウにある被災した家の前に立つライサと夫のイワン。©ICRC

キーウに住むライサと夫のイワンは「私たちは、すべてを失いました。でも、今はただ生きているだけで幸せなんです」と語ります。ICRCは、紛争による被害を受けた人びとが家を建て替えられるよう、建設資材の提供や現金の給付をおこなっています。

ICRCはこの2年間、前線を含むウクライナ全土でさまざまな緊急支援を実施してきました。最前線地域に住む人びとへの食料、水、その他の生活必需品の提供、医療施設には緊急時の備えとして、ニーズの増加に対応できるよう医療物資の支援、人びとが支障なく生活できるように給水所の修理や被災家屋の再建支援を実施し、人びとの生活を支えています。

そして、民間人、捕虜、離ればなれになった家族、死者など紛争の影響を受けた人びとの安全と尊厳を守るため、戦時のルールである国際人道法の普及も積極的におこなっています。

支援物資であるブリケットを配付する様子

ドネツク地域で人びとが厳しい冬を乗り超えられるよう、ブリケットやストーブ、マットレスなどを提供している様子 ©ICRC

ICRC中央追跡調査局は、ロシアとウクライナ双方の国家情報局と協力し、拘束または行方不明になった人に関する情報を家族に提供しています。また、ICRCは中立的な仲介者として、双方の関係当局と協力し、戦死した数百人のウクライナ兵とロシア兵の遺骨の引き渡しもおこないました。

2022年2月以降、私たちは、ロシア・ウクライナ双方の捕虜約2,400人を訪問し、その近況を家族に共有してきました。今後も対話を通じて、すべての捕虜へのアクセスを当局に求めていきます。

ナタリアの写真

「私たちは、捕虜と行方不明者の問題が脚光を浴び続けるように努めていきます」と語るキーウのナタリア・イェピファノヴァ ©ICRC

また、ICRCは国際赤十字・赤新月運動のパートナーと共に、ウクライナや近隣諸国、その他の避難先で、1,160万人以上の人びとにも支援を提供してきました。これは、12万9,000人を超えるボランティアと58の赤十字・赤新月社の職員の努力なしには成しえない成果です。

人道危機は、ウクライナの人びとや紛争の最前線地域に住む人びとに甚大な影響を与えています。そのような複雑な状況において、赤十字・赤新月運動のパートナーと協力し、寄り添い続けることが重要です。2024年になった今でも、ウクライナは世界中で人道支援をおこなうICRCの中で最も支援規模が大きい地域です。私たちは、国際人道法を普及すること、紛争の影響を受ける民間人、捕虜、負傷者を保護し、尊厳を保ち苦しみを和らげること、そして地域社会が再起できるよう、双方の紛争当事者やその他の国と対話を続けていきます。

ウクライナでの活動実績(2023)

離散家族の再会・連絡回復支援
  • 3,947人の行方不明者の家族が愛する人の状況についての情報を得ました。
  • 287人の行方不明者の家族が法的支援を受け、また800世帯が収入面での支援を受けました。また、行方不明者の家族を支える団体に財政面で支援を実施しました。
  • 980人以上の心理カウンセラーに対して、行方不明者や捕虜の家族に心のケアを提供するためのトレーニングを実施。ICRCは、行方不明者や捕虜の家族が個別の相談を受けたり、グループ活動に参加できるよう努めています。
  • 21つの法医学機関およびウクライナ軍(UAF)傘下の捜索・回収チームに遺体の捜査、回収、保管、検査、鑑定を行うための機材や資材を提供しました。
  • 477人の法医学者に対して、死者の尊厳ある管理と身元確認に関する研修を実施しました。
  • 国際人道法(IHL)の普及
  • 1,000人以上のウクライナ軍と国家警察に国際人道法(IHL)、国際人権法(IHRL)、法の執行、敵対行為に関する国際基準、捕虜の保護、行方不明者や被拘束者の保護活動に関するトレーニングを実施しました。
  • 134人のウクライナ最高議会の議員が、国際人道法とICRCの任務に関する入門コースに参加しました。これらの活動は、ウクライナ最高議会の協力のもとで開催されました。
  • 4人の学生が、ICRCの支援を受け、キーウ・モヒーラ・アカデミー国立大学の法学部を代表し、国際法曹協会(IBA)主催の2023年国際刑事裁判所(ICC)模擬裁判大会に参加しました。同チームは、“Best Memorial Overall”と “Best Government Counsel Memorial”を受賞しました。
  • ウクライナの22の高等教育機関から43人の参加者が中立性をテーマとする2023年エッセイ大会に参加しました。
  • 78人の検察官と捜査官がキーウ、チェルニーヒウ、ハルキウで、司法保障と戦闘員特権に重点を置いた国際人道法研修を受けました。
  • 3つの大学が学内に国際人道法センターを設置しました。
  • 救命救急のサービス提供
  • 36の医療施設ならびに病院が、最前線に近い地域からの患者も含め、殺到する患者の治療をおこなうための十分な医療品の在庫を確保するため、医療機器や医療品の定期的な提供を受けました。また、111の施設が緊急時やニーズの高まりに対応するための支援を受けました。
  • 5,700個以上の救急キットが警察をはじめとする、緊急サービス提供者、学術機関、ウクライナ赤十字社に提供されました。また、ICRCは救急救命トレーニングを実施し、参加者全員が緊急時に人命を救うための知識と方法を学べるよう努めました。
  • 52人が救急サービス、病院、ウクライナ赤十字社の緊急対応チームなどを代表し、災害対応のスキルを身につけることを目的とする大量死傷者発生時に関する研修に参加しました。
  • 180,000以上のインスリンバイアルとカートリッジ、600本の注射器、約700台のブドウ糖測定器、65万本以上の検査機器を、医療センター、病院、移動医療ユニットに提供しました。
  • 240,000個以上の食料セットを患者、学生、その他の地域住民の栄養を確保のため、病院や学術施設などの施設に提供しました。
  • 9,000人以上の被拘束者と捕虜がメガネや松葉杖、医療用コルセットなどの医療器具、防寒着、毛布を受け取りました。
  • 500人以上の理学療法士が切断患者の管理についての研修を受けました。また、医療従事者に対しても、同様の実務研修が定期的に開催しました。
  • 87台の障がい者のための車椅子が収容所、病院、医療センターに提供されました。
  • 計10,500人以上の被拘束者と捕虜が17カ所の収容所で、収容状況の改善の伴う恩恵を受けました
  • 民間人の基本的なニーズと安全の確保
  • 320,000人以上の紛争の影響を受けている人びとが食料支援を受け取りました。
  • 270,000以上の衛生用品と防水シート(シェルターに使用される頑丈な防水素材)、毛布、ソーラーランプ、キッチンセットなどの生活必需品が、医療施設や被災コミュニティに提供されました。これに伴い183,000世帯の緊急ニーズに対応できました。
  • 7,000点以上の爆発物処理用の機材を含む技術機材が地雷除去を支援するため、ウクライナ当局に提供されました。
  • 350,000人以上の支援を必要とする人びとが、日々のニーズを満たし、家族との生活を立て直すことを目的に、27億ウクライナフリヴニャ(約103億円)の現金給付支援を受けました。
  • 11,000人以上の爆発性残存物に接触する可能性がある人びと(公共事業の復旧に携わる人、郵便局員、地雷対策組織の職員など)が爆発性残存物に関するトレーニングを受けました。
  • 153,000以上の地雷に関する標識をウクライナ国家非常事態庁(SESU)とウクライナ軍(UAF)に提供されました。
  • 約900の温室システムが、季節を問わず安定して食料を生産できるよう提供されました。
  • 296,000以上の人がICRCのオンライン・チャンネルを通じて、爆発性残存物の危険性ならびに安全な行動に関するトレーニングを受講しました。
  • 10,000以上の世帯、収容所、医療施設、学術施設に燃料、ストーブ、暖房パネルを提供しました。
  • 9,000人以上の子どもが、チェルニーヒウとハルキウにある56の教育施設で、タブレット端末を含む学習用品の提供により、教育を受ける機会を取り戻しました。
  • 65台のサイレンを提供し、地域住民の安全を守る取り組みに貢献しました。
  • 必要不可欠なインフラと住宅支援
  • 4,800,000以上の人びとが、ICRCが公益事業者に提供した支援により、必要不可欠な水、暖房、電気などの公的サービスを改めて利用できるようになった、または利用が改善されました。
  • 敵対行為によって被害を受けた10,300以上の家族が、建設資材の提供や現金給付支援を通じて、適切な住居に住めるようになりました。
  • 762の発電機、変圧器、モーターポンプなどの物資が、病院、拘置所、公益事業者を含むさまざまな機関に提供されました。
  • 4つの収容施設がICRCの支援により全面的または部分的に修復されました。
  • 爆風による負傷を防ぐため、医療施設や学術施設に飛散防止フィルムを提供しました。
  • 赤十字運動パートナーの支援
  • 90人の心理カウンセラーがスウェーデン赤十字社と共催したオンライン研修を通じて、心のケアに関する研修を受けました。
  • 26万個以上の食料と衛生キットがウクライナ赤十字社によって、紛争の影響を受けた人びとの食料および生活環境を改善するために提供されました。
  • 400人以上のウクライナ赤十字社職員とボランティア、教師、ウクライナ国家非常事態庁の職員が訓練を受けました。これにより、24,000人以上の子どもを含む、爆発性残存物に汚染された地域に住む92,000人以上の人びとに、リスクの認識と安全な行動のための研修を提供できるようになりました。また、必要な機材や定期的な指導も提供しました。
  • 72,000件以上の医療相談がウクライナ赤十字社によって、ICRCが支援している29の移動型医療施設で国内避難民や紛争の影響を受ける地域に住む人びとに提供されました。
  • 衛星インターネットアクセスを確保するため、5台のスターリンクが最前線に近い地域にある赤十字社の支部に提供されました。
  • 105,000個以上の建設機材を提供し、ウクライナ赤十字社を通じて被災した家屋や収容所の再建を支援しました。
  • 20の教育施設に救急キットが提供され、学校関係者が救急訓練を受けました