国家の共同責任:国際人道法の維持と強化
第二次世界大戦の反省と教訓を踏まえて4つに発展したジュネーブ諸条約。「国際人道法」の軸であるこの条約が採択されて75年を経た今、武力紛争の数は増え、民間人は大規模な攻撃の犠牲になっています。赤十字国際委員会(ICRC)が懸念するのは、国際人道法が平和で安定した時代に採択されたに過ぎず、安全保障上の脅威が高まったり、武力紛争が勃発したりした場合に放棄される文書とみなされることです。これは、国際人道法の概念全体と根本的に矛盾することになります。
しかし現在、まさにそのような兆しが見られます。
リトアニア議会はクラスター弾に関する条約からの脱退を決議し、条約そのものにとどまらない歴史的かつ懸念すべき前例を作ってしまいました。
国際人道法を維持し強化することは、すべての国家の連帯責任です。国際情勢を見れば、確かに安全保障環境が絶えず変化し、世界中で数多くの武力紛争が発生しています。とはいえこれまで、人道上の懸念から、兵器の種類全体を包括的に禁止する5つの多国間条約(クラスター爆弾禁止条約、対人地雷禁止条約、生物兵器禁止条約、化学兵器禁止条約、核兵器禁止条約)から脱退した国は一国たりとも存在しませんでした。
こうした条約が採択されたことで、何万トンという化学兵器や何億個という対人地雷・クラスター弾が廃棄される運びとなりました。第一次世界大戦にみられた「毒ガス戦争」の再来に歯止めをかけただけでなく、何十万もの民間人を対人地雷やクラスター弾による無差別の被害から守ってきたのです。苦痛を軽減し、民間人を保護し、戦争がもたらす影響を緩和しているのです。これらの条約は、先の二つの世界大戦の苦渋に満ちた経験の上に築かれた戒めであり、国際社会は二度と同じ過ちを繰り返さないと決意しています。
国際人道法は、平和な輝かしい日々における適用を想定して作られたものではありません。武力紛争が激化し、人びとが危急存亡に瀕するような、人類の最も暗黒な日々のために作られたのです。弱い立場に置かれた人びとの安全を守り、戦争の恐怖を和らげるジュネーブ諸条約をはじめとした世界共通の約束事から、国家が離脱する道を選ばないこが大切です。
ミリアナ・スポリアリッチICRC総裁
ICRCはすべての国家に対して、以下のことを訴えます。
- 国際人道法関連の条約からの脱退を控えるとともに、現在進行中の脱退手続きを直ちに停止すること。
- 国際人道法の価値と意義を公の場において再確認し、国際人道法を揺るがし弱体化するような国家行為を阻止すること。
- 武力紛争における国際人道法の役割と機能に対する国民の認知を向上させ、国際人道法違反のリスクについて国民の理解を促進すること。