ICRC職員インタビュー ウェン・チョウ 法律顧問 (軍備・戦闘専門)

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2024.08.20

ウェン・チョウ ICRC法律顧問(右)とインタビューをおこなった広報インターンの和田さん(左) ©ICRC

ICRCで働こうと思ったきっかけは?

2013年に赤十字国際委員会(ICRC)職員となり、はや9年となりました。学歴やキャリアを通じて国際法に関わってきたため、国際機関で勤務することを選んだのは実に自然であったように思います。しかし実際のところ、ICRCに入るまでは、国際人道法についてあまり知識を持ち合わせていませんでした。

ICRCで働こうと思ったきっかけは、中立・独立・公平なアプローチに興味惹かれたところが大きかったと思います。同アプローチは、大国間や紛争当事者の政治的対立に巻き込まれることなく、紛争被害者に焦点を当てるものであり、これがどのように機能するのか知りたいと思ったのです。

国際人道法に関する経験はどのように築き上げたの?

修士課程や博士課程で国際法を専攻していました。国際人道法は国際法であるため、その意味では法的な知識基盤はありました。

また、私は国際機関で働くことを目標に掲げていたため、世界銀行のワシントンD.C.本部において2年間の勤務経験があり、ほかにも複数の国際機関でインターンをした経験があります。この経歴により、多様な国際機関の実態とアプローチを知ることができました。

国際人道法の知識は、ICRCの勤務経験のなかで醸成した部分が大きいように思います。北京の地域代表部で企画調整官として国際人道法の普及に携わる職務から始まり、その後、同代表部での法律顧問、そして法務部長というように、段階的に専門性を積み上げてきました。現職に着任した2018年以降は、人道問題を抱える通常兵器から宇宙空間、新技術まで広範囲に及んで国際人道法に関わっています。

©ICRC

どんな仕事をしているの?

ジュネーブ本部には大規模な法律部門が設置されており、そこで、私は宇宙空間における新兵器利用の必要性と戦闘方法、自律型兵器システムやAIの軍事利用といった新技術に関する法的な審査に携わっています。現在、私は4つの分野を担当しており、これらに関するICRCとしての解釈や見解を策定し、政府関係者や専門家が同席する会議でICRCを代表することに加え、担当分野の特定の問題について学者と議論を深めています。

日本は国際人道法を促進するために何ができるの?

現在、武力紛争が発生していない平和な環境下にある学生にとって、国際人道法は最も関心の薄くなりがちな法分野であると思います。しかし、同時に国際人道法のもつ人間中心のアプローチはアジア文化に根を張るものであって、国際人道法は決して遠い世界のものではありません。日本人は世界で進行している紛争の苦しみに寄り添うことができますが、この体験が国際人道法に対する世間一般の関心を高めることに繋がっていくと思います。また、宇宙産業をはじめとする高度な技術を誇る日本は、新しい技術という観点を皮切りにして国際人道法に注目するのも良いでしょう。

また、学生には模擬裁判(ムートコート)という機会があります。模擬裁判に参加する際には、必ずしも初めから国際人道法に強い思い入れを持っている必要はありません。法を適用する練習としてこの機会を活用していくことで、国際法に関連するキャリア形成と国際人道法への関心を開いていくことになります。英語の運用能力が高まるという点も利点となるでしょう。

ICRCや国際機関で法務を担うことを志す若者へメッセージ

このような道を志すうえで、多くの困難に乗り越えねばなりません。ジュネーブ本部の法務部において、若手に向けた1年契約の雇用制度ありますが、終了後の雇用が約束されるものではありません。とはいえ、自分に最適な国際機関を見定めるために、NGOや国際機関のインターンをいくらか経験して視野を広げておくのが良いでしょう。

また、国際機関で法務を担当するとなれば、自国のみならず世界を相手に競争することになります。文書作成能力を含む法的スキルや知識、語学力、政治的感覚(政府関係者との対話も多いため)が求められるでしょう。ICRCでの法務を希望しても、代表部の法律顧問あるいは人道支援の現場での経験がキャリアの入り口になります。とても長い道のりです。

それゆえ、3つのPが必要になるでしょう。これは私のかつての上司からの受け売りですが、忍耐(patient)、粘り強さ(persistence)、情熱(passion)が肝心です。「忍耐」は自分の快適な環境から抜け出すこと、「粘り強さ」は自身の選択を貫くこと、「情熱」は自身の興味関心に基づいて仕事をこなすことです。