現場で働く日本人職員:上城貴志(フィールド要員)インタビュー
―アフガニスタンではどんな仕事をしていたのですか?
Detention Delegateという役職で、アフガニスタンの収容所を訪問して、建物の設備などが国際的な基準に見合っているかをチェックしたり、拘束されている人たちの生活環境をモニタリングします。もし個人的なケアが必要な人がいれば、状況に応じて対応していきます。他にも、コミュニケーションが断絶された被拘束者と家族の間の連絡を取り持つという重要な役割を担っています。赤十字通信という手紙のフォーマットを使って家族と便りを交わしたり、面会に来たくとも、治安の問題や交通手段がなくて収容所を訪れることができない人たちにはビデオ電話を通じて家族とのコミュニケーションをとれるようにしています。収容されている人たちにも家族と連絡をとる権利が保障されなければいけないからです。アフガニスタンでは様々な省庁が各々異なる収容所を管轄しています。刑務所のタイプにもよりますが、大部屋に定員を超えて雑魚寝状態だったり、2人部屋にきちんと2人のみが収容されている場合もあります。ただ、本当に刑務所によって状況が異なっていて、被拘束者が料理を作れるところもあれば、被拘束者の家族が自由に差し入れできるところもあります。携帯電話やインターネットを使えるところもあり、アイスクリームを売ってたりもするんですよ。
―ICRCの職員になろうと思ったきっかけは?
フィールドに行って人道支援をしたいという思いが昔からあったんです。ICRCに来る前はオフィスでの仕事が多かったので、行動するなら今だと考え、3年前に応募しました。
フィールドでは、実際に相手の顔を見て、直接働きかけることができます。それが、やはりオフィスワークとの大きな違いですね。アフガニスタンでの勤務は、2014年8月から2015年9月までの一年間でした。
―拘束されている人たちと接触して、どういうことを感じますか?
アフガニスタンでは、女性が基本的に外に出てはいけないので、男性が仕事から、日常のすべてを行わなければなりません。男性が拘束されてしまうと、残された女性や子供は生活をしていくうえでなす術がありません。被拘束者の方からは、そうした家族を心配する声をよく聞きます。お金もないし、食べ物もない。助けてくれ、と。しかし、実際ICRCが家族に対して援助することはできないので、話を聞くことしかできません。聞くときにいつも頭に入れているのが、Empathy(感じ取る心)という気持ちを持つことです。相手がどういう風に思っているかをなるべく自分も理解するような気持ちでお話を聞きます。自分の思いも相手に伝わるように気にかけています。
例えば、残された家族には妻と子供しかいないから家計が危ないとか、自分の代わりに役所に行ってほしいなどと言われました。しかし、ICRCにできることは収容所の中で困っていることがあれば、その状況を改善するように当局に働きかけることと、家族とのコミュニケーションを取り持つことです。できないことはできないと言わなければならないと、仕事をしていくうちに学んでいきました。
―女性が収容されている場合はありますか。
あります。ほとんどは男性なんですが、女性もいます。女性専用の房があって、通訳の同僚が女性だったことからその房へ視察に行きました。数としては少なくて、全体で2000人いるようなところであれば、女性は1%程度え。アフガニスタンの社会では、女性が罪を犯すことは家族の名前を傷つけるということになるので、その影響で家族が、罪を犯した女性の子供の世話をしなくなります。そうすると、家族から断絶され、子供は母親と一緒に収容所で暮らさなければなりません。そうなると収容所でのサポートが必要となりますが、収容所ではミルクや離乳食を準備していないケースが多く、ICRCが援助をしていました。
―収容所で働くチームの構成について教えてください。
基本的にDetention DelegateとProtection Delegateとアフガニスタンの現地の言葉の通訳が中心となってチームを構成します。しかし、収容所にはクリニックなど専門的な設備も含まれるため、専門家が同行することもあります。クリニックの視察にはICRCの医師が同行しますし、水道の維持管理にはエンジニアが同行します。ただ、安全上の問題から現地のアフガニスタン人はチームの一員として収容所に行くことはできません。したがって、チームはアフガニスタン人以外で構成されています。
―共同生活をする中でどのようにストレスを発散させますか。
治安の問題で外出することができなかったので、ICRCの事務所内でストレスを発散させていました。ミニシアターやジムなどの設備があり、利用していました。他にも、職員が集まって料理をしたり、ピザ窯があったのでピザを焼いたり。いろいろと工夫して気晴らしをしていました。5週間か6週間に一度、長目の休みをもらうのですが、職員はその時に国外に出たり、母国に帰って休憩をとったりしています。
―中立や公平を肌で感じた体験があれば聞かせてください。
仕事の際には、アフガニスタン政府だけでなく、反政府勢力とも話し合いますが、双方を和解させようということはしません。どちらの肩を持つこともありません。加えて、収容所の視察の後、問題が見つかったときに、他機関はそれをレポートとして公開することがありますが、ICRCは自分たちが収容所内で見聞きしたことを世に出すことはせず、収容所の管理当局と話し合いをして、改善を促します。私たちは当事者のあなたたちと会話をして、善後策を話し合うけれど、ここでの話は他の人にはしませんという立場で仕事をしています。どの組織、勢力ともそうした立場を貫くので、そこに中立性を感じますね。
―非公開の原則の下、管理者と問題点を話し合う中で、実際なにか変化はあるのですか?
詳しいことは言えませんが、収容所内での扱いをめぐって、被拘束者の権利を侵害しているケースがあったので、管理当局と粘り強く話し合いを続けた結果、次第に状況が改善されていきました。また、当局に対して被拘束者の家族に連絡を取るように促したことで、家族は身内の所在や安否を知ることができるようになったケースもあります。連絡先が分からない場合は、ICRCが家族の居所を突き止めて当局に伝える、といった関係も構築していきました。
―今後ICRCで働きたいと思っている人にアドバイスを。
ICRCの確固とした活動理念は、実際のフィールドでの活動にそのまま形となって現れます。自分がやっている仕事の成果が目に見える活動なので、魅力のある仕事だと思います。ICRCにはいろいろな部門があって、職種によって活動が異なります。収容所訪問や生活の自立支援、水・衛生環境の整備、女性や子供、避難民・難民など民間人の保護、軍や武器携帯者への法的アドバイス、医療・保健事業、広報などなど、現場の人道ニーズに応えるべく、多岐にわたり活動しています。各国赤十字社や赤新月社を含む「赤十字運動」との連絡・連携を調整をする部門ももあります。さまざまなバックグラウンドを持つ人が、自分の可能性を伸ばし、能力や専門性を発揮できる職場としてとらえてもらえればと思います。