核兵器禁止条約はなぜ重要なの?
2021年1月22日、核兵器の禁止に関する条約(核兵器禁止条約)が、核兵器の使用と実験による壊滅的な人道上の被害を軽減する国際人道法上初の法規として発効しました。
これは、人類の勝利にほかなりません。この活動に数十年にわたって取り組んできた人々にとっても、間違いなく2021年最初の良いニュースのひとつとなったことでしょう。ICRCのマグナス・ロボルド核兵器担当政策顧問は、なぜこの条約が重要なのか、条約発効によって何が変わるか、そして今後どうなっていくのかを以下に解説します。
1.核兵器禁止条約を批准した国は?
2024年8月5日の時点で、世界70の国と地域が批准または加入しています。
アンティグア・バーブーダ、オーストリア、バングラデシュ、ベリーズ、ベナン、ボリビア、ボツワナ、カーボベルデ共和国、カンボジア、チリ共和国、コモロ連合、コンゴ共和国、クック諸島、コスタリカ、コートジボワール、キューバ、コンゴ民主共和国、ドミニカ、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、フィジー、ガンビア、グレナダ、グアテマラ、ギニアビサウ、ガイアナ、バチカン、ホンジュラス、アイルランド、ジャマイカ、カザフスタン、キリバス、 ラオス、レソト、マラウイ、マレーシア、モルディブ、マルタ、メキシコ、モンゴル国、ナミビア、ナウル、ニュージーランド、ニカラグア、ナイジェリア、ニウエ、パラオ、パレスチナ、パナマ、パラグアイ、ペルー、フィリピン、セントクリストファー・ネイビス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、サモア、サンマリノ、サントメ・プリンシペ民主共和国、セイシェル、南アフリカ、スリランカ、タイ、東ティモール、トリニダード・トバゴ、ツバル、ウルグアイ、バヌアツ、ベネズエラ、ベトナム
ICRCは各国に対して、この条約を批准または支持するよう働きかけています。すべての国がこの条約に参加するまで、私たちの仕事は終わりません。
2.条約によってどんなことが違法になりますか?
核兵器禁止条約(正式名称:核兵器の禁止に関する条約)の発効は、核兵器の使用、使用するとの威嚇、開発、実験、生産、製造、取得、保有または貯蔵を禁止します。加えて、いかなる人に対しても、またいかなる方法においても、条約で禁止されている活動を行うことを援助、奨励、勧誘することは法に反することになります。
2021年1月22日から条約の効力は発生し、批准または加入した68の国や地域に対して法的拘束力を持ちます。また将来、他の国や地域が加入した場合、それらに対しても同様の拘束力を有します。
この条約は、特に核兵器の実験や使用による犠牲者を援助し、汚染地域を除染することを各国に要求することで壊滅的な人道上の被害を軽減するための一助を担う初の国際法規です。論理的根拠にかかわらず、核兵器のいかなる使用も容認できないという、国家や市民社会など国際社会の力強い共通理解を法制化したものです。
核兵器禁止条約は、核兵器の使用を明確に禁止することにより、その使用が道徳的および人道的観点から容認できないだけでなく、国際人道法の下でも違法であることを断固として明確に示しています。
3.核兵器禁止条約は、各国に核兵器を廃棄する義務を課すものですか?
答えは、「はい」でもあり、「いいえ」でもあります。前述した通り、核兵器禁止条約の発効は、条約の諸規定が、批准または加入した国に対して法的拘束力を持つことを意味します。核兵器を保有する国は、条約に加入する前に核兵器を廃棄するか、あるいは、核兵器計画を検証できる形で、また後戻りなく廃止するための“法的拘束力を有し、期限が定められた計画”に従って、核兵器を廃棄することを約束するか、いずれかに応じる必要があります。
ですが、条約が効力を発揮するためには、核保有国の条約への参加が必須となります。しかしながら、それはまだ実現していません。
4.核兵器禁止条約が発効した今、具体的に何が変わるのでしょうか。核の脅威はなくなっていくのでしょうか?
すでに国際社会は、核兵器の使用を容認しない姿勢を強く示しています。このようにタブー視することが、核兵器を道徳的、人道的、そして今や法的な観点からも容認できない戦争手段として烙印を押すことにつながりました。そうしたこともあって、1945年の広島と長崎への原爆投下以来、核兵器は使用されていません。
ですが、核兵器が存在する限り、事故や誤った判断によって、または故意に再び使用されるリスクがあります。そして今日、核兵器使用のリスクはますます高まっていると私たちはみています。
ここで私たちは勘違いをしてはいけません。核兵器禁止条約の発効は重大な成果であり、私たちは意義深い勝利を手に入れましたが、これで終わりではないのです。核兵器の使用をタブーとする風潮をより強化する取り組みの、新たな幕開けなのです。核兵器禁止条約が明日「核兵器のない世界」に導くと期待したなら、それは幻想に終わるでしょう。むしろ、核兵器禁止条約は、核軍縮・核不拡散を目指した長期的な取り組みにおける人道的、道徳的、そして、法的な出発点と見なされるべきです。国際法とはそのようなものです。
とはいえ、過去のさまざまな兵器にまつわる禁止条約の規範は、締約国ではない国の政府、企業、銀行の政策や方針にも影響を与えてきました。核兵器禁止条約の禁止規定は、「核兵器のない世界」に向けたすべての努力の判断基準であり、明確な基準となります。
5.核保有国はいずれもこの条約に署名していません。この条約は彼らにとって何を意味するのでしょうか?
核兵器禁止条約は、核兵器の使用をタブーとする風潮をより強めます。よって、核保有国に対しても、特に核兵器不拡散条約(NPT)に基づく国際的な公約と義務に沿って核兵器を削減し、廃絶するよう圧力を強めます。
条約はまた、核兵器の禁止と廃絶を訴える関係者が影響力を発揮するための頼もしいツールとなります。「核兵器のない世界」の実現に向けては、そこにたどり着くまでの期間にかかわらず、核兵器を違法とする明確な規範が必要になります。
6.それでも核攻撃することを決定した国はどうなりますか?
核兵器の使用がもたらすかもしれない前例のない規模の人道上の大惨事を考えると、核攻撃に対して世界中から非難が集中し、同時に世界を恐怖に陥れることになるでしょう。
核兵器がこの78年間使用されなかった大きな理由は、核兵器が壊滅的で対処不可能な被害をもたらすからです。
ICRCがかつて断定したように、壊滅的な人道上の被害をもたらす核兵器が国際人道法に則って使用可能であるとはとても考えられません。だからこそ私たちは、核兵器の使用や実験が行われる可能性を断つことで、そもそも核爆発が起こらないよう今行動しなければならないのです。
核兵器禁止条約の発効は、「核兵器の終わり」のほんの始まりです。私たちの努力が終わったわけではありません。
7.核兵器不拡散条約(NPT)との主な違いは何ですか?NPTでは実現できなかったことで、核兵器禁止条約で実現したことはありますか?
核兵器禁止条約は、核兵器廃絶への道筋を示すことによって、NPTの軍縮義務の履行を後押しする確かな一歩となります。核保有国に対して武装解除や最終的には核兵器廃棄の法的義務を課す代わりに、NPTは非核兵器国が核兵器開発の選択肢を放棄する「グランドバーゲン」(一括交渉の場)と見なされています。
対照的に、核兵器禁止条約は、条約に加入した時点で核兵器を保有しているかどうかに関係なく、すべての締約国に対して核兵器を全面的かつ包括的に禁止します。
さらに重要な違いは、NPTが核兵器の譲渡、製造、取得に重点を置いているのに対し、核兵器禁止条約は核兵器の使用をも禁止している点です。
8.核兵器禁止条約は、NPTを弱体化させませんか?
核兵器禁止条約は、NPTを弱体化させるどころか、NPTの核軍縮・核不拡散の目的を補完および支援します。実際、核兵器を明確かつ包括的に禁止することで、核兵器の拡散を止めることとなります。また、核軍縮に向けた効果的な措置について、交渉を行う義務を課すNPT第6条の履行を後押しする確かな一歩となるものです。
核軍縮努力の根幹としてのNPTを守るという意味では、その第6条の義務、特に2010年のNPT再検討会議の行動計画に示された、軍縮とリスク削減の約束が確実に、また完全かつ効果的に実施されるように注力していく必要があります。
9.核兵器との闘いにおいて、次に来るのは何でしょう?
核兵器禁止条約の発効は、「核兵器のない世界」の実現に向けた取り組みの新たな始まりに過ぎません。私たちは、今後数年から数十年にわたって、この条約の禁止規定への支持を取り付けるために働きかけていかなければなりません。これが当座の任務です。一つ一つの署名や批准によって、この条約はより効力を発揮することができるようになります。この条約の諸規定が締約国によって確実に、また忠実に実施されるようにしていかなければなりません。
さらに、核保有国やその同盟国に対して、特に核兵器を「高度警戒態勢」から解除すること、そして自国の安全保障政策や軍事ドクトリンにおいて核兵器が果たす役割を縮小させることにより使用されるリスクを低減する措置を取るよう、引き続き求めていかなければなりません。いずれはこの条約への署名・批准を行うよう、必ず訴えていきます。
事実上、核兵器禁止条約の発効がその履行を推し進めるでしょう。締約国には1カ月以内に核兵器を保有しているかどうかを申告してもらい、保有している場合は核兵器を廃棄する計画を説明する義務が生じます。
締約国は第一回会議を、条約発効から12カ月以内に開催する必要があります。この会議は、より多くの締約国が一堂に会する場となるとともに、核兵器の実験や使用の犠牲者・被ばく者を最も効果的に支援し、また放射線で汚染された地域を修復する方法を議論する重要な機会となるでしょう。
最後に、核兵器の禁止・廃絶が必要とされている最大の理由は、こうした人々が被った苦しみと破壊が示す証拠があるからです。そのことを忘れてはなりません。したがって、私たちは核兵器の壊滅的な人道上の被害、および、こうした比類なく恐ろしい兵器から現在および将来の世代を守らなければならないと訴え続けていかなければならないのです。
核爆発による壊滅的な被害に備えることはできません。対処できないのなら、そうした事態を招かないようにしなければなりません。これまでに68カ国(2023年8月時点)が批准または加入しました。すべての国がこの条約に参加するまで私たちの仕事は続きます。
―核兵器が存在する限り、再び使用されるリスクがあるのです―
10.なぜ核兵器を禁止する必要があるのですか?
核兵器は、とても受け入れることのできない人道上の被害をもたらし、人類に脅威を与えるからです。現実は火を見るより明らかです。核兵器の使用による被害への対処を国際社会が期待したとしても、到底無理な話です。
核爆発によってもたらされる人道上の大惨事に対応する備えができている国など存在しません。その影響、特に風下に運ばれる放射性降下物を、一国内に封じ込めておくことはできません。
同様に、核兵器が特に人口密集地域内またはその近郊で爆発した場合、直後にやってくる人道上の緊急事態や長期的な影響に適切に対応でき、また、被害を受けた人々に十分な支援を提供できる国際団体などありません。たとえ試みたとしても、核爆発によってもたらされる大規模な苦しみと破壊に対応できるだけの態勢を整えるのは不可能でしょう。
11.核攻撃に見舞われた場合、具体的にどのような影響が生じますか?
第一に、核爆発によって発生する爆風、熱波、放射線、放射性降下物が無数の人々の命を奪い、人体に短期的・長期的に計り知れない影響を及ぼします。既存の医療サービスには、そうした事態に効果的に対応できる機能は備わっていません。
次に、核兵器が特に人口密集地域内またはその近郊で爆発した場合、大規模な国内避難民が発生するとともに、環境や、インフラ、社会経済開発、社会秩序を長期的に損なう可能性が高いでしょう。インフラや、経済、貿易、通信設備、医療施設、学校を再建するには数十年かかることが予想されます。
最後に、現代の環境モデリング技術によると、約100発の核兵器を限定的に使用した場合でさえ、世界中に放射線が拡散することに加えて、気温の低下、農作物の生育期短縮、食料不足、ひいては世界的な飢饉がもたらされることは明らかです。だからこそ、核兵器は国単位ではなく、人類全体にとっての脅威となるのです。
12.より多くの国が核兵器禁止条約を批准するよう支援するために、私たちひとりひとりにできることはありますか?
私たちは、核兵器の問題を自分が所属する市民団体や宗教団体など、さまざまな社会団体において議題に取り上げること、この問題を提起しているICRCの記事をSNS上で共有して広めること、また核兵器にまつわる懸念を地元のメディアと共有することで、今私たちがどのような危機に瀕しているのか、世間の見識を広めることができます。
「―私たちは、核兵器の壊滅的な人道上の被害についてメッセージを発信していきます―」
皆さんそれぞれが自分が暮らしている国や地域で、国のリーダーや彼らに影響を与えることができる人々に対して、核兵器の削減・廃絶という長年の悲願を果たし、核兵器禁止条約に参加し、また核兵器が使用されるリスクを減らすために、今すぐ行動するよう求めていってください。
核兵器禁止条約の発効に寄せた、被ばく者のサーロー節子さんと下平作江さんのメッセージはこちら。
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